パレードが過ぎた朝に

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結論から言うと、会いに行ったのはそれから四ヶ月も経ってからだった。







それまでの間、部活では派手なヘディングをよく決めるようになった。

エースの姿をボケッと眺めていたら、顔面にボールがよくぶつかった。とも言う。
桜なんかいつのまにか散ってた。



この時期になると、部活に参加してる人数がだんだん減ってくる。
強豪であるうちのサッカー部の新入部員は、たしか70人くらいはいたはずだ。でもたぶん、今残ってるのはその半分くらいだろう。

「ユタカ、ほんとどうしたんだよ」

鼻血を出したおれに氷を渡してくれたのは、オダシマだった。
キヨとツートップのポジションを努める部長。180以上あるでかいこいつが目の前に立つと、日差しからすっかり隠されてしまう。

逆光になって表情はよくみえないけど、お説教だっていうのは声音でわかる。


「どうしたんだろう」
「…聞いてんのは、おれなんだけど」
「…だよねー」
「ああっ!上向くな」
「ッ、うわ、げほっ」
「しょうがないな。しっかりしてくれよ」

血が喉に入ってきて思いっきりむせたおれの、首を支えて下を向かせた。

「お前が中央でぼんやりしてると、おれとキヨが前出づらいんだよ。たのむぞ」
「…ハイ」


頭を固定されたまま返事をすると、急に影が濃くなって、オダシマの体が勢いよく近づいた。







「違うー!」


「痛っ!こらやめ、ミズサワ!」
「違います!ぶちょー、それ言い方違いますって」
「わかったから、それ痛いっ!」


背後からオダシマをペットボトルで攻撃したのは二年のミズサワだった。おれと同じポジションの、かわいい後輩。
おれが寄りかかってた壁に手をついたオダシマは一応部長だけど、背中に容器をぐりぐりと押し付けて、遠慮がない。


「ユタカ先輩が真ん中で全体見てくれてるから、オダシマ先輩たちが思い切った攻撃に出れるんですよ!ってことですよ!」
「あーもう…わかったから!やめろってまじで、痛い」
「だってまじで、ユタカ先輩ってぜったい背中にも目ありますもん」
「なにそれ、おれの?ちょっと気持ち悪くない」
「やー、謎のタイミングであがれとか言うから、まじかよって思ってましたけど。言われる通り走ればきますもん、ボール」
「…だな。でも、最近目ェ閉じてるよな」
「だからって、言いかた…んむっ」
「なんか、気になることとかあるのか?悩みとか」


ミズサワの口を手で塞いで、オダシマが尋ねてくる。
心配、させてんだよな。二人とも。高校最後の年だ。ボケてる暇は、ほんとにない。

「ごめんな、ありがとう。悩みとかじゃない、集中してなかった」
「ユタカ先輩、かわい…っうぐ」
「戻れ、お前は練習」

膝をついておれに抱きついてきたミズサワを容赦なく引き剥がして、オダシマは腰を下ろした。
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