bag of sun

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空港から電車を乗り継いで、じめじめとした都心に出る。


カリフォルニアの乾いた空気がすでに懐かしい。
たった半年とはいえ、そう思えるくらいには密度の濃い時間を過ごせた。
マサヤたちが帰国したあとは色々大変だったけど、思い返せば楽しかったような気もする。

後期の授業も続けて受けようかかなり迷ったが、日本でやりたい勉強もある。




帰国の日にちは、小笠原教授と最近メールをくれたタカシにしか伝えてなかったけど、予想外の出迎えを受けた。

出迎えというか、これは。




乗り換えのために降り立った、都心の駅前にでかでかと貼られた広告。

いちばんでかく写ってる男性に、見覚えがあった。


「わ、イイオカリュウヘイじゃん!なんか映画やるんだねー」
「本当だー、やば、和服?サムライ?格好いい」


通り過ぎていく人たちの会話のなかに、聞き覚えのある名前。


同じアパートの一階に住んでる、飯岡さんだ。
アパートの前で酔い潰れてたところを介抱して以来、近所付き合いが続いてる。
都内にも家はあるそうだが、学生時代に借りたあのボロアパートも手離さないまま、たまに寝泊りしてるらしい。実際ほとんど使わないからって、古いテレビとかもらった。

留学の直前に飲みに行ったとき、久しぶりに映画やるって聞いてはいたけど、これのことか。
観にいかないと。



映画の宣伝らしいその広告は、よく見れば至るところに貼られていた。


飯岡さんはもう、見上げてる人たちが口にするとおり、堂々たる佇まいで文句なしに格好良い。
でもなんか、その奥に、見たことあるやつが映ってる気がする。



乗り込んだ電車の中にも同じ広告があった。下のほうに書かれた文字に目をやる。
鬼才・黒松監督による十年ぶりの新作映画。
今夏公開。
監督・脚本、黒松邦実。
主演、飯岡隆平。
出演、富沢南、青葉亮、高岡将也、八乙女貴恵…

高岡将也。
マサヤ?

いや違うか。同姓同名のそっくりさん?

にしては似すぎだけど。たぶんきっと、違う。なんか顔つきが、ぜんぜん違う。


飯岡さんも普段の優しい顔とかなりちがうけど、マサヤらしき人物の鋭い目つきはまるで別人だ。

詳しいストーリーは書かれてないけど、サムライらしい衣装をまとい、顔は土にまみれて長い髪は乱れて、どうみても敵役の顔をしてる。
わっるい顔。







そういえば、最近連絡がこなくなってた。あれだけ鳴ってた携帯も、ここ二ヶ月くらいはプッツリ途絶えた。
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