ミルトニア

□不穏
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用意したふたつのコップにトマトジュースを注ぐ。

彼はいつものように新聞を片手に持ち、ジュース待ち。
彼自身も彼の妖しい雰囲気もいつも通り。何もないように振る舞っている。


「どういうことなんすか!?先輩!!」


けど、私の心臓には悪い状況です。
だって視線の先には人間とは思えない美貌の男がふたりいるのだから。

…まぁ現実のところ人間じゃないのには間違いないんですが。


「無視っすか、無視なんすか、」


彼に詰め寄っている後輩ことカラス君。
彼は玄関から現れました。


――…

ピンポーンと朝早くから鳴った呼び鈴に機嫌を悪くした彼を尻目に玄関へと急いだ私。

「どちらさまですか?」

チェーンを取らずに開けた隙間から見えた茶髪の男。
中性的な顔立ちなもんだから、女だと言われたら普通に納得すると思った。

ただ、声が低かったのでそんな間違いはしなかったけれど。


「朝からすみません。ここに…えっ…と。あ、ツキヤライトさんって方がいると思うんすけど」

「雷斗?」

「あ、おれカラスって言ってライト先輩の後輩で、こういうものなんすけど」


そう言った彼の目は、赤く光った。

カラスくんにちょっと待ってもらいつつ、雷斗に報告。


「帰ってもらえ」


迷うことなく彼はそう言いました。




――…



新聞を片手に持っている不機嫌な“先輩”は口を開いた。


「まだか?」

それは目の前の後輩にではなく、私に向けられた言葉。


「あ、はいこれね」


2人に差し出すトマトジュース。

「お構い無くってなんすか、これ」

「トマトジュースだよ」

「トマト…」


怪訝そうな顔を浮かべながら一口。


「うっ…」


一口だけ減っているコップと空っぽのコップが並んだ。


「あ…トマトジュース苦手だった?吸血鬼ってみんなこれ好きなんだと思ってたんだけど」

「うえっ…こんなん初めて飲んだっす。ライト先輩ぐらいじゃないっすか?これ好きなの」


何か別の飲み物をってなことで水を新たに差し出す。

「そうなんだ、雷斗先輩?」

「…」

私も無視か。

新聞を読み終わったのか、彼は机へと新聞を置いた。


「はやくお前帰れ」


水を口にしていた後輩は先輩から発せられた言葉に水を吹き…かけた。


「なんて先輩っすか!さっきもおれ追い払おうとしたり、試験で帰れないこと知ってるくせに帰れって言ったり!」


ダンっと置かれたコップの中で水が激しく揺れている。


「試験…?」


吸血鬼たちの試験なんて初めて聞いた。
そう、ただそれだけのことだったのに。

「…え?」

後輩くんは驚愕の表情を浮かべ私をみたのだった。










不穏
続く


















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