パレードが過ぎた朝に
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「靭帯切っちゃって、全治六ヶ月」
監督と同じ言葉を告げた。もの食いながら言うようなことじゃない。
とにかく顔がみたくてチャリをすっとばしてきたけど、六ヶ月ってお前、県大会予選は今月からだし、ユースとか、スカウトきてたプロチームだってどうする気だ。
あまりにもケロッとしたキヨの顔をみたら、喉の奥がつんとした。水分が競り上がってくるのを感じて、鼻をすする。
まばたきをしたたれ目が、潤んでるような気がした。
「…お前、怪我したんだな」
「…うん」
「六ヶ月はサッカー、できないんだな」
「そうらしい」
いつも無口で無表情で、なにを考えてんだかわからない幼なじみ。
だけどなんでおれは、わかってしまうんだろう。
ケロッとなんて、していない。
夢みたいでどう受け止めたらいいかわかってない、顔だ。
サッカーできないなんて、まさか。
冗談が過ぎる、悪い夢。
言葉にすれば、醒める。夢であればどんなにいいか。
林檎の蜜で濡れた唇を少し噛んで、キヨは声を漏らした。
「うん、そうなんだよな」
まばたきをもう一つして、転がった小さな声はあまりにも弱々しかった。
まるで、サッカーと出会う前の、おれの後ろばかりついてきた、小さなキヨちゃんの声みたいだ。
「痛い?」
「…うん、痛いな」
「しんどいな」
「ん…」
「ちゃんと治せるよ、大丈夫」
「うん、治す」
目尻にたまってた涙が、やっと落ちた。
声も立てずに頬をぬらすキヨのそばで、おれはただ途方に暮れていた。
今痛いのはキヨで、しんどいのもキヨで、戦うのはキヨだ。
そこには誰も立ち入れない。抱きしめるのはなんとか我慢したけど、まずいと思った瞬間にはもうしゃくり上げていた。
立ち入って抱きしめてやるだけが方法じゃないって、兄貴に教えられたばかりだ。
大事なひとが苦しんでいたら。いったいどうするのが正解なんだ?
教えてくれよ、兄ちゃん。
こんなにももどかしい。役に立たな過ぎる自分が悔しい。
目の前のこいつが、安心して背中を預けられるようなおれになりたい。
兄貴やキヨに頼ってばかりの今のおれからは程遠いってってことはうっすら見えてきた。これからが踏ん張り時だってことも、なんとなく分かってきた。
ずっと一緒に、いられるように。おれはちゃんと、一人で立たなければいけない。