ICE CANDY BABY
□ホントあいつ、嫌い!
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「なーなーフルダテ!なーってば!」
「あんだようるせーな!」
教室のドアんとこででかい声張り上げたのは、おなじサッカー部のミズサワだ。
おれの名前を呼びながら、ズンズンと近づいてくる。
声でけーんだよ。つうか、どーせ席まで来るならそんな呼ぶ必要ねーだろ。
「今日おれんち来るだろ?」
「はあ?なんでだよ」
「ヨーロッパのリーグ、今日深夜放送だぞ。観てえだろ?」
「み、観てえ!観れんのお前んち?!」
「おー、ケーブルテレビ入ってるからな」
「まじか!行く行く!」
一気にテンションが上がるおれ。
おれが昔から好きなチームは、悲しいことに最近あまり人気がない。だから、ケーブルテレビ以外で放送されることはほぼ無い。
諦めてた試合が、観れる!!
ミズサワも、ニイッと笑顔になった。
顔あわせればケンカしかしないこいつとも、サッカー大好きってことだけは一致してる。
「フルダテ、おれんち来たいの?」
「ん?うん、行くって。ちょー楽しみ」
「………」
「え、なんだよ」
ミズサワがさらにニッコリ笑って、おれの肩にポンと手を置いた。
「フルダテ。それが人にモノを頼む態度?」
「はあ?お、お前が誘ったんじゃんかよ!」
「そう、誘ってやったんだよ。おれが、わざわざ」
「まじ意味わかんねーし!」
「観たくないっつうなら、いいけど」
……………………絶対、観たい。
「じゃあおれんち、来たいよな。フルダテ。言ってみな」
「お…おねがい、します」
「却下」
「オイ?!」
「かわいくないから、却下」
「はあぁ?!な、なんだんだよお前まじで!つか、かわいくって何?!」
「もうちょっとさあ、かわいさプラスしておねだりしてみろよ。そしたら、叶えてやらんこともないのに」
カワイクオネダリ??
どういうことだ?お願いミズサワくん☆みたいな、そーゆうことをかわいく言えと?
「……それってつまり、もともと叶える気ねえだろ!!」
「はは!そうだよな、フルダテがかわいくなんて、ぜってー無理だよな!」
「何なんだよお前は!むっかつく!!」
掴んだままだったおれの肩をバシバシ叩きながら、ミズサワは大笑いしてる。
ちくしょー!そうだよ、こいつがおれを家に招くなんて、あるわけねーんだ。
「もーいーよ、お前んちなんか行かねーから、さっさと自分の教室戻れ」
「なに、拗ねてんの」
「拗ねてなんかねーし」
「かわいくねーの」
言い返す気力もない。
「おい、シカトこいてんじゃねーよフルダテ」
どーせ観れない試合なんだから、なるべく考えないようにしてたのに!ぬか喜びさせやがって。ああもう、目から鼻水出てきた。
机に突っ伏すと、上から伸びてきた手に髪の毛をぐちゃぐちゃにされた。
「ミズサワまじ消えろ」
しつこく頭をいじってくる腕を掴んで、一睨み。
目が合うとミズサワは一瞬だけ黙ったが、また腹をかかえて盛大に笑い出した。ホント、こいつ嫌い。
「今日、10時におれんちな。部活終わったら一回帰るだろ?」
「…はぁ?」
今度はなにを言い出すんだ。
見上げると、両頬を思いっきりバチンと叩かれた。
「痛ってえ!!」
「さっきの顔」
「ちょ、まじ痛てえ!!」
「かわいいんじゃん、微妙に」
10時だぞ忘れんなよー!と言いながら、ミズサワは来たときと同じように騒がしく戻っていった。
まじで何なの。舌噛んだし。ちょー痛い。ホント、あいつ嫌い。
―――でもテレビ、楽しみ!!
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