ICE CANDY BABY

□初恋センパイ2
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ユタカ先輩がかわいいのは、いつも笑ってるから。








『フルダテ、ユタカ先輩のこと好きなんだろ、そういう意味で』

『フルダテなら、ジャマしねえよ』



ミズサワとイシカワ先輩にそんなことを言われてから、気づかないうちにやっちゃってたらしい、ユタカ先輩のことをつい目で追うっていうのをやらないように気をつけてた。

だけどそんなの、ムダな努力ってやつだった。

むしろどんどんジャマしてください、かわいすぎておれは何だかもう耐えられませんって感じに、アタマの中はゴチャゴチャだった。


結局、気づけばつい見ちゃってる!


そしたら、わかったんだ。

なんであんなにかわいいのかっていうのが。






そもそも、だ。
ユタカ先輩の外見を言い表すとしたら、「かわいい」ってゆうより、どっちかというと「カッコイイ」のほうが合ってる。
身長はおれと同じくらいはあるし、そこまで小柄ってわけでもない、筋肉だってちゃんとついてる。童顔とか女顔ってわけでも別に、ない。


なのにあんなにかわいいのは、いつも笑ってるから。

幸せそうに、って言ったら話をでっかくしすぎかもしれないけど、実際そうなのだ。
だって、見てるこっちが幸せな気持ちになる。
すっげー楽しそうでキラキラしてて、笑ってくれてアリガトウって、なんでだかこっちがお礼を言いたくなるような、笑顔。

そのとなりにはいつも必ず、イシカワ先輩がいる。


ああ、ユタカ先輩ってイシカワ先輩のこと大好きなんだな。

最近は朝練にいっしょに来るし、仲良しなんだろうな。
どんなことしゃべってるのかは分かんないし、イシカワ先輩は正反対にいつもむすっとした顔してる。けど、ユタカ先輩はあんな風に笑って、いつもあの人のそばにいる。“気が合う”ってあーゆうことなんだろうな。




それにしても、あんなかわいい笑顔を向けられて、イシカワ先輩はなんで平気でいられるんだろう。







「平気じゃないらしいぜ」

「うぎゃ!!動くな!」


ミズサワが急にくるりと振り向くから、せっかく束ねた髪の毛が手の中から逃げてってしまった。


「へんな声出すなよフルダテ、びびった」

「こっちがびびったっつーの!てか平気じゃないって、なにが?」

「イシカワ先輩が。まあ、あんな顔してあんな風にベタベタくっつかれて、変な気起こすなっつーのも無理な話だよな」

「う?うん、だな!」

「………フルダテ。意味わかってねーなら無理に返事すんな」

「わっ!!あーもう、動くなってー!」


まったく、落ち着きのないやつだな!!







今日も部活帰り、山ノ目屋に寄り道してアイス食ってから、新山舟橋んとこの河川敷にあるグラウンドに来た。ここんとこお決まりのコースだ。
もともと野球用のグラウンドでゴールなんかないし、二人きりだから大した練習はできない。ひたすらボールの奪い合い。
それでも、一人でランニングするよりはサッカーしてる!って感じがあるから、どっちが言い出したわけじゃないけど、なんとなく毎日二人で来るようになってる。


練習始める前に、サッカー少年らしからぬ長さのミズサワの髪を結んでやろうとしてんのに、さっきからキョロキョロ動きやがるから全然すすまない。
結べって命令したの、自分のくせに!




「ミズサワ、なんで髪こんな伸ばしてんの?」

「んー………まーいーじゃん。そういえばさ、イシカワ先輩も髪、わりと長いだろ」

「ああ、うん。あれはカッコイイよな、後ろ短くて、前髪長めの」

「あれな、ユタカ先輩のためなんだって」

「ん?ためって、なにが」

「あの二人さ、幼稚園から一緒なんだって」

「へー!そーなんだ、だからあんな仲良いんだな」

「でな、昔よく泣いちゃってたんだって、ユタカ先輩。キヨちゃんコワイって言って…」

「え?」


ゴニョゴニョと言いながら、やっと結べた頭を抱えて下を向いてしまった。


「ミズサワ?」

「…っ、泣くからっつってさあ…、っくく、てかフルダテは知ってた?」

「知らない。なに?髪型とユタカ先輩となんか関係あんの?」


顔を上げたミズサワは、笑ってるのをごまかそうとしてるらしく、口がフヤフヤと変な形になっちゃってる。
もし、もしも、万が一。
イシカワキヨヒトが実はヅラだなんて情報だったらおれはしんでも知りたくないぞ!あんなカッコイイ先輩のそんな秘密、一生知らずにおきたいぞ!


「あはは!違う違う。あのさ、イシカワ先輩って目つき悪いじゃん」

「うん…悪いっつーか、迫力がハンパないよな」

「ああ、だな。…その目がコワイって言ってさ。泣いてたらしいんだよ、ユタカ先輩」

「えー!泣くほどコワイかあ?」

「それをさ、隠すためのあの髪型なんだって」

「…は?」

「泣かせたくないから、前髪伸ばして、目ぇ隠して」

「……ウソだろ?」


バチッと視線が合ったミズサワのネコ目が、たぶんおれとおんなじ事考えて、笑っちゃってるのをもうごまかせてない。

え、ウソだ、ウソだろ?
だって、あんなの……


「ぜんぜん隠れてないじゃん!!」

「ぶっ、はは!やめろってフルダテ、ズバッと言うなって!!」

「ウソつくなってミズサワ!そんなアホなことねーよ!」

「ア、アホって言うなよ!本人はマジなんだから!…ひひ」

「だって…!え、もっと他にあるよな?!泣かせたくないなら、笑う、とかさぁ…!」

「あるある!しかもさ、ユタカ先輩が最初に言ったらしいんだよ、泣きながら。キヨちゃん前髪伸ばしたらこわくないのに!って」

「えー……まさかのアホ同士かよ。あの目力、前髪で隠したくらいじゃ意味ねーし!」


つーか、イシカワキヨヒトってそんなキャラなわけ?!
あんなナリして、天然っつーか、素直っつーか…アホ……は、言い過ぎかな?
肩をバシバシたたき合って笑ったら腹筋がつりそうだった。


「なのに、だぞ?こないだ部活前にユタカ先輩がさ、キヨ、なんでそんな前髪伸ばしてんの?ジャマじゃねーの?ウザイから切れば?って言っててさあ…」

「あはは!なにそれっ、ひでーな!」

「さっきお前がおれに言ったみたいに、軽くな。だけど、イシカワ先輩が妙にへこんでてさぁ……ぷぷっ」

「本人が言ってたの?その話」

「いや、オダシマ先輩があとから教えてくれた」


笑い疲れて、乾いた地面に並んでゴロンと寝転がった。
野球用の照明はとっくに落とされてるけど、オレンジ色のでかい月が、明るい。
となりのミズサワが機嫌よさそうに笑ってるのが見えた。


「つーか、あのイシカワキヨヒトにそこまでさせる、ユタカ先輩ってマジ何者?」

「だよな………」


ミズサワに相槌を打ちながら、やっぱりユタカ先輩は最強にかわいい人なんだなって、思った。



イシカワ先輩のとなりで笑ってるから、おれはあの人をかわいいと思うし、好きなのだ。


いいな。なんか、いいな。

アホかっていうくらい思いやって大事にしてる、イシカワ先輩も。

当たり前のようにその気持ちをもらって笑ってる、ユタカ先輩も。


なんかどっちも、うらやましいな。


結局、おれのこの気持ちはなんなんだろう。

あんまりかわいいから、恋なんだってミズサワに言われるまま思い込んでたけど。

恋とかスキとかよくわからん。スキっちゃスキだけど、あの二人の間に立ち入れるとは思えない。
つーか、立ち入りたいと思わないな。



寝転んだまま右を向くと、不思議そうな顔をしたミズサワと目が合った。


「お、おれまたなんか口に出てた?!」

「うん、でも意味わかんなすぎた。フルダテって不思議なこと考えるのな」


そう言うミズサワも、ずいぶん不思議な髪型してるぞ。
言ってやらないけど。


整った顔のうえで、ブサイクな髪の毛の束がちょこんと結ばれてる。ちょんまげみたい。

やばい、うける。かっこわる!

しょーがないよな、髪の毛いじるのなんておれ生まれて初めてだしな。



「まーいいや、サッカーやろーぜ!」


ガバッと起き上がってボールを蹴り出したミズサワが先攻だ。

グラウンドの両端の土に、スニーカーでズリズリと引いた線。そこを抜けるまでの勝負。

いったいいつになったらコイツを止められるんだろう。つーか一対一なのに、グラウンドの脇にある木にボール当てて抜くなんて反則だよな。
うまいこと跳ね返らせるなんて、どんだけキックの精度いいんだ、ミズサワめ…!

今日も勝ったり負けたり、だけど通算成績で言ったら断然、おれの負けだ。


なんかもう色々よくわからんことだらけだし、こいつはムカツクし、だけどやっぱりサッカーは大好きだ。

最近なんとなくツマンナイ部活終わりの、この時間がいちばん楽しい。
クタクタになりながら今日も、月がだいぶ高いとこに昇るまでボールを追いかけた。









***



不思議な髪型のまま家に帰ったミズサワに、殴られたのは翌日、朝練前の話。

「いってーな!!殴ることねーだろ!!」

「おれ、鏡見て凹んだのなんて生まれて初めてだ!」

「はああ?!なんだそれ、自慢かよっ!」

「ざっけんな!なんだあの結び方!落ち武者かっつーんだ!」

「うるせーな!文句言うなら自分で結べばいーだろ!」

「てめーが結べ!!毎日練習しろ!」

「痛っ!!いちいち殴んなっつーの!!」


フルダテがまたミズサワのこと怒らせてる、って周りは笑ってて、助けてくれる気配はゼロ!
拳を握ったままのミズサワが、部室の入り口でクルリと振り返り、ネコ目をいじわるく細めて笑った。



「わかったな。毎日だ」











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