STORY


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志摩のカタオモイ 勝志摩
ずっと、好きやった。
授業を真剣に受けている、前の座席の人を見つめる。
そこには俺らが命に代えても守ろうと日々誓っている坊の姿。

見た目こそ怖いものの、実は不器用で優しい坊。
そんな坊に惹かれはじめたのは、僕が中学に通ってたくらいの時。
女好きの俺やのに、ありえへんって思うたんやけど、やっぱりその気持ちは嘘ではないみたいで。
坊が誰かに優しくすれば妬けるし、俺に笑いかけてくれはったらそりゃもうめっちゃ嬉しい。
けど、もしこの気持ちが坊に知られたりしたら…

優しい坊のことや。自分のこと責めるかも知れへん。
いや、無理して俺と話したりするかも…

とにかく、それだけは絶対嫌や。
俺は坊のそのままの、あの坊の周りに出てる空気が好きなんや。
だから、俺は坊にこの気持ちを伝えることなく、ここ正十騎士団まで坊に着いてきたんやけど…。

先生の質問にすらすらと答える坊を見つめる。
そのあと、坊にもらった消しゴムを見つめてみたり。


…最近、俺の得意の上辺だけの感情というのが、難しくなってきた気がする。
坊の前で、だけ。

もちろん、何とかごまかしては来てるけど。

時には放心状態で坊のことを見つめてたり。
坊にいきなり呼ばれると声が裏返ったり。
それはそれは、今までの俺からは考えられない様子の数々。

昨日なんか、部屋で坊と二人きりだったときに、「なんか悩み事でもあるんやったら相談しろよ」なんて言われた位で。
いやぁ、相談できるようなことならもっと楽やったんですけどねぇ…なんていえるわけもなく、「はは」と笑ってごまかしておいた。

「…ま。志摩っ」
「うわ、はいっ!」
「お前、帰らへんのか?」

坊の言葉に周りを見渡せば、帰り支度を済ませた出雲ちゃんや杜山さん、奥村君たち。
もちろん子猫さんも坊も、帰り支度は済んでいる。

「あはは、なんやボーっとしてましたわ。今すぐ済ますんで先帰っててください。」
「…ほうか?んなら…子猫丸、行こうか」
「はい。じゃ、志摩さんお先に」

みんなが出てった後の教室。
物音ひとつしない。
「…なんや、人が居らんと不気味やなぁ」
もともと俺は怖いものはそんなに得意ではないし。
「早よ行こ」
さほど荷物の入っていない鞄を肩に掛け、独りの教室を後にした。



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