ICE CANDY BABY

□念願の!
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「あっっつ!!!熱!あっつ!!なんだこれ…ッ」

「なんだじゃねーよアリガタク飲みやがれ」

「っ…、フルダテ、てめぇ…」



ひひ、ミズサワ、涙目。ざまぁ!



今日も部活のあと勝手についてきてウチに上がりこんで、茶でも出せコラと言いやがったこいつに、あっつい番茶を出してやった。
おかんは仕事からまだ帰ってきてなかったから、おれ自らがワザワザおもてなししてやったんだ。

ミズサワはネコ舌らしいから!!


「ぅわ、マジあっつ……」
「熱いからうまいんだろ!」

すがすがしい気持ちで茶をすすると、ギロリと睨まれた。
ふん、ウルウルさせながら睨んだってこわくなんかねーっつうの!


「………」
「なんだよ!別に、こわくなんかねーっつうの!」
「………」
「だいたいお前、何しに来たんだよ?!」
「………」
「なっ、なんとか言えよ……」
「………」
「…ミズサワ?」
「………痛え」
「え?」
「舌、やけどした…」
「う、え、そんなに痛えの?」
「………」


ミズサワはそのまま、小さく縮こまってしまった。
うそ、そんな熱かったか?ネコ舌のやつってこんなんなっちゃうの?
頭を抱えた手首を取って、覗きこんでみる。が、目をぎゅっとつぶったまま動かない。


「ミ、ミズサワ、」
「………」
「っ、…え、お前、しぬの?」
「死ぬかバカ」


あ、しゃべった。生きてる。
思わず力を込めてしまった手を振り払われて逆に掴まれたけど、ミズサワはまた黙りこくってしまった。
さすがにちょっと、かわいそう、か?
いやいや、だけどこいつの日頃の行いを考えたら、すっげーちっちゃな仕返しだろ?


「………大丈夫デスカ」
「………」


下を向いたままの顔を伺うけど返事はない。
やっと開いた目はまだウルウルしてて眉間にぎゅっとシワ寄って唇噛んでて、やっぱすげー痛そう。


「う、泣くなって!」
「………」


ミズサワのしかめっ面がふいに近づいた。
なにか、唇に触れる感触がして、目の前には閉じられた長いまつげ。

なにかっつーか、そっと押し付けられたのは明らかにこいつの唇だった!



「わ!!なにすんだ!」
「………」
「え、えっ?!なんなの?!」


なにその不満げな顔!!
嫌がらせは大成功してますけど?!


ミズサワは、眉間に刻んだシワはそのままに、唇をひん曲げて、盛大にため息を吐いた。
むーっとした顔、腹立つ!そこでお前が拗ねる意味がわかんねー!
ちょっと哀れに思ったおれが甘かった!



「わかった、水!持ってきてやるから!手ぇ離せ」
「…こーり」
「ん?」
「氷、ちょーだい」
「あ、氷な。おっけ」


ああ、おれってやっぱ優しいな。
立ち上がろうとしたところで、掴まれたままだった手首を強く引かれて、またぶつかった。

くちとくちが!


「くっそ、ミズサワてめー、なんなんだよ!!まじで!」
「………」
「だから、困りましたみたいな顔をお前がしてんじゃねーよ!ムカツクな!」
「………困りました」
「ああ?!」
「つかえないじゃん、舌」
「治んだろ、そのうち」
「いまつかいたいんだよ!」
「はあ?何に」


おかんが帰って来なきゃ、今日は食い物なんか何もないぞ。


「………もーいい」
「………なんでミズサワがふて腐れてんだよ」


意味わかんね。微妙に舌回ってねーし。

氷持ってきてやると、冷てーとか文句言いながらも飴みたいにずっとなめてた。
なんとなく、餌付けした気分だ。ただの氷だけど。
こいつ顔だけはいいんだから、いつもこのくらい大人しければ、ちょっとはかわいいのにな。


「…むかつく、フルダテのくせに」
「なっ、なんだよ!なんも言ってねーだろ!」
「ぜんぶ声に出てんだって、お前は」
「うそだ!…つーかミズサワ、舌治ってねー?普通にしゃべれてんじゃん」
「そんなすぐ治るかよバカか」
「うるせーな!はい、ベー」
「はあ?!」
「ベーって。ほら、見してみー」
「もーいいっつってんだろ!」

いつも通り、ムカツク具合に舌がよく回ってる。
完全に治ってるし。ま、どーでもいーけど。
ちょっとは痛い目みたらいーんだ。おれに対する数々の嫌がらせにバチが当たったんだ!


「ったく、せっかく人が親切に見てやろーとしてんのにさー」
「べーってなんだよ!幼児か!」
「うるせー!どーせミズサワのアタマは幼児並みだろっ」
「なんだと?!べーとかお前がやってろ!」
「はいはい、もー知らねーしー」


お望み通り、ベーっと思いっきり舌出してやる。
と、一瞬で視界が引っ繰り返った。


「んー!んむっ、…ッは、ミズサワ…!」


さっきとは比べ物にならない勢いで、ヤケドしたらしい舌を突っ込んできやがった!
急に床に引き倒されて、身動きもままならない。


「やっ…!ぅ…ん」
「………」
「ん…っ、う」


縮こまった舌を強引に持ってかれる。なんだかやけに熱い、こいつの舌。
酸素不足の脳みそがぼんやりし始めたころ、圧し掛かってた体がふいに軽くなって、ミズサワがぼそりとつぶやいた。


「………痛え」
「っ、?!」


ミズサワ、お前ってやつは、ここまでするのか………!
涙目になるくらい舌痛いくせに、嫌がらせのためなら、お前は!


「もうなんか、尊敬とかしちゃうよ、逆に!」
「………おぼえとけよ」



ぷ。
睨んでるつもりらしい、でかい吊り目に涙が溜まってる。眉は下がってて出しっぱなしの舌がすげーマヌケだ。

こんな弱ってるとこ初めてみた!


「っぷ、あはは!もう一生治んなきゃいーのに!!」
「………」
「まーでも、寝て起きたらへーきだろ、どーせ!」
「………」
「ミズサワ、へこむなってー!ひひ」
「いまつかいたいんだよ…」
「くくっ、諦めな!」


はは、ミズサワ、ざまぁ!!



肩を押して起き上がり、目が合ったミズサワはますます嫌そうに顔をゆがめた。
両腕でぎゅうぎゅう締め付けてくるけど、今日のところは許してやる!
笑顔全開で、ついでに頭も撫でてやった。






これは勝利と言っていいんじゃないか?!

出会って以来、初めての!!
VSミズサワ戦、初白星!!


ファンファーレが聞こえる気がする!!


いや違った、おかんが帰ってきた物音だったようだ。











半分溶けた氷を口に放り込んだミズサワを残して部屋を飛び出る。


今日の晩メシなにかな?

初勝利の記念日だから、お祝いしてもらおう、盛大に!!











■ ■ ■
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