ICE CANDY BABY

□ユキとケイコ
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クラスの友達と学食行ったあと下宿に戻り、管理人のおばちゃんの車に乗せてもらって、駅へ向かう。


新幹線に乗り込むと、ビルや住宅街はあっという間に遠ざかる。
大きな川を渡り、岡宮商業高校が建つあたりを過ぎると、景色は田んぼや畑を経て、深い山々へ変わる。やがて長いトンネルに入ると、暗くなった窓ガラスには自分の顔が映るばかりになった。

うわ。思った以上にダメージいっぱいな顔してんな、おれ。

ふうって短く息を吐いて目を閉じたけど、眠気はやってこない。頭ん中はサッカーのこととかあいつのこととか、グルグルしっぱなしだ。

あーだめだめ、なんかべつの楽しいこと考えよ。


久しぶりに帰る、実家。
山あいの小さな集落では、モミジやカエデが色づき始めるころだろうか。

いちばん上の姉ちゃんが連れて来る結婚相手って、どんな人だろ。兄ちゃんやセイちゃんたちも久々だ、みんな元気かな。ああ、ケイコはますますかわいくなってるんだろうなあ。早く会いたい。そうだ、少しくらいは友達にも会う時間もあるかな。ユキはおれのこと、ちゃんと覚えてるだろうか。
半年くらいとはいえ、こんなに長い間顔を合わせなかったのは生まれて初めてで、少しの不安が頭をよぎる。
まあきっと、大丈夫だろ。うん。おれとユキならだいじょーぶ。
そうそう、今日の晩飯なんだろーな、顔合わせの食事会ってことはやっぱり、ごちそうかなー。

って、楽しいことに思いを巡らせたつもりが、早々に失敗したことに気づく。
うまい飯、のことを考えたとき、真っ先に頭に浮かんでしまったのはあいつのことだった。


あー、だめだめ!なんかべつの、楽しいこと考えよ!



久しぶりに会える、家族や友達との時間を楽しむんだ。

そんでしっかり充電して、せっかく選ばれた代表チーム、めいっぱいがんばろう!

そう決めて、ふうーって長く息を吐く。よし。心が落ち着いていくのが自分でわかった。

ド直球でいった言葉も態度も、なんにもわかってくれないあいつのことなんて、今日のところはとりあえず置いておこう。


あーあ。

結局、キスもさせてくんなかったな。おれ、心臓バクバクしながらお願いしてみたのにな。
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