ミルトニア

□不穏A
1ページ/1ページ


気まずい空気が流れている。
私が試験について知らなかったことは、何か問題があるらしい。

向かいのカラスさんから鋭い視線が雷斗へと突き刺さる。


「先輩と奈月さんはどういう関係なんすか。贄の契約結んでるんじゃないんすか」


確かに私たちってどんな関係なんだ…

「へ?に…え?」


聞きなれない言葉。
その言葉に雷斗の表情が曇り、それを見たカラスさんは顔を歪めた。


「ちょっと失礼するっす」

ギッという音が、椅子と床が擦れた音だと認識する。
と同時にパシッという音が耳元から聞こえ、ひっと私の声がこぼれた。
反射的に頭を抱えた私は、そのまま音の方に顔を向ける。

カラスさんの手首を雷斗が掴んでいた。


「先輩…その様子じゃ印つけてないんすね」

「もう帰れ」

「…先輩」


怒っているような悟すような、そんなカラスさんの声が響く。

雷斗がカラスさんの手をさらに強く握り、ゆっくりと離した。


「先輩…これはヤバいっすよ。元老院だけじゃなく協会からも目をつけられます」

「バレなければ大丈夫だ」

「せんぱ〜い…なんで昔からそうなんすか…」


カラスさんは両手を私と雷斗の腰かけている椅子の背にそれぞれ手をつき、がくっと肩を落とした。

カラスさん越しに見えた雷斗はこちらに顔を向ける様子がない。


「雷斗?」


そっと呼び掛けると、少し…ほんの少しだけ。雷斗は反応を示した。


「…」


この感じ知ってる。いつも誤魔化される時の雰囲気。
ほら、踏み入ってくるなって全身が示してる。

「…」

「…雷斗先輩。このままじゃダメなのは分かってるっすよね?俺から話しますよ。」

いっすねって言ったカラスさんは元居た椅子に座っていた。


「だから会いたくなかったんだ」


ぼそっと雷斗が呟いた。


「カラスさん…」


分からないことがありすぎて、とてつもない不安に押し潰されそうだ。
そんな私の心情を察したのか、カラスさんは満面の笑みを作った。


「いやぁマジで先輩は奈月さんが好きなんすね。妬けるっす」

「へっ?」


雷斗が私を好きだなんて初めて聞く。
しかもこのタイミングで言われたら、そりゃぁ聞き返してしまうと思う。

隣から溜め息がひとつ。


「お前な…、」


カラスさんの顔色が一瞬にして変わった。

「え?え…あれ?」


雷斗が私へと体を向けて、確かに言った。


「…そうだな。この世界の言葉を借りるとすれば、俺は、お前が、好き、だ」










不穏A
(たった一言で安心してしまう)






(え、あれ?まだ言ってなかったんすか?)

(ほんと空気読めないやつだな…)













[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ