ラケナリア

□episode5 仲間
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レイラが目を覚ましたのは、夜中だった。体中痛みが走り、無理やり体を起こした。起きるだけで一苦労である。辺りを見回して気がついた。自分の部屋ではない。個室になっており、病室といった感じである。そこで違和感に気づく。自分が乗っているベッドを見てギョッとした。人がいる。人がベッドに頭を預けて寝ている。レイラは目を擦った。

「(見えてる? 私、幽霊が……見えてるの!?)」

ごくりと息を飲む。今まで、幽霊なんて見たことがない。それがこんなハッキリと見えてしまうなんて、自分はどれだけ疲れたんだと冷静に思う。ゆっくり幽霊に手を伸ばす。物凄く怖いのだが、何だか気になった。正直今にも泣きそうだった。怖い。本当に怖い。恐る恐る、その幽霊の肩に手を触れた瞬間、その幽霊がバッと起きる。その瞬間、レイラは、

「キャーッ!!」

と半泣き状態で叫んだ。同時にサイコキネシスで部屋の電気が点く。

「……ごめん。驚かせたみたいだな」

幽霊だと思っていた人間が喋り出す。レイラはその人物を見て、ホッとした。この人を知っている。確か、ソウヤと言ったか。幽霊ではない。大きくため息をつきながら項垂れた。

「貴方だったのね……」

さすがの短気のレイラも今の怖さがまだ残っており、怒る気になれなかった。ソウヤは立ち上がる。

「いや、なかなか起きないから、俺まで寝ちゃって……」

苦笑しながらソウヤは言った。そして、話を続ける。

「君が起きたら、ここにミジュマルとチラーミィがいなくて驚くんじゃないかと思って、ジョーイさんに預けていることを言ってから出ようと思ってたんだ」

やっと気持ちが落ち着いてきた。冷静に辺りを見回すと、確かにチラーミィとミジュマルはいない。モンスターボールすらなかった。
どうして、ここにいないのか。レイラは先程あったことを思い出す。あまり思い出したくない記憶だ。ミネズミの大群に襲われ、チラーミィとミジュマルがバトルして力尽きてしまったのだ。そこでモンスターボールに戻し、レイラは一人でミネズミ軍団を相手にすることとなった。そこで気を失いそうになる寸前で助けてくれたのが、レイラが一人でできると言って邪魔者扱いした今目の前にいる少年、ソウヤだった。
恐らく、ソウヤがポケモンセンターまで自分を運び、さらには自分のポケモンをジョーイに預けて面倒を見てくれたのだろう。

「(私、惨めじゃない……)」

全てを思い出し、穴があったら入りたくなった。一人でできると啖呵を切った相手に助けられるなど、惨めで恥ずかしくて仕方がない。
ソウヤは俯き、気まずそうにしているレイラを見た。ソウヤ自身はもう気にしていないのだが、レイラは気になっているようだ。彼は部屋に出ることをやめ、再び椅子に座る。

「君……、凄いな」

優しくそう言ったソウヤに、レイラは眉を潜めた。何が凄いと言うのだろうか。ここで嫌味の一つや二つ言われるのだろうか。そう思ったが、全然違う言葉が降ってきた。

「ポケモンを安全なモンスターボールに入れて、代わりに自分が怪我を負っただろう? それって、なかなかできないことだ。ジョーイさんも、ポケモンをモンスターボールに戻したタイミングと判断が的確だって褒めてた」

バトルやゲットの話はしないのか。嫌味は言わないのか。ただの慰めなのか。レイラはどんどん追い詰められた気分になる。

「言っておくけど、怪我を負ったから慰めているわけじゃないからな。怪我をしたのは君の反省すべき点だ。だけど、ベテランでもなかなかできないことを君がトレーナーになって、たったの二日でやってのけた。それに対して褒めてるんだ」

ソウヤの言葉にレイラは嬉しかった。相手は自分より長くトレーナーをしている人だ。その人から、ベテランでもなかなかできないと言われた。口には出さないが、こんなに褒められて嬉しかったことは初めてかもしれない。

「明日もやるんだろう?」
「え?」
「ポケモンゲット。まあ、その体で動けるならの話だけど」

ソウヤに聞かれ、レイラは俯いた。嫌味を言われるのだろうか。しかし、褒められた後だからなのか、ソウヤに嫌味を言われても仕方がない気持ちになっている。レイラは黙ってソウヤの言葉を待つ。

「俺、新人の時、最初のポケモンをゲットするのに二週間掛かったんだよな」

その言葉に驚いて、俯いていた顔をバッと上げた。ソウヤと目が合う。レイラは途端に気まずくなるが、ソウヤは苦笑していた。

「見兼ねたトレーナーが手助けしてくれようとしたのに、俺、断って、一人でやろうとしてた。もう何日も何日も捕まえられないものだから意地張っちゃったんだ。傍に相棒がいるのにな」

その言葉にレイラは、目を見開いた。まるで先程の自分ではないか。ソウヤは少し恥ずかしそうだった。

「その様子だと君は、二日で間違いに気づいたんだろう? 俺、二週間も自分の考えが違ったことに気づかなくてさ、本当、今考えても馬鹿だったよ」
「……どうして、その話を?」

レイラは首を傾げる。どうして自分にそんな話をするのだろうか。レイラは今、その話を思い出したくない。それは自分の過ちに気づいたからだ。それをソウヤはわかっているのに自分の過ちを話している。それが不思議で仕方がなかった。

「正直、さっき凄く君にムカついてた。なんで新人のくせに生意気なこと言ってんだって。でも、昔思い出したら、俺も全く一緒だったんだよな、って思ってさ……。君は君で、必死にどうすべきか考えていたんだよな」

昔の自分と今のレイラが重なったらしい。それで、レイラの気持ちがよくわかったのだ。レイラはそれを聞くと、顔を赤くする。どうして、この人は自分のことを責めないのだろうか。さっきゲットできなかった上に、ポケモン達にまで襲われて、自業自得だと言わないのだろうか。

「あの……」

レイラは自分に掛かっている布団をギュッと握った。
ソウヤはレイラを見つめる。何か言いたげな表情の彼女を見て、黙って言葉を待つ。その表情は優しそうで、レイラは顔を赤らめながら、彼に言った。

「明日……、ポケモンゲットの仕方……、……教えて……下さい」

精一杯だった。どう考えたって今日の失態は自分の責任だ。もし、素直に教わっていたら、チラーミィだってミジュマルだって、あそこまで傷つかずに済んだかもしれない。それに、自分だってあんな怖い思いをせずに済んだ。
ソウヤは優しく微笑むと手を差し伸べた。

「勿論! 手伝うことがあれば手伝うさ」

ソウヤの優しさにレイラは泣きそうになるが、喉につまったものを飲み込んで堪える。レイラは先程取ることをしなかったソウヤの手を握り、握手をした。

「改めて、自己紹介するな。俺、ソウヤ。シンオウ地方の出身だ。宜しく! 君は?」
「私はレイラ。イッシュのサザナミタウン出身よ。こちらこそよろしくお願いします」
「(サザナミタウンって、金持ちが住んでいるところだよな……。この子、お嬢様なのか)」

ソウヤはレイラの出身を聞いて、心の中で静かに驚く。そして、我儘なところに納得する。だが、それでも解けない謎がある。

「……ところでレイラはどうしてポケモンの技が出せるんだ?」
「……え?」
「さっき、泣きながらミネズミにサイコキネシスや十万ボルトを放っていただろ? それに今だって、俺に驚いて部屋の電気点けるし……」
「……」

ソウヤの質問にレイラは絶句する。ソウヤはそんなレイラを見て、首を傾げた。
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