imprisonment weather

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 天国へ

 天国

 地獄

 天獄

 僕の知る空はどんな世界なのだろう







「……………」


 死体を目の前にしているはずなのに不安だった。


「随分とあっけない死のようだな」

「ああ…」


 おかしい。

 マルクがこの程度の攻撃で…いや、不意を突かれたとしてもこいつのことだ。こんな簡単に死ぬわけがないと悟った。
 だが、息はしていない。


「剣を刺した後だろう。血が出ているな」

「………」


 ダークは興味深そうにその死体を眺めていた。
 特に争ったという形跡はなく。ただ、真中辺りに灰の塊が落ちているのが気にかかった。


 原型を取り求めていないが、何となく、それの正体がわかった。


「…シャドー…」

「え…?」


 ダークはマルクから顔をすぐにあげてこっちに足を折って痛いはずなのに走ってきた。
 あたりに白いどろりとした液体があった。…これは何なのかはわからなかった。


「多分お前の言うとおりだ。こいつは…シャドーだ…」

「しかし、シャドーは灰になって死んだのではなかったのか? このシャドーは…なんでこんなところに…」

「私たちのような影はオリジナルが不要と思い、姿を破壊されたら実物となって死ぬ。だが、それを思わなかったり願わなかったりしなければ影は自分の意志で何度でもよみがえることが出来るんだ。…便利だが、念願の実物になれるのは死んでから後の話と非常に残酷なものなんだ…」

(足を折ってる時点で実物のような感じがするが…基準がわからないな)


 ダークにやっていた視線を足元に戻す。
 シャドーはどうやら左を向いて死んでいたみたいだ。腹を刺されているというのになぜ正面を向いていなかったのだろう。
 あまりにも痛々しいそれを見続けるのにはやはり抵抗があり、すぐに目を背けた。


「…シャドーを弔っている時間はない…」


 自分でもまさに冷酷なことを言っている。ただ虚しいような、愚かなような。


「…悲しいが、このままにしておこう」


 一刻も早くこの箱から出たくてたまらなかった。
 漂う血の臭いに嘔吐感。それに背中を押すようにくる誰かの非難の声。
 何も感じない方がおかしい。
 ダークは無言のまま、私の間をすり抜けて部屋を出ていった。
 続くように私もその後を付いて行く。

 こんなことを言うのもあれだが、目が腐りそうだった。
 それはさっきまで喋っていたモノだったのに突然生きることをやめ、その姿は醜くひどく気持ちが悪い。最悪の気分だった。なぜあんなにも醜くなうのだろうか? そう聞いてみたくなるほどに。


「………」

「………」


 空気が軽くなったような気がした。
 死体二つもあれば自然に空気はどんよりと重たくなる。その空間から今まさに出たところで、鎖が千切れたかのように私を解放した。


「………? おい、ダーク」


 二人ともそれまで地面を拝んでいたが、どこからか遠く、笑い声のようなものが聞こえた。やたら甲高い。女の声…。


「…笑い声が聞こえたな」


 どうやらダークにも聞こえたらしい。この声はさっきリボンが飛んで行った方から聞こえた。

 まさか…。


「おい、行くぞ!」

「ぇ…あ、ああ!」


 ああいう最後まで正常な奴ほど壊れやすい。私は既に一度死んだ…所謂ゾンビだから正常識的な生き物とは言い難くなってる。

 走る。

 長い廊下を走る。

 どこから声が聞こえたのかはわからない。
 どこだ…どこなんだ?


「ぁぐぉ……・・・げ・・・・」


 声が聞こえた。絞り出すような。ぐしゃぐしゃの、声が。確かに、そこから。
 すぐにそこに立ち止まる。ダークは随分遅れてそこによろめきながら立ち止まった。


「ハァ…っはっ………、…? なんだ…この音…?」

「………? …、………!!!! ワイヤーのこすれる音だ!!!!
 リボン!!」


 その立ち止まった場所はよくわからない扉の前だった。

 私は扉を強く蹴っ飛ばした。


「ぅっ…」


 ギシッ… きしっ・・・

 宙ぶらりんになった桃色の髪の少女がそこに居た。相変わらず羽は半分真っ黒になったままで、彼女の浮く真下には糞尿がべちゃり落ちていた。


「…チビ…、何故だ?」


 ダークはそこで浮かんだままの 
リボンに話しかけた。当然返事は返ってこなかった。
 殺されたのか? それとも自殺をしたのか? …あの笑い声は…?


「…クソっ…!!」


 …味方は殆ど死んでしまった。残るのは私とダークだけ。…カービィを守ることは…もうできないのだろうか?

 あ


「…メタナイトはどこだ?」

「? そういえば…ここを通って行ったはずだが…見当たらないな」


 ここを居ないということは、この先を行ったしかあり得ない。だが、この先は…。


「大広間…」

「何…? じゃあ…外に連れて行っているのか?」


 馬鹿な…。あいつがか? 今の今まで閉じ込めることにばかりこだわってきた奴がなぜ今更? …私たちも、あのアドレーヌの死の時と同時に巻き込まれて死んだと…思っているのか? メタナイトはその場にもいたというリボンにも気づくことなくというのであれば確実にほど近いだろうが。

 もしそうだとすれば…メタナイトは私たちが死んでいないということを知らずにいるのでは?
 これはきっと神がくれた最後のチャンスだろう。私はその大広間に続く道を歩くことにした。

 マルクの時同様、私はその部屋を後にし、くるりと大広間へ続く廊下を見渡した。


「…?」


 赤い液が足跡のように続いていた。

 これは…血か?


 そうだとすれば…。もしかしたら、リボンはメタナイトと接触していたことになるのか? そしてこの血は…メタナイトの? リボンが何らかの手段でメタナイトを攻撃し、メタナイトはリボンの首を絞めて殺したと。そういうことなのか?


「…ギャラ。考える暇があるのなら大広間に行くんだ。…逃げられたらどうするつもりだ」


 ダークの言葉に少し意識が遠のきかけていた自分を呼び覚ました。
 …そうだな。とりあえず、今は奴を追うことにだけ集中するか。

 私はダークに合わせながらも早歩きで大広間に向かった。








交差する思考



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