階層毎のお客さん SS

□2階
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 2階 ハジメテのお客さん 








 男は僕の一歩後ろを歩きながら廊下を歩く。内装は薄い黄色の壁紙に赤い高級そうな絨毯が敷かれ、ところどころに花が長い瓶に入っておかれている。男は後ろから「お菓子を食べながら入りなさい。そのほうが客受けがいいんだ」と言って聞かせる。袋から取り出し、飴にかぶりつく。安っぽい合成着色料の味を堪能しながら、本当に久しぶりのお菓子に少し心が躍る。

 ――最後にこんなに甘いものを食べたのはいつだろう?

 まだお母さんが家で手料理をし、お父さんがお外で仕事をしていたあの平和な時期以来だろうか? そのころ僕はあの土手で工場を眺めながら帰る毎日で…。なんてことない日々だったけど、本当に幸せだったんだと思う。そして家に帰っておやつをせびって困った顔をしながらクッキーをもらっていた。まぁ、その次の日は机で話し込んでいたから…もうあれ以来食べていなかったのかな。そこからは貧乏生活で川の魚を食べている毎日だったから、まともなものも全然食べていない。
 自分がませた子供だという自覚はある。だが、なんだかんだ言って最終的に落ち着くのは子供だ。何も知らない。全く水を吸っていないスポンジのようなもの。
 僕は特別、少しだけ泥水を吸い、周りに一目を置くようになって少しだけ大人っぽい考え方を真似ているだけだ。真相なんてわかっちゃいない。あの工場で何が起きているかも、あの煙が今後空気と同化してどう言う結果をうむのかも、知ったかぶっているだけで本当は一ミリもわかっていない。
 今僕が食べているこの安っぽい飴もさっきは合成着色料とか言ってたけど、合成着色料とは何かさえもわかってない。ただ「甘くて美味しい飴」という認識ならしっかりとある。高級な飴から安い飴までいろんな種類を食べて入れば結果も変わり、まずいという認識になったかもしれない。でも、僕にあるのはただの飴。ただの飴なんだ。

 そんな甘い飴を、僕はただ舐め続ける。美味しさと、懐かしさと、帰りたいような気持ちに纏われながら。  

「この部屋だ」

 気がつけば無機質な扉の前で立ち止まっていた。扉の上にランプがチカチカとひかり、怪しげな雰囲気が漂っていた。
 男はチャイムを押し、「お待たせしました」とマイクに向かって声をかける。扉がすぐさま開く。知らない風貌のあんまりにぼやけて見える人がいた。  

「やぁ、カービィ…」
「では、ごゆっくり。お時間10分前になりましたらこちらからお迎えさせていただきます」
「えぇ、えぇ。サァ、こっちにおいで。カービィ…」

 手を引かれ、僕はそのまま男のヒトに部屋に入れられる。男のヒトは僕を見てニコニコしている。とても機嫌が良さそうと見た。
 部屋の中はビジネスホテルとそんなに変わらなかった。ただ普通と違うとすれば、お菓子が机の上にたくさん置かれ、ベッドの上にぬいぐるみ。テレビの前にはゲーム機が。部屋の一角にお子様コーナーの遊び場のような場所があり、少しテンションが上がる。

「カービィ。飴は美味しいかい?」

 男のヒトはくるっと振り返り、笑顔ながら僕に問いただす。僕はしばらく固まった後、ゆっくり頷いた。

「とても大人しい子だね。緊張してるのかな?」

 ――そういえば、僕はこっちに来てから一言も喋ってない。
 というのも、話がどんどん進むから、頷くだけで済む。だから喋る必要がなかった。声の出し方を忘れたのかってくらい喋らない。このヒトは僕が緊張してると思っているから喋らないだけだと思っているみたいだし、放っておけばいいか。
 ベッドに座り、男のヒトは変わらずにこにこしている。どうすればいいのかわからず、僕は飴をただ舐める。舐め続ける。

 口に咥えた。…瞬間、男のヒトはさっきの優しい態度とは裏腹に、乱暴に僕を押し倒した。飴が手から離れ、床に落ちる。男のヒトは息を荒げ、にこにこしていた顔からニヤニヤした卑しい笑顔に変わっていた。

「ははは初物だって言うのにそんな厭らしい舐め方をして…! おじさんを興奮させるなんて…っ! 君はとってもインランだね?! インランだ!」

 男のヒトは僕が叫ぶ間も無く口にキスをした――これが僕のファーストキスだ――乱暴すぎて口元がべちゃべちゃになり、舌を強引にねじ込まれ、踊るように舌が僕の口の中で舞っている。
 その時の感情としてはただ気持ち悪いと言う気持ちしかなかった。息もろくにできず、ただ無理やり口に舌をねじ込まれる不快感に。暴れても自分より倍ほど大きな大人だ。暴れたうちにも抵抗したうちにも入らなかっただろう。
 男のヒトはやっと口元から離れ、僕は息ができなかったと言う恐怖で小刻みにハッハッと犬のように息を吸ったり吐いたりした。男のヒトは何を勘違いしたのか、息をするだけの僕を見て興奮していた。

「ハジメテだって言うのにキスで興奮してるのかい? 僕のキスはうまいからね! 他の子達も僕とキスをすればクラクラし出してずっと息を乱すんだ!」

 単に呼吸ができていないだけだと言うのに何を勘違いしているんだ。疲れた僕の前に、男のヒトは自分の局部からいびつな形をしたソレを出し、僕の頭をガッと抑え、そのまま口の中に入れられた。
 さっきより息ができないことに恐怖する。男のヒトの下腹部を押し、離れようと抵抗する。光悦の笑みを浮かべ、押さえ込みながら頭を呑気に撫でている。
 息が本当にできなくなり、気が狂いそうになる。…その瞬間、男のヒトは手を離し、僕は思い切り男のヒトを突き放す勢いでゼーハー息を吸ったり吐いたりした。塩っぽい、汗のような液を飲まされ、気持ちの悪さに身をよじる。喉の奥からドロドロの胃液を垂らし、朦朧としながら、息をする。
 男は抵抗できない僕をつかみ、また七割まで口の中に歪なモノを咥え込ませる。

「カービィ、ぁぁ、可愛い可愛いカービィ。舐めて? ほら、舐めて?」

 歪なモノが自分のセリフで興奮しているのか跳ねるように口の中でピクピクと動いている。さっきまで何も感じなかった目の前の男のヒトに対し、今では恐怖しか湧かなかった。参った僕は男のヒトの言うことを聞くようにし、飴を舐めるかのように局部を舐め始めた。

「そうそう、うまいね。裏の筋もそう。そって、そう、そって舐めて。はぁ、いいね」

 男のヒトは悦として僕の頭をただ抑え、僕はただ舐めていた。昔覚えた曲を思い出しながら、目の前の気持ちの悪い恐怖に耐えるしかなかった。

「胃液でぬめぬめしてきもちぃぃ…
 カービィも気持ちい? インランだもんね。気持ちいよね??!」

 気持ちいいわけがない。だが、男のヒトが強要してくるので僕はこくこくと何度も頷く。
 歪なモノを口から抜き取り、やっと解放されたと思った。すると、男の人は僕を持ち上げ、股の間に歪なモノを擦り付ける。ああ、自分の察しの良さにはつくづく嫌気がさす。

「おじさんやめて! 僕こわい! 本当にやめて!」
「僕の緊張のほぐし方が良かったんだね! なんて可愛い声なんだ。まるで女の子みたいだ。待ってて、本当に女の子のみたいにさせてあげるからねー??? 」

 抵抗もむなしく、男のヒトは局部の先を肛門にあてがい、僕の胃液でヌメついたソレを無理矢理押し込むように入れていく。息ができない。痛い。痛すぎる。メリメリと音が鳴っているような気さえする。
 先だけ入って、僕は息をゆっくりしている。男のヒトは僕を見ている。一瞬力を抜いた。と、同時に、男のヒトは僕を上から抑えるようにしてそのまますっぽり歪なモノを肛門で咥えるような形になった。

「ぁ゙ぁ゙ぁ゙あ”ぁぁあぁあぁあぁぁあぁぁぁぁぁぁあ?????!!!!!!!!!!」
「あぁぁ〜っ、初物はいいよなぁ。初物はいいよなぁ…この新品を汚す瞬間、すっごく堪らないなぁぁ?!!」

 本来排出すべき穴に、入っては行けないものが入っている。腹部に対する強烈な圧迫感。肛門の強烈な痛みと裂けて滴る血。
 この年齢にして、この性別にして、学ぶべきでない、体感すべきではないことを潜在本能ながらに気づいていた。痛みが、痛みが走る。声は出ない。殺してほしいなんて思ってもないことを思う。よだれも、鼻水も、涙も。痛い刺激と、不快感と、罪悪感と。お父さんとお母さんの顔が一瞬よぎっていった。
 男が必死に独りよがりで腰を振り、打ちつける。息を荒げながら僕の唇にむしゃぶりつく。臭い息を吸わないよう息を止め、痛みに耐えながら今からどうやって死のうかと考える。

「はぁはぁはぁはぁはぁはぁはぁはぁはぁはぁはぁ」

 肌を打ち付けられるたびに内臓を抉られ、だんだん接合部の感覚がなくなり血も流れっぱなしになる。なぜあの檻の中の少年たちが目の光を失い、黒服に怯え「お客」という存在を恐れていたのかよくわかった。
 多分だが、この男のヒトは俗にいう処女狩りだ。あの言葉からして、今までいた少年たちもみんな最初に相手し、トラウマとして植えつけられあれが普通だと男に教えられ、黒ずくめにも言えずにああやって恐怖するようになっちゃったんだ。この男はおそらく、かなりタチの悪いタイプの客だ。

「アッアッ! 出る出る出る出る!!」

 何かがチョロロッとでたような感覚が肛門内で感じた。まだ感覚はあったらしい。男はすぐに粗末なふにゃふにゃのそれを抜き取り、僕を布団において備え付けの電話で何処かにかけた。

「…あ、ありがとうございます。終わりましたので、お迎えの方をしてあげてください。ええ、ええ。失礼します」

 男は受話器を置き、ティッシュを何枚かとり、僕の肛門の血と何かの液体を拭き取り、自分のカバンにしまった。

「カービィ今日はありがとうね。とても楽しめたよ。初めての体験はどうだったかな? 僕みたいなお客さんばっかりだから、安心してね。これが普通なんだ。黒服さんによろしくね」

 言い慣れたようなセリフを早口でそう僕にいう。僕の予想通り、普通だと教え込み、元々恐怖の対象でしかない黒ずくめの男にさらに言いづらい状況に仕上げてる。そして、この男はもう僕を指名しない。用事が済んだからだ。
 その後、黒ずくめの男が迎えに来て、僕は男に手を振られ見送られた。

 僕は黒ずくめに恐れることなく、今日あった出来事を事細かく話した――




 3階

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