ICE CANDY BABY

□最後の 最後の 最後はきっと
1ページ/14ページ




「キスしーてーほーしいー、キスしーてーほーしいー」
『もしもし』
「ふたりが夢にー、近づくーようにー」
『もしもし?フルダテ?』
「キースーしーてーほーしいー、おーいぇーい」
『おいコラ、なにを歌ってんだよ』
「あっやべ!つながってる?!もしもし!!もしもし!!ミズサワ?!」
『聞こえてるっつの、声でけーよ』



電話してこいってミズサワが言うから電話したのに、なかなか出ないから鼻歌フンフンしてたのをバッチリ聞かれてしまったらしい。やばい地味に恥ずかしいぞ。

『鼻歌レベルじゃねーだろ、熱唱じゃん』
「うっ、うるせーな!」
『なんだっけその歌、ハイロウズ?』
「んー、えーと、誰だっけ?」
『チューチューチューってサビのやつだよな』
「違えよ、サビはトゥートゥートゥーだよ!」
『まー何でもいーけど。つーか何の用?』
「なっ!!ミズサワが電話してこいっつったんだろ!」


何の用?じゃねーし!

ミズサワが代表チームの遠征に出掛けていって一週間。
何回も何回も電話して、やっと出たと思ったらこれかよ!


『てかフルダテ、電話してくるタイミングがいつも変なんだよ』
「はあ?何がだよ、いつも朝に掛けてんのに。時差をちゃんと計算してやってんだろ!」
『朝の6時に電話するとか頭オカシイんじゃねーの』
「だから、そっちは夜の6時だろ?ちょうどいいじゃん」
『は?』
「ん?」
『…フルダテ、オーストラリアとの時差って何時間あるか知ってる?』
「うん、12時間。ちょうど地球の反対側だろ」
『お前は地球をどこで区切ってんだよ。オーストリアじゃねーんだぞ』
「そんくらい知ってるっつの。日本は上半球で、オーストラリアは下半球。ちょうど半日違いだろ」
『うわー、そうきたかー…』


こっちは朝の6時すぎで、これから朝練に向かうところだ。
空はまだ暗くて、チャリのサドルがひんやりしてる。すぐ着替えられるように制服の下にTシャツ重ねて、ブレザーも羽織ってるけどちょっと寒い。
ケータイを肩で挟んだまま、チャリを漕ぎ出した。


「で、何の用なの?」
『自分から掛けといてそれ聞くの?』
「だって、ミズサワが電話してこいって言うから掛けてんじゃん!何なんだよ!用事ねーの?!」
『ねーよ』
「ねーのかよ!ちくしょー、じゃあ電話してこいとか言うなよな!二度と掛けてやんねーからなっ!」
『えー』
「えー、じゃねーよ!バカ!」

そんな風にかわいく言ったってダメなんだからな!いじわる大臣め!!

『いいじゃん別に、用事なくたって電話してこいよ』
「やだね!バーカ!」
『フルダテのいじわる』
「ミズサワにだけは言われたくないね!バーカ!」
『用事なきゃ電話してこねーのかよ』
「当たり前だろ!バーカ!」
『えー』
「えー、ってお前……」

だから、えー、じゃねーんだよバカ!かわいい声出してんじゃねーよバカ!
こっちがこんだけバカバカ言ってんのに、いつもみたいに「うるせーアホ」とか「うるせーブサイク」とか言ってくれないと、どうリアクションしたらいいかわかんねーんだよ!


『なんだよケチ。いーじゃん電話くらい…つまんねーの……』

坂道登りきって、ケータイ持ち直したら電話の向こうでまだブーブー文句言ってた。
そんな、ケチとかつまんねーとか言われても、おれはマジで、何て返したらいいんだ?!

「お、おれが電話しないと、ミズサワつまんないの?」
『うん』
「ふうん、しょーがねえなあ、じゃ、じゃあまた電話してやろうか?」
『うん』
「ぎゃっ」


な、何?!

うんって、何?!

何なのそれ?!寂しがり屋さんかよコノヤロー!かわいいじゃねーかチクショー!


『おい、聞いてんのかよ。なんか言えよバカ』
「ご、ごめん、チャリでコケてケータイふっ飛ばしちゃった、何か言った?」
『はあ?何やってんだよ』


どんくせー奴だなーって呆れた声が聞こえてきたけど、ミズサワがいきなり変なこと言うから悪いんだ!
ケータイ拾ってまた肩に挟んで、倒れたチャリを抱え起こす。
やべー、何もないとこでずっこけるなんて、おれ超ださい。周りに誰もいなくてよかった。


『ちなみにさ、フルダテ。こっちは今何時だと思う?』
「ん?うん、6時半くらい?練習終わったとこ?」
『ブー。正解は、朝の7時半です』
「えっ?!嘘だろ」
『ほんとですー。これからみんなで朝飯ですー』
「ほんとに?え、なんで?なんでそっちも朝なの?なんで7時半なの?」
『なんでって言われても、地球はそういう風に回ってるからな』

だいたいウエハンキュウって何なんだよ、それを言うなら北半球だろうが、とか何とかよくわかんないことをペラペラしゃべってるミズサワの声を聞いてたら、いつのまにか校門の前まで来てた。

『やべ、おれももう行くわ。じゃーな、コケんなよ』
「あ、ミズサワ!」
『ん?』
「あ、う、何でもない…」
『ん、じゃーまたな』


耳に押し当てたままのケータイから、ツーツーって機械の音が鳴ってる。


電話はあっさり切れた。結局、ほんとになんも用事はなかったらしい。




何なんだろう、これも新しいイヤガラセ?


でもあんまりバカとか言われてないし、てゆうかおれが電話してやんないとつまんないとか言われたし、用事なくても掛けてこいとか言われた。

てゆうか、向こうはどういうわけか朝の7時半で、てことは朝飯前でバタバタしてる時間帯のはずで、なのに普通に電話に出て、なんかイロイロしゃべって、「またな」って言われた。


いったいこれ、何なんだ?!どーゆうことだ?!
ミズサワあいつ、何考えてるわけ?!
やばい、サッパリわかんない!


わかんないけど何だこれ、超嬉しいぞ!!


「はちきれそうだー!飛び出しそうだー!」

思わず鼻歌の続きをフンフンしたら、バレー部かなんかの女の子たちがクスクス笑いながら通り過ぎてった。
聞かれちゃったかな、まーいーや、しょーがないよな、嬉しいんだから!

「生きているのがー、すばらしすぎるー!」
「お、フルダテおはよー。朝からテンション高いなー」
「おはよーヤナギ!」
「なんだっけそれ、クロマニヨンズ?」


チューチューチュー、ってヤナギといっしょに歌いながら部室に向かう。
キースーしーてほーしいーって歌詞んとこで「顔にやけすぎキモイ」ってみんなに笑われた。だって、しょーがないよな。さっきの「電話してこい」とか、こないだの「キスしていい?」とか言ったミズサワのこと考えたら、顔が勝手にデヘッてなるんだから。
次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ