ミルトニア

□眠り姫
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知ってしまったら止められない。
それが人間の性ってやつだと私は思うのです。


「あ?」

「こうちゅっと」


自分の出せる最大限の色気というものを引き出して、唇に手を当てキスをねだる。
けれど彼には効かないらしく、軽くあしらわれてしまった。


バタり。
いつもより熱い自分の体がベッドに倒れる平日の朝。
今日は大事をとって会社を休まなければならないようです。

「うー最悪」

「自業自得、ってこっちでは言うんだろ?」


口角をあげて笑う彼。

でもそのとおりだから反論は出来ない。
昨日友達と遊びに行った帰り大雨にあたり、ちゃんと体を温めることもせず、一杯やった私の責任。
少し風邪気味だったのにも関わらずだ。


「分かってるけどさ…少しくらいいーじゃん」

「はっ。そんな簡単にやれるものじゃない」

「前はくれたのに!それにいつも私から吸ってるくせに…」


少し前まで吸血鬼は血だけを吸っていると思っていた。
だけどそれは少し違うんだって。
血だけの時ももちろんあるが、たまに生気も戴いているらしい。

そんな生気は人間から吸血鬼、吸血鬼から人間と移動可能で。
この前少し分けてもらった私は元気になったのです。


「クク、たかがあれくらいの雨に濡れて倒れるとは。
ま、大人しく寝てることだな」

「吸血鬼と同じにしないで下さい」


今彼が私に生気を分けてくれれば、たぶん元気になると思うんです。

…なぜか分けてくれませんが。


ガチャッと冷蔵庫の開く音。
ぼーっと見れば、彼はトマトジュースをコップに注いでいる。

瞬きをした瞬間に彼は私のところに移動していて、ちらつかせられた水いりコップ。


重い体を起こして一口。

いつもならありえない彼のやさしさに驚きながら、私はベッドに再び倒れた。



――――…


カタンと飲み終えたコップをテーブルにおく。
なぜか気に入ってしまったトマトジュース。彼女はバカにしながらも必ず用意してくれていた。


無意識に深いため息がひとつこぼれた。それはたぶん"やばかった"と体が発したもの。

熱のせいだろう。少し紅潮した頬に、潤んだ瞳で見られた時は確実に瞳孔が開いた。
全身でこいつをほしがった。


「こっちの身になれっていうのは無理な話、か」


自分に聞かせるように発した言葉。

俺は彼女に近づき彼女の髪に指を絡ます。
そしてゆっくり彼女に口づけをした。


「お前に触れると大変なんだ。いろいろとな」


苦しそうだった彼女の寝息が安らかなものに変わる。

生気を送ってやればたしかに元気にはなる。だが病気が治る訳ではないのだ。
こいつはこの前生気を戻してやったことで元気になり、体調=病気が治ると勘違いしたみたいだが。


「無駄に色気を出しやがって」












眠り姫
(キスをするのは王子様)







(起きないのは俺が吸血鬼だからだな)








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