番外編

□雪の降る日に。
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「じゃあ、どっちが悪かったか、雪合戦して決めよや!!」

「は?」

「え?」

「…なんでそうなるんですか…」

真鍋先生の素頓狂な提案に、一同首を傾げた。
今の流れだったら、真鍋先生が一言、ごめんって謝れば、それで済むではないか…。
なんでこうもこの先生は話を一本化できないんだろうか。
救いの戸田先生が居ない今、誰もこの人を止める事が出来ない。

「よし、決まりや!チームはウチと滝川センセ対空とナルカミな!」

「ちょっと…真鍋先生、何で私たちも参加する事になってるんですか?」

「当たり前やん!一対一でやりあうよりも、チーム戦の方が燃えるやん?」

ほら、また主旨が変わってる…。
あたしと滝川先生はお互いの目を見て、ため息をついた。
きっと、滝川先生も呆れているに違いない。

「あ、真鍋先生。そういえば鳴神さんは、雪が嫌いで、触った事も無いんですって」

「何?!ナルカミ、生まれてこのかた、一度も雪に触った事無いん?!」

「えぇ、なので雪合戦というものも、した事ありません」

答えると、"ひゃ〜!!ナルカミ、人間やないで!"とオーバーリアクションを取る。

「やったら、今日、今ここで、初体験すればえぇで!…大丈夫、相手がウチやったら、初めてでも恐くないやろ?」

あまり上手いとは言えないウインクをして、にやにやと笑う真鍋先生。
思春期のあたし達に初体験と言えば興奮するとでも思ったのだろうか。
はぁ…とため息をついて口を開いた。

「分かりました。やれば良いんですよね、やりますよ」

半ば投げやりに言葉を放った。
やると言わないと、翌日になるまでここから帰してくれない様な気がしたからだ。
だったら、雪合戦とやらをさっさと済ませて、さっさと帰るのが一番手っ取り早く真鍋先生から解放される方法だろう。

「鳴神さん…本当にやるの?大丈夫?」

やったー!と喜んでいる真鍋先生を尻目に、滝川先生が心配そうにあたしに尋ねてきた。

「えぇ…ここにずっと突っ立ってるより、断然良いですから」

「そっか、なら良いけど…」


雪合戦のルールを知らないあたしに、真鍋先生が教えてくれた。
本当は、各チームの陣地に、旗などを立て、それを先に取ったチームが勝ちというルールがあるらしいが、それは人数が多い時の方が楽しいらしく、少人数の今日は、とことん投げ合って、先に降参した方が負けという、単純なルールでやることにした。
…そうと決まれば、さっさと真鍋先生に降参と言わせて帰らせてもらおう。

「さ、やるで!!」

真鍋先生と滝川先生の居る場所から、遠く離れた場所に、あたしと空さん。
真鍋先生のカウントダウンで合戦が始まった。

ゼロと言い放ったと同時に、いきなりこちらへ猛ダッシュしてくる真鍋先生。


「鳴神さん、私は雪球作るから、それをどんどんナベっちにぶつけてやって!?」

「うん、分かった」

早速、丸めた雪球を差し出してきた空さん。
やはり、雪に触れる事に抵抗があるあたしは、少し戸惑っていた。

「鳴神さん、早く!!」

そのあたしに早く持って、投げるようにと促してきた。
頷いて、思い切って白い球を掴んだ。

あまりの冷たさに、思わず落としそうになったが、今はそんなことをしている場合ではない。
とにかく、受け取ったら、素早く投げてしまえば良いんだ。
そうすれば、この冷たい不快感は、一瞬で済む訳だし。

すぐそこまで迫っていた真鍋先生めがけて雪の塊を投げ付ける。

「ふははっ!そんな球、ウチに当たる訳ないやん」

初めて投げた球は、見事にかわされた。
すぐさま、次の球を持って、再び投げ付ける。
今度は、命中こそしなかったものの、外れはせず、かろうじて体を掠めることができた。

三度目、四度目と繰り返すうちに、段々コツも掴めてきて、冷たいのにも、多少慣れてきた。
それに、気がつけば、雪合戦をしている事が楽しくて仕方なくなっている自分がいた。
体もポカポカと温かい。


真鍋先生が雪球を作っている隙を狙って、集中攻撃なんて悪技も習得し、真鍋先生のジャージは結構雪まみれになってきた。
一方のあたしも、避けきれなかったりして、少し雪がついてはいるものの、あたし達の方が、優勢の様である。

「ナルカミ…初めてにしては、なかなかやるやん!」

「早く降参して下さいよー」

「そうだそうだ!ナベっち、さっさと降参して私に謝れ!」

降参を要求すると、あっかんべーをする真鍋先生。

「ウチが謝るわけないやん!まだまだや!勝負はこれからやで」

あたしと空さんが言い返そうと、口を開きかけたが、真鍋先生の後ろで、今まさに繰り広げられようとしている状況に、思わず口を閉じた。

「ナベっち…」

「ん?」

「真鍋先生…」

「なんや?」

「「ご愁傷様です」」

首を傾げる真鍋先生に二人、両手を合わせて頭を下げた。
そして真鍋先生は…

「もぎゃー!!」

おおきなおおきな雪の塊の、下敷きとなった。
雪に埋もれた真鍋先生を見て、少し哀れになったが、空さんは大きな声で嘲ている。

「あははっ、滝川先生!ナイスです!」

「ふふっ、でしょ〜?まさか、これが役に立つとは思わなかったよ」

真鍋先生の上のそれは…

「お、重いっ…ウチ、死んでまう…」

先程まで滝川先生が作っていた、雪だるまの体の部分である。
柔らかい雪とは言えど、固まっているサイズが大きければ、それに比例した重さになるわけで…。
雪と雪に挟まれた真鍋先生は、みるみるうちに大人しくなってきた。

「真鍋先生。空さんに、ちゃんと謝るって言ったら、助けてあげます」

「ちょっ…た、滝川センセ…?確か、ウチの記憶が正しければ、滝川センセはウチと同じチーム…仲間やなかったっけ…?」

「あれ?そうでしたっけ?」

笑ながら、首を傾げる滝川先生。
へぇ…真面目そうな滝川先生も、こういうお茶目な事するんだ。

「う…裏切り者ぉ〜」

泣きそうな声で言ったあと、とても小さな声で、

「空…ごめん」

と謝った。
空さんは、満足そうに微笑んだ後、真鍋先生の上に乗っかっている、雪の塊をのけてあげた。
よろよろと立ち上がった真鍋先生の顔は、雪のせいで真っ赤になっており、それを見たあたしたちは爆笑した。

「な…そんなに笑う事ないやん…顔面が霜焼けになるかと本気で思うたんやから…」

「自業自得ですよ」

「そうだそうだ!」

やぁやぁ言っていると、滝川先生が皆で雪だるまを作ろうと言い出した。
先程までのあたしなら、絶対に断っていたが、今のあたしはその意見に勿論大賛成して、大きな雪だるまを作る事にな
った。


「出来たなー!」

「顔、どうしようか?」

「そうですねー、なにか、石とかで目を作りますか」

「うーん」

完成したは良いが、肝心の顔に悩む。

皆で悩んでいると、校舎の窓から、声がした。

「おい、オマエら、こんな夜遅くに何やってるんだ!」

その声に一同視線を移す。
あれは、

「戸田ちゃんやん!!」

眉間に皺の寄っている戸田先生だった。
きっと、相当怒っているに違いない。

「あ!そうや、戸田ちゃん!眼鏡貸してや!!」

「あ?何に使うんだよ」

あたしは、分かった。
きっと真鍋先生は戸田先生の眼鏡を、雪だるまの顔にするつもりなんだ。

雪だるまの顔を取りに、真鍋先生と空さんが戸田先生の元へ駆けて行った。



「雪だるま…明日もずっと残ってると良いね」

二人きりになって、滝川先生が微笑みかけてきた。

「あ…はい。そう、ですね」

雪だるまを見つめて、ゆっくりと頷く。
あたしも、皆で作ったこの雪だるまが、ずっと残っていれば良いと思った。
けれどあたしは知っている。

明日になれば、暖かい太陽に照らされて…姿を変えてしまう事を…。
それを知らない滝川先生には、言いたくなかったので、黙っておく事にした。



「滝川先生…ありがとうございました」

呟く様に、小さな声で言ったつもりだったのに、先生には聞こえしまって。

「ん?何が?」

と、首を傾げた。

あたしの雪嫌いをいとも簡単に…"大好き"に変えてくれて、ありがとう。
雪に触れる事の楽しさ、皆ではしゃぐ面白さを教えてくれて、ありがとう。

そう言ったら、きっと…滝川先生は私のおかげなんかじゃないと否定するだろうから、適当にはぐらかした。




今度からはもっと、沢山降っても良いよ


綺麗な星たちが輝く夜空を見上げて、心の中で呟いた。


終。
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