DANGEROUS TRIP
□二章 自由になりたい
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「何故失敗するの? 頭、良いんでしょ?」
「あぁ、ありゃ……わざと失敗してんだ」
「わざと!?」
タクトの言葉にサラは驚いた表情を浮かべた。
「そ。お前にはわかんねぇかもしんねぇけど、物心ついた時から、ロケット団の悪の一員として教育されるのは、かなりうざぜぇんだぜ。
まあ、お前と同じで、俺もずっと、逃げることしか考えてなかったけどな」
タクトは苦笑しながら言った。そうなると、お互い同じ境遇だったわけだ。
「そう言えば、あなたのポケモンは?」
「あ? この先にいんぞ。この森は俺の庭だかんな……」
「どういうこと?」
普通、自分のポケモンならモンスターボールに入れて持っているだろう。しかし、タクトは、持っていないらしい。
「俺、ポケモン持ってねぇフリしてんだ。十歳になったらポケモン持てんだろ? だけどよ、いらねぇっつったんだ」
「何故?」
「もう仲間がいたからな。それに、ロケット団からもらえるポケモンは、盗んだか、酷いやり方でゲットしたもんだろ。俺は、そんなポケモンを持つのは嫌だった。おっ、もう着くぜ」
「ここが……?」
「俺の秘密基地みたいなもんだ」
タクトが言った秘密基地は、立派な小屋だった。とても、森にあるとは思えない。
「すごい……」
「だろ? 俺、ポケモン達と隠れてつくんの大変だったんだぜ」
「木だけで、こんな立派な物が造れるなんて……」
タクトの話は聞かず、サラは、目を光らせて小屋を見ている。
「来いよ。中を見たら、もっと驚くぜ」
サラを引っ張り、小屋の中に入れた。
「……すごい」
中には、電球はもちろんの事、布団や非常食など、普通にここで暮らせそうだった。
「お〜い、いるか? 久しぶりに来たぜ〜」
そう言うと一匹のポケモンが、布団から顔を出した。そして、タクトだとわかると勢いよく彼の胸に飛び込んだ。
「寝てたみたいだな。元気だったか? 寂しかったよな、わりぃ」
「リオ」
そのポケモンはニコッと笑った。
「可愛い……」
サラは、目を輝かせポケモンに触れようと手を伸ばす。しかし、手を止めた。
「どうした?」
「触っていいのかしら?」
その言葉に、タクトは呆れた表情を浮かべた。一々、そんな事を聞かれても、困る。
「当たり前だろ」
「では……」
サラは、優しくそのポケモンに触れた。
一度もポケットモンスターという生き物を触った事がない。
「この子、何という名前なの?」
「名前はつけてねぇよ。ポケモンの種類で言うと、リオルっつうんだ」
リオルは、サラに撫でられ、気持ち良さそうにしている。
「この子が貴方の仲間?」
「そ。まだいんだけど、ここにはいねぇんだ。旅しながら、そいつらにも会いに行こうぜ」
「えぇ」
「……つか、お前、ポケモンは?」
タクトが聞くと、サラは首を横に振った。
「お父様に言っても、危ないと言われ……」
「そうか……、大変だな」
「私ね、ずっと友達も作るなって言われていたの。外を一人で出歩く事も、運動だってさせてもらえなかったわ」
「(コイツも、俺と同じで辛かったのか……)」
サラの言葉に、タクトはそう思った。ロケット団について全てを学ばされた。それがとても辛く、苦痛だった。
友達も作れず、運動もさせてもらえなかったという彼女を見て、少し辛い。
「でも、もう友達だろ?」
「え?」
「俺とリオルはもう、お前の友達じゃねぇのか?」
ニッと笑って言うタクトに、サラは次第に笑顔になった。
「ありがとう……」
少し赤くなりながら、サラは言った。彼の優しさが凄く心地よく、嬉しかった。
産まれて初めて友達というものが出来た瞬間だった。