パレードが過ぎた朝に

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「もしもし兄貴?着いた」
『おう、久しぶり』
「着いたってば」
『え?』
「迎え来て。駅」
『迎えって…今いんのか、こっちに?』
「うん」
『え、どうした、急に』
「…」
『ユウ?』


外にいるらしい、車の音も聞こえる。男の声もするが、友達と一緒にいたんだろうか。

『駅だな。今行くから、待ってろ』
「…」
『西口のほうにいろよ』
「…わかった」


部活のあと、勢いだけで新幹線で乗ったはいいが、久しぶりに聞く声に、喉が動いてくれなかった。

話すのもあれ以来だ。去年の夏に帰ってきたときに、ひどい言葉をぶつけたとき以来。会ったらまずは、謝らないと。




改札を出て、でかい歩道橋の上から街を見渡す。

地元と違って、ビルばかりで山が見えない。沈んでいった太陽も見えなかった。
夜の大通りは人も車もひっきりなしに行き交っている。
活気があるようにみえる、兄貴が住んでる街。知らない街。
人ごみのなかに明るい色が光った。


前に会ったときよりも少し痩せたみたいで、大人に近づいた輪郭が余計に格好良くなってる。
でも、一緒にきたらしい友達に向けてるその笑顔は、むしろちっちゃい子供みたいだ。
安心しきって、楽しそう。
子供のころだってみたこともないような、顔。

すげー、楽しそう。

さっき視界に入った明るい色は、隣を歩く男の髪の色だったようだ。


交差点で二人は別れた。
軽く手を挙げた長身の二人は、まるで映画かなんかの中にいるみたいだった。
周りを歩いてる人たちも振り返りながら過ぎていく。

茶髪の男は、いつまでも兄貴を見送ってる。
なんかあれだ、王子サマみたいだ。
兄貴と同じような背丈。日本人離れした長い手足と白い肌で、明るい髪の色がごく自然に馴染んでる。
とんでもない美形のキラキラ王子。


まるで、鏡をみているようだった。
もちろん、恵まれた容姿と重なるとこなんてなんにもないけど、その表情をおれは知ってる。


近くにいた女の子たちが顔を赤くして盛り上がってるのはまるで気づいてないみたいだった。

男がやっと踵を返すのをみて、おれも我に返る。

こっちに気づいていない兄貴を追いかけるため、階段を駆け下りた。
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