ミルトニア
□一目惚れ
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目の前には、整えられ過ぎとも言えるくらい美形で短髪の男。
どこにでもあるような白のポロシャツを着てジーパンを履いているだけなのに、なんともいえない色気が漂っている。
新聞片手に優雅な仕草で赤い何かを飲んでいて、あそこだけが別世界だ。
彼はどうしてここに留まっているんだろうか。
「なんだ?」
新聞から私へと視線をうつされた。その目は瞳孔が縦に裂けていて黒茶というより赤茶。
まぁいろいろと人間にはありえない訳です。なんていっても彼は吸血鬼なんですから。
「別になにもないよ?ただトマトジュースが似合うなぁって」
彼は少しむっとしたらしい。けれどすぐにふっと口角を上げた。
「…出来れば血がいいんだが」
そう言う彼の瞳孔は更に裂け、光を放っているんじゃないかと思わせるくらいに赤が強くなった。
吸血鬼用語でチャームというらしい。
けど。
「私には効かないってば」
「クックッ、やっぱりおもしろいなお前は」
「何が」
別になにも?と妖しく笑って彼はまた新聞に視線を戻す。
私の返事へのあてつけか?
睨んでも彼はちっとも反応しなかった。
…効かないよ、チャームなんて。
それは強制的に相手を自分の虜にし服従させるもの。
「…どうしてもって言うならあげてもいいよ?」
いや、効きすぎているのかも。
彼の新聞を持つ手が微かに反応した。戻される視線に高鳴る鼓動。
「でも私からは行かな、っ…」
瞬きをした時には彼はいなくて、首筋にチクッとした痛み。
自分の血管が脈打つ音と彼が喉をならす音だけが響く。
「ごちそうさま」
後ろで彼が口角をあげている気がした。
チャームなんて使わなくなって私はこんなにあなたに弱い。
だって私はあの満月の夜にあなたがここに来た時すでに恋に落とされていたのだから。
一目惚れ
(恋を強制されたみたい)
(トマトジュース好きってのは驚いたなー)
(あ?)