夢小説
□佑聖
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小雨が降っている。遅い梅雨がやってきたようだ。
エアコンの聞いた部屋のコンポからG線上のアリアを流しながら、佑聖と二人きり。
雨の音に混じる私の動かす髪切り鋏の音と二人の会話。
「佑聖の髪は綺麗だね。うらやましいな」
「そう?痛みまくってんだけどさぁ…。色落ち激しいんだよな」
「切っちゃうのもったいないよ。私なら切らないで伸ばしちゃう」
いきなり佑聖が髪を切ってと言ったのは30分前。どこからか鋏と大きなビニール袋をだしてきた。ビニール袋を自分に巻き付けて笑う。鋏を前にそんな器用なことできないと私は言い張ったが、結局鋏を持たされて、佑聖の髪を短くしていた。
溜め息をついて鋏を動かす。
「あっ」
「な、何か今の声嫌な予感した…」
変な力加減をしたせいで少し切りすぎたみたいだ。これはまずいと毛先を軽く引っ張ってみる。
「あいた」
「痛くないでしょ」
「ばれた?」
佑聖の肩越しの会話。
ふ、と項が目についた。照明焼けの目立つ肌が、何だかすごく好きでたまらなくなって、唇を落とした。
「佑聖ぇ…」
「なぁ―に甘えたしてんの」
ゆっくり振り向きながらふにゃっと、佑聖の目が柔らかくなる。私とあまり変わらない背丈なのに、腕に包まれると、広く感じる。
ゆっくり唇を重ねた。佑聖に猫みたいにペロペロと唇を舐められ、私は自分の唇をゆっくりと開く。
「…ねぇnana…しよっか?」
「ん…」
「ゆぅ…せぇ…んっ…ひゃぁっ…」
「nana…」
スる時、佑聖はずっと私の名前を呼ぶ。嬉しいけどくすぐったい。
さっき変に切った佑聖の不揃いな髪が私の体を撫でていく。世界で一番幸せな時。
「nana…好き…大好き」
ふいに囁かれる素朴な言葉が優しくて。嬉しくて。白い光はすぐ目の前だ。
行為が終わった少し後で雨が上がった。それと共に、佑聖は美容室に向かう準備をしだした。
まぁ…仕方ないと思う。ステージ上の人間があんな髪型じゃやっていけないだろうし。
靴をはく佑聖をぼけっと見ながら、懲りずにまた佑聖の髪を切りたいと思った。
「…ねぇ、また髪切らして?」
「ん?巧くなったらいいよ。巧くなればな。…んーじゃいってきます」
「わかった。気を付けていってらっしゃい」
佑聖が出てからコッソリ美容師の友達に電話した。そうしたら何時間か後、髪型がまともになった佑聖がニコニコニヤニヤしながら鋏やら何やらを買ってきた。
次の雨の日が楽しみだなぁと言いながら。
-END-