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□自分の心に疑問を抱く
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・バレンタイン記念!



「…毎年凄いな」
「…そうっすね」

トムさんと共に池袋の街を通れば、どこの店もピンク色。流れてくる沢山のラブソングが不協和音を奏でる。
今日はバレンタインデー前日。店先では若いカップルや女で溢れかえっていた。

「そいや、静雄は誰かにやんのか?」
「何をですか?」
「うん?チョコ」
「は、い?」

な、何で俺が。バレンタインっつーのは女が男にチョコやらなんやらをあげる日だろ?俺がやる意味がわからん。

「なんか聞いた話だと、女が男にチョコ渡すのって、日本だけらしいぞ」
「えっ…そうなんすか?」
「おぉ。それに最近は日本でも男から渡すことも多いらしいしな。友チョコも増えてるらしいし」

まぁ、俺はあげねぇけど。と、トムさんは続けた。
友チョコか…。普段世話になってる奴らにあげるのもありか?俺って結構周りに迷惑かけてっからな…。こういう時にお詫びするべき、なのか?

少し迷った後、仕事終わりにスーパーによって帰ろうと決めた。




・:*:・゜'★,。・:*:・゜'☆・:




インターホンを鳴らせば、はいはい、と返事が返ってきた。

「どちら様…」
「よぉ」
「さようなら」

開いたドアを再び閉めようとする新羅とドアの間に素早く足を差し入れ阻止した。手をドアにかけ、ぐぐぐっと力を入れてドアを開ける。

「しーんーらぁぁ…」
「すみません謝りますからドアは壊さないで」

ドスの利いた低い声で凄めば、新羅は慌ててドアを全開にした。最初から素直に入れればいいものを、何故こうも渋るのか。

「セルティいるか?」
「いるけど…まさかセルティを誘惑しにきたのかい?!いくら君とセルティが仲がいいからって、セルティは渡さないよ?セルティは僕のふげっ!」
『何か用か、静雄』

変な事を言い続ける新羅にキレそうになったとき、丁度奥からセルティが出てきて新羅に前蹴りをかました。

「まぁ、頼み事があって、な」
『?板チョコ、か?』

がさりと音を立てながら手に持ったビニール袋を掲げるとセルティはヘルメットを少し傾けた。

そう。先程トムさんと別れた後にスーパーで買ったのは、手作りチョコの材料だ。しかし買ったのはいいもののいかせん作り方がイマイチ分からない。
と、いうことでセルティの元へとやってきたのだった。

『もしかしてチョコを作るのか?』
「あぁ。でも作り方がイマイチでよ…セルティなら知ってると思って」
『分からなくはないが……私もあまり自信はないぞ?』
「それでもいいんだ」

良かった。一人でも作れなくはないが、やはり心細い。俺とセルティは床で伸びている新羅を踏んづけて(セルティは避けてた)台所に向かった。



『……で、チョコを入れたボウルを適当な温度まで温めたお湯の上において、温度を保ちながら溶かすんだ』


新羅を片付けた俺たちはチョコ作りに勤しんでいた。新羅家のキッチンは、セルティが使いやすいようにするためか、あらゆる調味料の瓶や容器にラベル―おそらく新羅の手書きだろう―が貼ってあった。

手元のチョコに集中していると、隣からやけに視線を感じた。振り向けばセルティがこちらをじっ、と見ていた(目がないので定かではないが)

「どうした?」
『いや…私もチョコを作ろうかと思ってな。その…し、新羅に』

セルティは最後の方はかなり恥ずかしそうに打っていた。そうか…セルティは恋人いるもんな。てか、俺は誰にあげっか…。
ぶつぶつと誰にあげるか思案していると、再び脇からPDAが出てきた。

『決めた。私も新羅に作る』

俺はそうか、と頷いた。こりゃ暫く新羅からはノロケを聞かされるんだろう。

『それで、新羅と材料を買ってくるから、留守番頼んでいいか?』
「あぁ。別にいいぞ。でもよ、新羅一緒でいいのか?」
『私はあいつがいないと店の中に入れないんだ』

そいや、よく見かけるな。フルフェイスメット着用の方はご遠慮ください、っつー注意書き。

レシピはこれだから、と紙を俺に渡すと、セルティは新羅を影で包んで、出て行った。暫くしてブゥゥゥンと馬の嘶きが聞こえた。

「さて、続き続き」

誰にあげっかなー、とさっき中断していた思考を再開させる。その間も、手元はお湯とチョコの温度を測りながらしっかりテンパリングを続けている。

まずはトムさんだろ、あとは門田、狩沢、遊馬崎、ヴァローナ、茜、サイモン、社長、あ、来良のガキたちにもやるか。それからクルリ、マイル………臨也?
いやいや、俺はあいつに迷惑かけた覚えねぇし。つか逆にかけられてるし。つかあげる義理ねぇし。てかあいつにあげるとかない。

「……ナイナイ」
「何が?」
「うぇぉっっ!!」

突然聞こえた声にビックリしつつも振り返れば、キョトンとした臨也がいた。…おかげで変な声出しちまったじゃねぇか。
怒りよりも驚きが勝ったためか、いつものイライラがこない。
と、臨也が俺の手元を覗き込んできた。

「チョコ?シズちゃんが?作ってるの?」
「…悪ぃかよ」
「ぜーんぜん」

キョトンとしていたと思ったら、ニヤリと急にいつもの嫌な笑顔になりやがった。きめぇ。
ふーん、シズちゃんがねぇ。とか言ってる臨也は放置して俺は手元に集中する。…集中、する。…集中…集…中…。

「できるかぁぁあぁぁっ!」
「何々シズちゃん!いきなり何なの!?」
「手前のせいだクソノミムシ!」
集中しようとしても出来ないのはこの害虫のせいなのだ。臨也の視線が気になって集中できない。仕方なく、俺は別のことをして、気を紛らわせることにした。

「手前はなんで新羅んとこ来たんだ?」
「俺?薬貰おうと思って」
「?どっか怪我したのか?」
「腰が痛いから湿布貰いに」
「どうやって入ったんだ?」
「どうって…普通にピッキング」

シズちゃん湿布貼って〜とねだるコイツは、本当に俺と同い年の男子なのだろうか?つねづね疑問に思う。
そして何故腰を痛めたのかも気になる。年か?年なのか?ついに死ぬのか?


なんやかんやでテンパリングを終えた。トロトロに溶けたチョコがとても美味しそうだ。たまらず指でひとすくいして、口元に持って行って味見する。

「おっ……美味い」

思わず一人呟けば、臨也がキラキラとした目でこちらを見てきた。


「一口ちょうだい!」



なんて図々しい奴だ。人の家に乗り込んだ挙げ句、人の菓子まで奪おうとするとは。


「やだ。誰がテメェになんてやるかバーカ」
「えぇ〜…シズちゃん!ちょうだいよ!ねぇ、ちょうだいちょうだいちょうだいちょうだいちょうだいちょうだいちょうだい…」
「あぁ゛うぜぇ、うぜぇ!分かった!やるから大人しくしろ!」
「やった!」


どうしてこいつはこんなにもウザいのだろうか。しかしあげなければまた面倒くさい事になるのは分かり切っている。
仕方なしに、俺はチョコの入ったボウルを差し出した。

「あんまいっぱい食うなよ」
「はいはい」


やれやれ、これで臨也のやつも静かになるだろう。しかし聞こえたのはコトリとボウルをシンクの上に置く音。

「味見終わっ、んぅ!」

不思議に思って振り返れば視界いっぱいに何かがあって。それが臨也だと分かったときには、後頭部に手を添えられて、俺の唇はやつの唇に塞がれていた。
慌てて口を閉じようとしたが、臨也は角度を代えて舌を俺の口内に侵入させた。

「ん…」

自分の口から漏れた声に驚いた。鼻にかかった声は女のように高くて、羞恥に顔に熱が集まる。
その間も臨也の舌は俺の口内を好き勝手蹂躙する。ザラザラとした舌で上顎、歯茎、歯と舐められる。

「ふ…ぅ……んぁ」

ついには奥に引っ込んだ舌まで絡め捕られた。くちゅくちゅという卑猥な水音が、鼓膜を震わせ耳まで犯す。
膝がガクガクと震えて、上手く力が入らない。臨也は最後の仕上げと言わんばかりにぢゅっ、と舌を吸い上げた。
肩で息をする俺を、臨也はニヤニヤと笑みを貼り付けている。

「俺からのバレンタインデーキッスどうだった?」
「ふざけてんのか手前!!」

一発臨也を殴ろうと足を踏み出したが、先程のき、きすのせいでうまく踏ん張れず、そのまま臨也に倒れ込んでしまった。

「あれ?何シズちゃん。もっとしたいの?そんなに気持ちよかった?」
「ばっ………!んなわけねぇだろっ!!死ね!」

ニヤニヤと笑っている臨也がムカつく。

「まぁ口からのほうが、減らなくていいでしょ」
「……減ったんだよ」
「?」
「なんでもねぇ!さっさと出てけッッ!!」

頭にハテナを浮かべて小首を傾げているコイツを可愛いとは思ってない。断じてない。

「もう大丈夫?それにしても、くくっ。シズちゃんがねぇ、あはは」
「うるせぇっ」
「はいはい。俺は退散するとしますよ」

チョコ楽しみにしてるね。そう言い残してやつは新羅家から出て行った。
ぼーっと見送っていた俺ははっと我に帰って再びチョコ作りを再開した。
この調子じゃ余るよな。しょうがねぇから臨也にやるか。いや、別にあいつの為じゃなくて、もったいねぇからあげるわけで、

「…わかんねぇ」

よく分からない言い訳に聞こえる言葉をつらつらと連ねる思考を中断する。やっぱぐだぐだ考えるのは性に合わねぇ。

俺は再び、明日のバレンタインに備えてチョコ作りを再開した。



アイツに奪われたファーストキスは
バレンタインのチョコの味

(ファーストキスだったんだよっ…)


―――――

リサイクル短編
臨也さんは静雄さんがチョコ作るの知ってたとかどうですか(笑)

臨也さんが静雄さんからチョコをもらうことが出来たかどうかは
ご想像にお任せします!







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