ICE CANDY BABY

□毎日だって言っただろ
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「ひーくん、あたしの顔、なんかついてる?」
「う?ううん!!」
「じゃあ、どうかした?」
「うーん…クーちゃんさぁ、その髪型さぁ」
「えっ?なんか変かな?」
「ううん!違うよ!かわいいよ!あのさ、どーなってんの?それ」
「どうって?」


ちっこい弁当箱を片手にこっちを向いたかわいいクーちゃんは、小学校からの同級生だ。
同じクラスになる度に、たいてい隣の席になるっていう腐れ縁は高校に入っても続いてる。なぜなら苗字が同じ、フルダテだから。

ツヤツヤした前髪はそのまんまおろしてて、のこりの髪を頭の上のほうでひとつに結んで、そこにモコモコした布がくっついてる。
長い髪の毛がぜんぶピタッとまとまってて、きれいだ。


「これね、シュシュっていうんだよ。あたし作ったんだあ」
「えっ!作ったって、コレを?!え、すげー!!」
「すごくないよー、カンタンだよぉ」
「見して見して!!触っていい?」


いいよ、と首をこっちに傾けたクーちゃんの髪の毛の束が揺れる。
どーなってくっついてんだ?この布。じゃない、しゅしゅ?
なんか甘くてうまそうな名前。これ使えば、こんなふうにピタッとなるのかな?


「あはは、なあに?真剣な顔して」
「うーん……」
「ひーくん、シュシュほしいなら作ってあげよっか?」
「まじ?!ほしい!いーのっ?」
「えっ、ホントにほしいのー?」
「うん!」


いや、待てよ?
ふわふわしたしゅしゅ。クーちゃんにくっついてたらカワイイけど………

ミズサワの茶髪にくっついてるとこを想像してみる。

………あれ?案外、似合わないこともなさそうだぞ。
でもさすがにピンクは怒るかな?


「ええっ、ミズサワくんにあげるの?」
「うん。部活で使うんだって。前髪ジャマだから、結びたくて」
「あー、なるほどね!でもひーくん、男の子にシュシュはちょっと違うと思うよ?」
「んー…そっかー、そうかなー。あいつ、なんでも似合いそうだけどなー」
「ふふっ、でも普通のゴムでいいんじゃないかな。部活中に使うなら」


こーゆうの、って言いながらクーちゃんは、花柄のちっちゃい袋から長いひもを取り出す。
飾りとか付いてない黒いやつは、おれが持ってるやつと同じに見えた。


「このゴムを切ってね、輪にして使うんだよ」
「あー……これね。おれ、どーしてもうまく結べないんだよ…」
「ひーくんが結んであげてるんだー?ホント仲良しなんだねえ」
「なっ!違うよ!仲良くないよ!おれ、いっつも怒られてるもん…」



でも、最近は。

ちょっとだけ、ほんのちょっとだけ、もしかしたら、仲良くなれそうな気が………する、ような、しなくもないような感じも、あったりなかったり、するようなしないような………



最近まじでツマンナイ部活のあと、新山舟橋んとこの河川敷でミズサワとサッカーする時間が、一日のなかでいちばん楽しい。

ヤナギとかはいつも疲れたとか言って、付き合ってくれないし。

毎日一緒にいると、やっぱりマジでムカツク。なぜならミズサワは、マジでサッカーうまいから。
ムカツクのは、自分の下手くそさに対して、だ。

それに、変態的イヤガラセもしなくなった。風邪ひいて以来、あいつんちに連れてかれることはないし、時々おれんちに寄ってくけど、メシ食ったら帰ってく。
おとんは帰りが遅いから、いつもおれと二人きりだった食卓がにぎやかになって、うちのおかんは嬉しそうだ。


イヤガラセはされなくなったけど、相変わらず毎日怒鳴られ蹴られ叩かれてる。
あいつ、おれが何か言うとすぐ怒るんだよな。
カルシウムが足りてないんだよな。
よし、今日はホームランバーの牛乳味食わそう。




「…シュシュなんてあげたら、また怒られちゃうんじゃない?」
「やっぱ、ピンクはまずい?おれも、ミズサワには黄色とかの方が似合うんじゃないかなあって思うんだけど」
「ぷっ、ひーくん!色の問題じゃないよぉ」
「でも、あいつ喜ぶと思うんだよな!しゅしゅならキレイに結べるし!」
「あっでも、シュシュも結び方は一緒だよ?布の中にゴムを通してるだけだから」
「そうなの?!えっ、だって、クーちゃんはなんでそんなピタッとなってんの?!」
「要は練習だねー」
「うーん…まじかあ……」
「教えてあげるよ!」


ニコッと笑ったクーちゃん。
なんだか久しぶりにココロが落ち着いてく気がする。


「…クーちゃんは優しいね」
「おおげさだなぁ、ひーくんは」


いやいや、なんだかものすごく久しぶりに人のやさしさに触れた気がする。

おれ、弱ってるなあ。


原因はあきらかにあいつだ、ミズサワだ。
あいつ、ほんとムカツク。
なんであんな毎日、怒ってんだろ。

二人で汗だくでボール追いかけてるときとか。ソーダ味か梨味か悩んでソーダ味買うと、梨味買って半分くれるときとか。帰り道、くだらねー話しながらチャリをダラダラこいでるときとか。


そういうときのあいつはほんと、キライじゃないのにな。
ミズサワはおれのこと、ダイキライなんだ。



ふと頭を上げたら、いっしょに昼飯食ってたみんなが笑ってこっちを見てた。

え、なんだ?おれ最近、なんか考えるときはちゃんと、口閉じるようにしてるぞ?!


「…お、おれなんかまた変なこと、言ってた?」
「いや別に?でも、ほんとミズサワくんのことスキなんだねえ」
「はあ?!」
「ホントホント。いつもケンカしてるけど、いつの間にか仲良くなったんだな、お前ら」
「ち、違うよっ!」
「だって、結んであげたくて悩んでたんでしょ?」
「別にそんなんじゃ…!」


ありえないこと好き勝手言われてるうちに、昼休みが終わるチャイムが鳴った。
午後の授業はお昼寝タイム。
そして放課後、聞き慣れたムカツク声がいつも通りに響く。



「おいフルダテ!部活いこーぜ!」

………大好き?いつのまにか仲良し?ミズサワと、おれが?

「ん?どーしたんだよ、さっさと来いよ。どんくせーやつだな」

いやいや、ナイな。やっぱりナイ。




バッグを掴んで立ち上がると、クーちゃんが駆け寄ってきた。


「ひーくん!これ」
「えっ、作ってくれたの?!」


手渡されたのは、しゅしゅだった。
明るい黄色と白の水玉模様。花みたいだ。


「うん、ちょーどいい布があったから。でも、こっちも持ってって?」
「ん?ひも?」
「ゴムの端、結んでみたの。これ、そのまま頭に巻けば、髪の毛結ぶ必要ないんじゃない?」
「あー!なるほど!!」
「サッカー選手の人って、よくおでこに巻いてるよね!こういうの」
「だね!クーちゃん、天才!ありがとー!」


そのままミズサワの頭にはめてみると、サイズもピッタリだった。
これなら、前髪もピタッと押さえられて、ジャマになることは、ない!


「いーじゃんミズサワ、似合うよ!クーちゃんにお礼言えよ!」
「ちょっ、いいってそんなのひーくん!じゃあ、部活がんばってね」
「うん、まじありがとねー!」


笑って手を振ったクーちゃんを見送ると、背後からミズサワの低い声がした。


「………ひーくんって、なに」
「な、なにって………」


え、なに?!なんで?!
なんでおれ、すっげー目で睨まれてるんだ?!

今日もさっそく、ミズサワの不機嫌スイッチを押してしまったらしかった。

人の名前にまでダメだしかよ!
さすがに言い返す言葉も出てこなくて、黄色のしゅしゅを頭にポンと乗っける。


「ん?」
「やる。しゅしゅ」
「はぁ?いらねーよ、ざけんな」
「お前に似合うと思って」
「………」
「いらないなら返せ」



手を伸ばしたけど間に合わず、しゅしゅはミズサワのエナメルバッグにしまい込まれてしまった。
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