ICE CANDY BABY

□とりあえずぜんぶ
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「お、フルダテ帰んねーの?」



声をかけてきたのは、ミズサワ。
同じサッカー部。一年生。背はおれと同じくらい。茶髪。吊り目。
サッカーはまあまあ、うまい。中学は市外だったからあんまよく知らない。


「おいこら、シカトしてんじゃねーよ!」


あんまよく知らないけどこいつキライ。


入部挨拶の日、初対面でなぜか大ゲンカして以来、顔を合わせるたびにくだらねー言い争いしてる。
さっきも、おれの方が1センチ、背高いとか低いとかでケンカになった。
くだらねーっていうのは自分でもわかってる、でもムカツク。だからなるべく近づかないようにしてる、のに。


「誰か待ってんの?なー、帰んねーのー?」
「……帰るよ!」
「え、今日歩き?」
「バス」
「めずらしー。チャリじゃねーんだ」


くそ、早くヤナギ来ないかな。
今日は部活帰り、新しいスパイク買うの付き合ってもらうことになってる。
ミズサワには絶対、ナイショだ。下手くそが道具に頼ってんじゃねーって、またバカにされるのは目に見えてる。


「フルダテ、お待たせー!」
「おー、行こうぜヤナギ」
「うん、バス何時だっけ?」
「あと5分!」
「マジ?!やばい急ご!ミズサワくん、お疲れー!」

ミズサワに声かけた、ヤナギの腕を掴んで走り出した。
つもりが、エナメルバッグを後ろから引っ張られて思いっきりつんのめる。


「っうぐ?!」
「ヤナギくん、こいつとどっか行くの?」
「え、ああ金ヶ崎スポーツにさ、フルダテがスパイク見たいっていうから」
「あー、最近できた店かー。おれも行こうかなー」
「つうかフルダテ、大丈夫?」


咳き込んだおれの背を撫でてくれてたヤナギの手がふいに離れた。
顔を上げると、満面の笑みを浮かべたミズサワがチャリのハンドルをこっちに向けて言った。


「じゃあ乗せてってやるよ!」
「はあ?」
「金ヶ崎スポーツだろ?おれ場所知ってるし。ほら乗れって」
「なっ、いいよ別に!行こうぜヤナギ」


手を伸ばしたら、ヤナギはサッと一歩下がった。

え?

ついでに目も逸らされた。

え、え?




「えと、じゃおれ、帰るかな…、フルダテ、また、明日…」
「さ、行こうぜ」


ニコニコしたミズサワは、おれにチャリを押し付けてくる。
乗せてってやる、って、でも漕ぐのはおれってこと?
さあさあと言われるまま、ペダルを踏み込んだ。






***








「つうかミズサワ、何なの?」


無事に買い物を済ませ、山ノ目屋で一息つき、送ってくよと微笑んだミズサワとの帰り道。

送ってくよっつうか、チャリ漕いでんのはやっぱりおれなんだけど。

後ろから鼻歌が聞こえてくる。なんでそんな機嫌良さそうなの?微笑みとかキモチワルイんだけど。

そういえば今日はずっと、キモチワルイ。イヤミのひとつも言わず、真剣にスパイク選びに付き合ってくれたうえ、山ノ目屋ではアイスおごってくれた。

何なのこいつ?病気なの?明日しぬの?


「何なのって、何が?」
「なんで今日、そんなキモイの?」
「はあ?!おれのどこがキモイんだよ?!」
「どこがっつうか、とりあえずぜんぶ…」
「なんだとコラ」
「うっ!ちょ、やめろって!危な!」
「オイ、足つくなよー。さっさと漕げ」


肩に置いてた手を回して、首キメやがった!
これがいつも通りのミズサワだ、やっぱ今日はどっかキモかった!

苦しい、と文句言うと腕はすぐに離れた。けど、こんなやつ後ろに乗っけてると思うと体が勝手にビクつく。

あーあ、やっぱヤナギと来ればよかった。


「ん?何か言ったかフルダテ」
「…なっ、なんでもねーよ!」
「ヤナギくんがどーしたって?」

聞こえてんじゃねーか。地獄耳め。

「……いや、ヤナギちょっと、変だったよな?帰り際」
「そーかあ?」
「うん。急に行かねーとか言い出すし。おれ何かしたかなあ」
「さあ?お前のことキライなんじゃねーの」
「キライ?!え、なんで…」
「知らねーよおれヤナギくんじゃねーし。つうか少なくともおれはフルダテのこと、キライ」
「え?!」
「何だよ」
「あ、そっか」



え?!じゃねーよな、おれ。知ってたし。
キライ、なんてわざわざ言われなくても、こいつにどう思われてるかなんて態度見てれば一秒でわかる。


「え、なに?おれに嫌われて、カナシイ?」
「うっ、うるせーな、おれだってミズサワなんかキライだし」
「ふーん。どこが?」
「どこがって…とりあえずぜんぶキライ!」
「おれはお前の性格がキライ」
「…はいはいそーですか」
「性格っつーかアタマ悪いとこがキライ。顔もフツーだし。話してるとイラつくしー」
「あーはいはい」


何とでも言いやがれ!
こっちだってぜんぶキライだ。改めて言われてみると、ミズサワへのキライがますます大きくなった。

もうとにかく、さっさと帰ろう。あの角曲がれば、おれんちだ。

向かい風のなかチャリを漕ぐことに集中してると、ミズサワのちっこい頭が肩に乗っかった。
反射的に体を反らしたけど、今度は攻撃されなかった。


「あとねー騙されやすいとこもキライ。にぶいとこもキライー」
「まだ言うかハゲ…っひゃ?!」
「おう、降りろよ。着いたぞお前んち」


…思いっきり、耳、噛まれた!


「オイ!!」
「じゃーなー!また明日ー」


じんじんと痺れる耳を押さえて立ち尽くすおれを残して、颯爽とチャリを漕ぐ後ろ姿はあっという間に見えなくなった。


あいつまじで何なんだ?!

イラつくからって人を噛むなんて、どういう思考回路してやがるんだ!しかも逃げ足速すぎる。



ちくしょう!とりあえず明日!
おんなじことやり返してやる!!





■ ■
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