リクエスト小説

□※あまいのと、にがいの。
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ザアザアと降りしきる雨。
もう7月中旬に差し掛かっているのに、一向に梅雨明けしそうにない。
まあ今年は梅雨入りが遅かったから仕方がないのかもしれないな。

「しかしまあこうも毎日毎日雨が降ると流石に鬱陶しいよな…」

体にカビでも生えてきそうだ。
やれやれと、窓の外の雨を睨むように見ていた時だった。

「…ん?」

一瞬、幻かと思った。
運動場の端っこで何かが動いたのが見えた。
もう下校時間はとっくの昔に過ぎているし生徒ではないだろう。
第一こんな大雨の中、運動場に誰かが居るわけないか…。

野良犬でもいるのだろうか。

よく目を凝らしてもう一度見てみた。
…そして、思わず目を疑った。

「あの馬鹿…なにやってんだ…」

溜め息をついてすぐさま玄関へ向かう。
傘立てにある自分の傘を手に持って外へ出た。

傘をさしていても横から入ってくる雨に肩がじんわりと濡れてゆくのが分かる。
ああ、早くアイツのところに行って早く戻ろう…。

服が濡れてゆく不快感に苛立ちを覚える。

ズボンに泥が跳ね返らないように、でもなるべく足早に目的地へ向かう。
元々広い運動場が、雨による鬱陶しさで更に広く感じる。

運動場の半分まで来た所で、なんで自分はアイツの元へ行こうとしているのかと段々疑問に思ってきてますます苛立ってきた。

放っとけば良いのに…。


アイツのところへ着いたら一発殴ってやろう。
勝手にそう決めてとりあえず黙々と歩く。
たどり着く頃にはもう肩も腕も足もびしょ濡れになってしまった。


「…おい、雪」

苛立ちを抑えてなるべく冷静に声をかけた。
だがあまりに酷い大雨のせいで俺の声はかき消されてしまったらしく、相手は振り向きもしなかった。

「おい、この馬鹿野郎!雨の中傘もささずに何やってんだ!」

今度は怒鳴る様に大声を出したらびっくりしたのか、肩がビクリと跳ね上がった。
そしてゆっくりとこちらを振り返る。

俺に見せた顔はなんとも間抜けな顔で、思わず吹き出しそうになった。
眉毛はハの字、口はへの字で…今にも泣きそうな顔。

「と…戸田ちゃあ〜ん!!!」

俺の顔を見るなり俺に抱き着いてこようとしたので、右腕を突っぱねて阻止した。

「こんなびしょ濡れになって…お前は馬鹿か。大馬鹿野郎か。神聖お馬鹿ちゃんか」

「来て早々そんなに馬鹿馬鹿言わんでもええやん…」

しゅんとしょんぼりしている雪。
まるで飼い主に怒られたわんこだな。

「…はあ。とりあえず校舎に戻るぞ。こんなとこにずっといたら流石の馬鹿も風邪引くぞ」

溜め息をついて、雪の腕を引っ張った。
が、雪はそれを拒否した。

「いやまだ戻れんのや。ウチ、探し物しとるんよ」

「あ?探し物ー?」

「そやねん。それ見つけんと帰られへんねん」

「一体何探してんだよ…金か?」

はぁ、と二回目の溜め息が漏れる。
第一、日が暮れて辺りは薄暗くなって見にくいんだし明日探せばいいのに…。

「その…ウチの、大切なものを…」

「…あ?」

大切なものがなんでこんな雨でぐしょぐしょの運動場に落ちてるんだか…。
お前の大切なものは足でも生えてお前から逃げたのかよ…。
どこからつっこんで良いのか分からず、言葉が出なかった。


「………を探しとるんや」

「あ?何て?」
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