DANGEROUS TRIP
□五章 オツキミヤマの戦い
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「ここが入口なの?」
「ま、看板があるんだから、そうなんだろうな」
横の看板を見ながら、タクトがそう言った。サラは、看板を覗き、それを読む。
「この先、かなり危険……」
「ほら行くぞ」
サラの表情を見ることはなかった。見なくとも想像はつく。ところが彼女は、何も怖がるような感じではなかった。むしろ、楽しそうだった。
「……どんなポケモンがいるのかしら? ね、リオル」
「リオ!」
「静かにしろよ……(夜に来た意味ねぇだろ……)」
こうも五月蝿いと昼間に活動するポケモン達が起きる。それは避けたいところだ。さっさとこの山を抜けたい。その前に、ロケット団が現れなきゃ良いのだが、そう上手くはいかなかった。
途中まで順調に進んでいた足は止まった。前には二十代くらいのロケット団の段服を着た者がニコッと笑いながら現れた。
「やあ、タクト。久しぶり」
「……お、お前」
タクトは酷く動揺しているようだった。サラはそんな彼を見て首を傾げる。
「お前とは酷いな。俺にもちゃんと、カナタって名前がある。それに昔は、カナタ兄と呼んでくれたじゃないか」
「……覚えてねぇな」
まずは落ち着こう。自分がしっかりしないと行けない。タクトはカナタと名乗った男を睨み付けながら、そう自分に言い聞かせた。
「まだ怒ってるのか。あんな小さい事を……」
「リオル、はっけい!」
これ以上、カナタの話を聞く余裕はなかった。リオルに攻撃を指示した。しかし、カナタは簡単にかわし、自分のポケモンであるゴルバットを出してきた。
「(カナタっていう人……、何処かで……)」
サラは自分の記憶を懸命に辿っていた。タクトがこんなにも動揺してしまう人物をサラは何処かで見たような気がしているのだ。
「タクト、その子を渡してくれれば、俺は身を引く。マキハラ幹部に言われて此処へ来ただけだ。お前が後は何処に行こうと構わない。サラお嬢様を連れ帰るという命しか受けていないからな」
交渉だ。カナタはタクトを見逃すかわりにサラを渡せと言っている。
サラはタクトを見た。彼もずっと組織から抜けたかった一人だ。自分よりずっとずっと辛かったに違いない。ならば、自分が素直に帰れば良いのではないか。そう思った。
「あの、私……」
「お前は黙ってろ」
サラが何を言いたいのか、タクトにはすぐにわかった。帰りたくもないのに、自分のために帰ろうとしている。
「へぇ、随分とお嬢様に酷い口を叩くんだな」
「サラは友達だ。お嬢様だなんて思っちゃいねぇよ」
「友達か……。友達というモノは裏切られるから作らないんじゃなかったか?」
ニッと笑うカナタに、タクトの表情が強張った。サラは先程の彼の言葉を思い出す。
『ま、昔は友達なんかいらねぇって思ってたくれぇだからな』
もしかしたらカナタが関係しているのではないか。なんとなくタクトを見て思った。その瞬間、サラはカナタを何処で見たか記憶が蘇った。
「(……あの時の人?)」
サラはゆっくりとタクトの前に立った。
――四年前……。サラが十歳の時。
「お父様は、お金持ちなのにどうしてロケット団にいるのですか?」
そんな質問をした日があった。数日前に、団員にそう聞いて興味本意で質問しただけだった。
「お金も悪も、人を裏切らんのだよ。たしかに悪の方が敵は多く出来る。だがな、大切な人から裏切られる事は少ないのだよ。闇の世界の者は、闇にしか生きられんからな」
それが返事だった。裏切られるのを嫌う故に、闇の世界に入ったらしい。そこへ偶々入って来たのが、カナタだった。心地良さそうに、少し含み笑いをしていた。サラはその場を離れ、隣の部屋へ入るが、そのカナタの表情が気になって、会話を聞いたのだ。
「どうだ?」
「成功ですよ。いくら将来有望とはいえ、十歳の少年です。闇のドン底へ陥れるのは簡単でした」
何の話だかわからなかった。首を傾げながら深く聞く。
「やはり、抜け出すつもりだったのだな」
「はい。友達だと信じ込ませれば、全て話してくれました。今までの任務もやはり……」
「なるほどな。どうやって裏切ってやったんだ?」
父親は、楽しんでいるようだった。裏切りを嫌いだと言った父が、裏切りをしている。それだけはサラにも理解出来た。