見える盲目

□盲目虎
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僕は生まれた時からずーっとこうなんだ。

変わらないし、変わる気もない。
そう、ぼくはずっと・・・このまま・・・


ピピピピピピ・・・

聞きなれた朝の音。不快な電子音を流し続け、ボタンを押すまで止まることはない迷惑な機械。自分の黄色の毛皮に包まれた短い腕を伸ばして、そいつの息の根を止めた。重く短い体をベッドから降ろし、二足歩行の虎はそのままの重い足取りで下へと降りて行った。


「おはよう・・・」
僕の高い声がリビングに響く。あぁ、おはよう、と一人の青年の声が同じように響く。彼は僕の兄。唯一の家族であり、僕の保護者でもある。少しだけ尊敬もしてる。
「今日から4年生は朝の運動始まるんだろ?早く行かないと遅れるぞ?」
分かってるよ、と愛想のない返事をいつもの様に返す。いつもの様に。今朝の会話はこれでお仕舞。兄は会社に、僕はゆっくりとトーストを食べて家を出発する。変わらない日常風景。

小学校では班を組み、通学路を通り、学校へ登校する。いつものように僕は班の後ろに付き、副班長として無駄な手伝いをさせられる。これで安全が守れてると思ってるのだろうか?

学校に着く。朝の運動は足の捻挫という嘘で見学した。保険室常連の僕はそれぐらい簡単にできてしまう。
「またサボリかよ」「まじうざいよな」「デブだから運動できないんじゃね?」
同じクラスの猫、犬、馬からきもちわるい笑いが起きる。なにが面白いのかは僕には分からない。その笑いは僕の中にもやもやっとした感情を置いて行った。

クラスに戻り僕は自分の席に座り、ただ本を読みだす。何回も読んだ同じ本を読みだす。みんながクラスに帰ってくる。まわりはうるさくなるが、僕は読書を続ける。話しかけてくる奴はいない。ただ、僕を見て笑うヒトだけ。先生がクラスに入ってくると喧騒も小さくなり、出席確認が始まる。
荒虎 幸在(あらとら こうざい) と名前が呼ばれて返事をするが、声が小さすぎて喧騒にかき消される。
「あいつ休みじゃねー?」
さっきの猫がこっちを見ながらわざとらしく大きく言う。ドッとクラスが湧く。先生は無視し、僕の存在を確認するとチェックし、出席確認をしていく。また、もやもやっとした感情が胸の奥につもった。そう、ただの日常。

いつもの調子で過ぎた学校は泥のように重くのしかかり、僕をあざ笑っていた。
「さようなら」
校門を駆け抜ける。僕の重い肥えた体じゃ速さは出ない。それでも自分の力を振り絞って走る。
家に向かって被毛をなびかせながら。

息を切らしながら家に入り、ランドセルを投げ自分の部屋に篭る。
視界が滲む・・・いつものこと。
布団をかぶり、くぐもった嗚咽をもらす。
いつもこうだ・・・もやもやの感情が僕の鼻の奥をツーンとさせて・・・
布団を力の限り握りしめた。しかし、僕の弱い力じゃ皺を残すことしかできなかった。
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