誰も知らない物語2 完全版

□7章 シャイルとミズカ
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「……いや、マルナもいないと助けられないと思うぜ」
「え……」
「あいつには、周りの身内なんてどうでも良いんだ。例え、両親がろくでなしでも、敵のボスでも、その人はその人なんだよ」

サトシの言葉に「ろくでなしの両親は俺のことだ」とノリタカがニコッと笑った。

「むしろ、君がいなかったら、今のミズカはもっと酷い状況に立たされていた。彼女も感謝してるよ。君を助けたいとね」

マルナは顔を歪めた。北風使いを恨んだことがなかったわけではない。母親を彼女に盗られたみたいで嫌だった。ミズカはわかっているだろう。そんな自分を果たして助けたいと思うだろうか。不思議でならなかった。


パン……、パン……。同じリズムを刻み、壁に寄り掛かり座りながら、ミズカはグローブをはめ、その中にボールを叩いていた。連れて来られたときは、ちょうど部活の帰りだった。

ボーッとボールとグローブで遊ぶ。ここに連れて来られたボールとグローブは、ミズカが向こうの世界にいた証だ。着替えはもう済んだ。少し長めの半袖の黒いワイシャツにジーパン。

「……記憶……か」

勇気を出してサトシ達に会ったのに、記憶は蘇らなかった。しかし、どうしても蘇らせなければならない記憶。彼女は、少し苛立っていた。何とかしなければという思いが強くなるほど、焦ってくる。

終いに抑えきれなくなり、グローブの中へきつくボールを叩いた。サトシ達と会うことは最終手段だと思っていたのに、これ以上どうすればいいかわからない。

「もう……嫌だ……」

大切にしているはずのグローブを床に叩きつけた。息が荒くなる。何も考えたくない。他の事に捕らわれず、自由になりたい。しかし、やはり考えてしまうもので、タカナオやリョウスケは大丈夫だろうか。他にも二人と旅をしている子がいると言っていたが怪我はしていないだろうかと心配になる。

記憶が戻らないなら、合流した方がいいだろう。タカナオはバトルに慣れていない。それに争いは元来好きなタイプではない。

それに昔一緒に旅をしていたエーフィをタカナオが連れているという。エーフィに会えば、記憶が戻るだろうか。

『軽率な行動はするな』

父親からの言葉を思い出す。心配でも、合流したほうがいいと思っても、この世界を知っている父の言葉を飲むなら、タカナオ達を簡単に迎えにはいけない。

行くと言っても絶対に止められる。ミズカは立ち上がり、転がったグローブを拾うとボールと一緒に鞄へ戻した。そして重い体を動かし、マルナ達の待つ部屋へとゆっくり足を進ませた。


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