雨の音
□前編
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酒でぐるぐるふわふわしていた頭が一気に冴えた。
おれに覆いかぶさって荒い息をつく男。
耳元に鼻先を擦り付けられ、思わず出そうになった変な声を無理矢理飲み込む。
あらぬ所がものすごい違和感を訴えている。
「サトル・・・」
溶けそうな笑顔と甘い声で名前を呼ばれ、頭を必死に働かせて自分が置かれた状況を確認する。
なんだこれは。
上から見つめてくるマサヤは裸だ。
汗ばんだ腕やらを絡みつかせて、狭いベッドに寝転んでいる、おれたち。
なんだこれは。
頭の中には、そんな叫びしか浮かんでこない。
熱いなにかがおれの中にいる。
確認するまでもない、なにかなんて、ぴったりくっついた体が教えてくれる。
「マ、マサヤ、やばい、おれ、」
自分が何を言おうとしてるのかもわからない。どもったし。
いつのまにか背中にまわしていた手を、とりあえずマサヤの肩にかけ体を押し戻す。
「ん?」
だからなんだその甘い声は!なあにサトル、と肩に置いた手をそっとつかまれる。
「なにって、おまえ、…っ」
なぜか腹の上がすごくぬるぬるする。なぜかなんてもう考えたくない。
「いっぱい出たね、サトル」
嬉しそうに囁きながら、また首筋に吸い付いてくる。一気に血の気が引くのを感じた。
「やめろ!はなれろ!ぬけ!」
肩を掴んでマサヤの体を引きはがす。体をよじったら、また体の奥に強烈な違和感。はやく!と暴れるおれに、マサヤはやっと唇を離し顔を上げた。
「サトル?どうした急に」
「いややばいだろ、いいからっ、はやく…、マサ、あぁっ」
「なんで?」
「…んっ、やめろ、って…!」
体の奥の違和感がむくむくと大きくなったと思ったら、そのまま腰を掴まれ強く揺さぶられる。
体格差なんてほとんどないのに、むしろおれの方が背は高いしガタイは良いはずなのに、逃げられる気が全然しない。
なんかもう変な声しかでないし、マサヤの肩に必死にしがみついていた。
今まで聞いたこともない優しい声で名前を呼ばれながら、何度目かもわからない熱を奥にぶちまけられて、おれは意識を手放した。