DANGEROUS TRIP
□二章 自由になりたい
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「タクト、ちゃんとサラお嬢様の言うこと聞くのよ。男の子なんだから、しっかり守りなさい」
「(なんで同い年の女の言うことを聞かなきゃなんねぇんだよ。頼まれたの俺だぜ? つか、なんで、こいつの扱いがお嬢様なんだよ)」
翌日、母親の言葉に、ムッとした表情でタクトはそう思った。そんな彼はいつもの団服ではなく、赤いTシャツに黒い長袖のジャケット、同じく黒いジーパンを履いていた。
「それじゃあ、行ってまいります」
ペコッと頭を下げ、サラは歩み始めた。彼女の格好はピンクのノースリーブに白いカーディガン、デニムのミニスカートを履いている。
「おい、ちょっ……。んじゃ行ってくる」
タクトはスタスタ歩いて行くサラを慌てて追いかけて行った。
「あの、えっと……」
「タクトで良いよ。あんま堅く話すな」
どう呼んだらいいのかわからなかったサラに、タクトはそう言った。
「じゃあ、普通に。……タクトは私と話すのに、普通に話してくれるのね」
「あ? やべぇ、つい癖で……」
昨日あれほど、親に乱暴な口調を使うなと言われたのを、すっかり忘れていた。頭を抱えているタクトにサラはクスクス笑う。
「わ、わりぃ……じゃなかった、ごめん。俺、……や、僕……。おえ、俺が僕とか、気持ちわりぃ」
とうとうサラはお腹を抱えて笑い始めた。恥ずかしくなりタクトは顔を赤く染める。
「お、おい、そんな笑うこたぁねぇだろ! ……あ(またやっちまった)」
口を開ければ、乱暴な口調しか出て来ない。敬語と乱暴な口調の間がどうしても出来なかった。いっそうの事、敬語にしようかと迷ってくる。
「私、別にあなたに口調を正してなんて言ってないわ」
やっとの事で笑いをこらえ、サラは言った。タクトは首を傾げる。
「ただ……、そんな口調で話されたの初めてで……嬉しかったの」
「は? 嬉しかった……?」
嬉しかったと言う言葉を聞き、タクトは驚いた。乱暴な口調を聞き喜ぶ人はいないだろう。
「その……、いつも皆、私に気を遣うから……。だから私、あんな所からは逃……」
逃げたかった。と言いたかったのだろう。しかし、タクトに手で口を押さえられた。
「あ! サラ、あっちに行こうぜ! たくさんポケモンがいるんだ」
そう言ってサラを強引に引っ張り話始めた。
「ど、どうしたの?」
「ちょい、黙って引っ張られてくれ。ワケは後でしゃべってやるから」
「え、えぇ……」
タクトの真剣な表情に、思わず頷いた。そして、森の奥へと走って行く。しばらくすると、タクトは止まった。
「リュックを貸せ」
「え?」
「良いから」
リュックを黙ってタクトに渡す。するとタクトは、リュックに手を突っ込み、何か小さい機械を取り出した。自分の物はめんどくさいのか地面に全て出す。
すると同じ機械が出てきた。サラは驚いた表情をする。
「よっしゃ! これでおさらばだ!」
タクトは思い切り、その二つの機械をどこか遠くへ投げた。
「危ねぇ……、てめぇ、それ以上言ったら、また、あんな所へ連れ戻されてたぞ……」
「どういうこと?」
「今俺が投げたのあんだろ? あれ、盗聴機なんだ」
「え……。そうなの!?」
物凄く驚いた表情で、サラは聞いた。タクトは頷いた。
「……監視もいただろ」
タクトはため息をついた。そして、今リュックから出した物を、戻し始めた。
「あなたがいるのに、……監視が必要なの?」
「俺は任務とか失敗ばっかだから、当然、任せられるわけねぇだろ。マキハラ幹部は、お前が心配なんだよ」
「お父様が……?」
「そういうこった。でも……、もういくらでも話せんだろ? ここの道は、全部わかんだ。行こうぜ」
タクトの言葉にサラはニコッと笑顔で頷いた。
「それでは……歩きながら……」
サラはタクトが全て物をリュックに入れ、背負うのを見ると歩き始めた。
「私、あんな所、もう嫌なの。だから、何度も逃げようと思っていたわ。しかし……、勇気がないから出来なかったの。せめて、外に出てみたいと思って……」
「旅を考えたってわけか」
「えぇ。しかし、お父様からはキツく反対されたわ。だから、つい……同い年の貴方が一緒なら良いじゃない。と……」
「言っちまったのか」
サラはコクッと頷き、ごめんなさい。と後に付けた。
「なんで、謝んだよ? 別に俺は嫌ともなんも言ってねぇぞ」
「ですが……」
「また堅い口調になったな……。そんな気にすんなって、実は俺も逃げたかったからよ」
ニッとタクトは笑った。サラも次第に笑顔になる。
「つかさ、なんで俺のこと知ってたんだよ」
「それは、お父様が疫病神がいるとお話されてて……」
「(格好わりぃな、俺)」
しかし、その分、今までの事が全てわざとだったと知られていないわけである。タクトは微妙な気分だった。