雨の音

□後編
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それからはバイトに勉強に遊びに明け暮れた。

お盆には帰ってこいという実家からのしつこい連絡に了承の返事をしたものの、結局帰りそびれてしまった。
それだけこっちでの毎日が充実していたのだ。

マサヤとはあれ以来メールのやり取りはしている。他愛もない内容で、会おうって言葉こそないが、元通りにしようって思ってくれてはいるらしい。

真意はわからないが、甘えることにする。
二度と口もきいてくれないだろうと思った、今の関係は充分だ。





「サトルこっちー!」

タカシが大声を上げる。
くそ、騙された。


小笠原さんと飲んでるから来いよ!

と、ゼミの教授の名前を出されて駆け付けたおれはすぐに悟った。
男二人、女三人が向かい合って座る席からブンブンと手を振るタカシ。
落ち着いた物腰の、じいちゃんと同世代な教授がこんな店来るわけない。小笠原ファンなら気付けよおれ。
こないだの講義の話とか聞きたかったのに。

必死な顔のタカシを見てしまい、引き返すという選択肢は渋々捨てた。
その隣に座る行彦は何だかすごくほっとした表情だ。

「こっちこっちー、サトルー!」
「こっちーじゃねえよ、嵌めたな」
「ごめん声でかいサトルー!」
「お前だようるせえな」

ごめんごめんってーと騒がしいタカシの頬を思いっ切りはさんでタコにしてやる。

「サトルくんってゆうの?はじめましてー」

ニコニコと挨拶してくるカワイイオンナノコたち。
明るい色の髪をクルクルとまいて、なんかすごいまつげ。タカシが好きそうなタイプの二人と、奥には黒髪美人。

でも小笠原教授のフワフワの白髪に会いにきたおれには関係ない。
ちょっと付き合ったら用事を思い出して帰ろう。

頭のなかで決定してビールを注文すると、女の子たちも追加で飲み物を頼んでる。まだ目の前に残ってるじゃないか。そう思ったが、グラスのなかの炭酸はもう抜けてしまってるようだった。

「ではあらためてカンパーイ!!」

ジョッキを上げたタカシは晴れやかな笑顔だ。
今度なんか奢らせよう。
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