誰も知らない物語2 完全版
□5章 初めてのジム戦、リョウスケの苦悩
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「何が言いたい」
「俺が思うに、人間が一人を理解するのは凄い時間が掛かるけど、ポケモンはすぐにわかるし、人間以上に何かを感じられる。確かなんだ」
「つまり、お前はシャイルのポケモン達の様子を見て信じるようになったのか」
リョウスケは頷いた。敵は呆れた表情で彼を見る。
「ふん。馬鹿馬鹿しい。根拠になっていないだろう」
「根拠ならあるさ。他にも。一番に信じたくなったわけがそれだっただけだ。今は……、あの人を裏切りたくない」
リョウスケはチラッとデンリュウを見た。デンリュウは何を言いたいのかわかったらしく、頷いている。
「電磁波だ」
「何!?」
咄嗟のことで敵は動けなかった。デンリュウの電磁波で体がしびれ、動かなくなる。
「言っただろ? 次は容赦なく、お前を攻撃するって」
「な……」
デンリュウに礼を言い、モンスターボールに戻すと「じゃあな」と言って、リョウスケは、タカナオとヒナを追いかけて行った。
シャイルを裏切ることはしない。たとえ、タカナオやヒナに誤解されても、それだけはできない。しかし、リョウスケはもう一つ決心していた。
幹部まで動いている。きっとシャイルが見つかるのも時間の問題だ。自分とマルナだけではシャイルを守り切れない。だったら、頼れるところに頼るしかない。脳裏には世界チャンピオンが浮かぶ。自分のことはバレた。リョウスケはもう怖くはなかった。
「……ナ? ヒナ!?」
「え……?」
「……大丈夫? 休憩しようよ」
ボーッとしているヒナにタカナオが言った。彼女は小さく、「ごめん」と謝ると、開けたところの木にもたれるように座った。暗い表情の彼女に、タカナオはかける言葉が見つからなかった。
タカナオは顔を歪める。考えもしなかった。あの彼が、何故、悪の道へ進んだのだろうか。何か理由があるにしろ裏切られた気持ちになっているのは確かである。恐らくヒナも、タカナオと同じ気持ちだろう。二人はしばらく黙ったまま、そこから動かなかった。
「……行くわよ」
5分とせず沈黙を破り、ヒナは言った。彼女は静かに立ち上がった。
「リョウスケ、待たないの?」
「来ないかもしれないじゃない。ハナダシティに行って、カスミさんに伝えないと……」
タカナオの気持ちは無視し、彼女は俯き、勝手に歩き出した。それを追いかける。
「リョウスケは来るって。敵に勝って、また僕達のところに戻って来るよ」
「勝てないかもしれないじゃない」
「……ヒナはリョウスケと幼馴染みなんでしょ? どうして信じられないんだよ。たしかにリョウスケは裏切りに近いことをしたかもしれない。でも、理由があるはずだ。違う?」
タカナオの言葉に彼女は立ち止まった。顔を上げる。彼女の目には涙が溜まっていた。