パレードが過ぎた朝に
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兄貴はぜんぜん、わかってない。
おれがいつまでも後をついてくだけの小さな弟じゃないってこと。
言われたことを疑いもせず、ただ信じて頷くような純真さなんてもうとっくに持ってないってこと。
だから、兄貴がいくら否定したって意味がない。
冗談だろ、なんて笑うな。
小さなガキにするみたいに頭を撫でてくるその手を掴んで、身動きとれなくしてやることだって、できるんだ。
今更焦った顔したってだめだ。そういう顔が、おれみたいなやつを煽ってるってことにいい加減気づいたほうがいい。
やめろ、とまだ動いている唇を噛み付くように塞いでやった。
手が緩んだ隙に、胸をドンと押されて離れた体。荒い息をついた兄貴は、怒るでも逃げるでもなく、まっすぐにこっちを見つめる。
何て声をかけようか、言いあぐねているようだったがその黒い瞳が逸らされることはない。おれとはぜんぜん似ていない瞳の色。
整った顔が急に揺らいだ。
「…泣くな」
「泣いてねえ」
「悪かった」
「泣いてねえってば!」
「ユウ」
昔みたいな呼び方すんな。
そう言ってやりたかったが言葉は兄貴の肩のあたりに吸い込まれた。昔みたいに抱き寄せられて、やっぱり落ち着いてしまうなんておれはまだガキなのか。
認めたくなくて口をつぐむ。
「…好きなんだ」
出てくる言葉はそれだけで。
黙って兄貴は、おれの背中を軽く叩いた。
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