ICE CANDY BABY
□危険すぎる
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ふらふらしながら部室に入ってきたミズサワが、青いロッカーにゴンッてぶつかって。
「うおっ、だいじょーぶ?すっげー音したな」
「わはは!何やってんだよミズサワー」
「痛そー、角にデコ直撃っ!どーした?ボーッとして」
みんなに心配されながら、ゲラゲラ笑われながら、その場にしゃがみ込んで。
「だいじょーぶ……」
「うおぉっ?なにその声?!ガラガラじゃん!」
「マジで大丈夫?立てる?」
うんー…って言いながらよろよろと立ち上がったと思ったら、後ろ向きにひっくり返って。
後から入ってきたイシカワ先輩の胸にぶつかって、ズルズルともたれかかって。
目を閉じて、そのまま動かなくなった。
「しっ……、死ぬな、ミズサワーーー!!」
* * *
部室でぶっ倒れたミズサワを、「保健室に連れてく」ってヒョイって肩に担ぎ上げたイシカワ先輩は、サッカー部のみんなから大ブーイングを受けた。
「ミズサワは荷物じゃねーんだぞ!」
「熱上がっちゃうだろ!頭を上にしてやれよ!」
「つーかおれが連れて行く!キヨは信用ならん!」
「いやおれが連れて行く!」
「いやおれが!」
「おれが!」
ギャーギャー言い合ってたら、ミズサワの目がやっと開いた。いっぱいの涙でうるうるしちゃってる。
「ミズサワ、大丈夫か?」
キャプテンのヒライシ先輩に聞かれてコクンって頷いたけど、全然大丈夫じゃなさそう。てかたぶん、ポーッとしちゃってて聞こえてない。
イシカワ先輩が横向きに抱き直したら、その首にぎゅうってくっついて、そのままキュッて目を閉じてしまった。
三年生まで巻き込んで「誰が保健室まで連れてくか」でモメてたのに、イシカワ先輩の腕にすっぽり納まったからなのか、ほっぺだけじゃなく目元までほんのり熱っぽく色がついててしんどそうだったからなのか、何でなのか、わかんないけどそれ以上文句言うやつはいなかった。
「イシカワ先輩、待ってください!おれが連れて行きます!」
ザワザワした部室をさっさと出て行ったイシカワ先輩をあわてて追いかけて、そう言ったら「おう」って言われた。部室出てすぐ、5歩くらいのところ。
そんで、ぐったりしたミズサワを両腕広げて受け取った。
それが、つい今さっきの出来事。
あれから50歩くらいは歩いただろうか。
「っ、重てー…」
長い!廊下が果てしなく長い。両腕もげそう!
保健室ってこんな遠かったか?!
「フルダテ、やっぱ代わる」
「だめ、です!おれがっ、連れて、行き…ます、から…っ!」
「階段、危ないから」
「だ……っ、おっ、おれ、が……うぎゃあっ?!」
ヤバイ、こける!ってか落ちる!
でも両腕にはミズサワ!落っことすわけにはいかない!
ギュッと抱き締めて目をつぶって転がったけど、思ったより痛くなかった。
「…怪我ないか」
「わあぁっ!すいませんっ!」
気づいたらイシカワ先輩のこと下敷きにして階段に転がってた。
ガバッて起き上がって謝ったら、何でか逆に謝られた。
「悪い、支えきれなかった」
「ご、ごめんなさい……」
マズイ、怒ってるのかな、いや怒ってるよな?!ムスッとしてるのはいつもだからよくわかんないけど。
イシカワ先輩は黙ったままおれの手をそっと撫でて、もう一回謝った。
「フルダテ、悪かった。怪我はないか」
「は、はいっ」
「立てるか?」
「はいっ」
返事したはいいけど、ミズサワを抱きかかえたまんま立ち上がるのは無理そうだった。踏ん張ったけど、足がブルブルしてる。
「その手、一旦離せ。ミズサワ、ちょっと動けるか」
さすがに目を覚ましたらしいミズサワは、トロンとした顔で頷いた。
肩のあたりと膝らへんをギュッと掴んでた手を離したら、おれの上からモゾモゾと動いて、階段にしゃがみこんでしまった。
「ミズサワ、だいじょーぶ?!どっか痛い?どこ痛いの?!」
「だいじょーぶ…」
「うわぁっ!ヤバイってその声!ノド?ノド痛いのっ?!ど、どーしよう!そうだ!保健室!」
抱きかかえてダッシュだ!!
膝曲げてちぢこまってるミズサワに伸ばした手を、後ろからパシッと掴まれた。
「フルダテ。おれがミズサワ担いでいいか」
「だっ…、でも、ミズサワは、おれが!」
「落とさないように、ちゃんと抱くから」
「……でも…」
「おれ、保健室の場所知らねえんだ。フルダテ、連れてってくれないか」
え、じゃあ部室出てドコ行くつもりだったの?!
ツッコミ入れるのよりも今は、ミズサワを保健室に連れてくのが先だ。「はい!」って返事したら「頼んだ」って言ったイシカワ先輩が、ミズサワをサッと抱え上げた。
身長もガタイもおれとあんまり違わないのに、どうしてそんなにパッと持てるんだろう。謎だ。
「先輩、こっちです!」
「おう。フルダテいてくれて助かった」
一歩足を出すのもおれはいっぱいいっぱいだったのに、イシカワ先輩はスタスタ歩いてついてくる。抱かれ心地がいいのか、ミズサワもおとなしく首んとこにギュッてくっついてた。