No.204-1514 第3057項目『「科学者****の研究レポート」より』 ある科学者が新種の花を開発した。科学者は科学で咲かせた花を見た瞬間、その花に恋をした。花は薄いピンクの菊によく似た花。名前はない。花の名前を付ける前に死んでしまったからだ。 ある時、花に恋をした科学者は望んでしまった。――この花は枯れてはいけない。私が君を永遠に枯れない、その美しさをずっと保てる花にしてみせる。――、と。 科学者は幾度の研究をし、失敗しては投げ失敗しては投げの繰り返しをした。そしてとうとう、たった一輪の花の為だけに不老の薬を作り上げた。科学者はさぞ大喜びでその不老の薬を喜んだ。これは長い間一人で隠密に行った研究なので自分だけしか知らない。だから、学会に出展しようなんてことは米一粒と思わなかった。 科学者は花のある、自分だけが知る場所に薬を持って駆けていった。――二度と枯れはしない。失われはしない。私は君を死なせやしない。―― 科学者は花のある場所にたどり着いた。しかしそこにはかつて自分を主張し続ける美しく可愛いらしいピンクの花はなかった。代わりにあったのは紐のような糸と黒いオリーブ色の燃えかすのような物が一つ。 四十年たっていた。科学者が名前を付ける前に、花が先に死んでしまった。永遠の美しさを留める研究は水の泡となった。花だけに一生を惨めに過ごした科学者は不老の薬を海に捨てた。暗い暗い海の中。科学者は悲しみに暮れ、自分のしわだらけの手を見て嘆いた。――あの花がなければ私の存在価値はない。不老の薬だって何にも使えはしない。研究も、私も…―― 科学者は海に身を転じた。薬の眠る場所へ、手一杯溢れる花への愛を持ったココロを握って―― そこまで読み聞かされてやっとギャラは五pはあろう分厚い本を閉じた。 僕は今プププランドより遙か遠く、ずっと東に位置する防空壕のような岩でできな小さな穴蔵に住んでいる。中は書物が10冊はあり、食料も満足にある。 「…この科学者は花に恋をした。一見何ともない話しだが、よく考えてほしい。恐ろしい程の執着心を持っているこの科学者…、実に変だとは思わないか? …この花は催眠法を持った花なのかもしれない。…私はそう思っている。私の持っているこの本はどれも人間という地球という星の物。我々には短い年月だが、四十年は人間にとってとても長い時だ。それがこの……………」 ギャラは僕を監禁するつもりはないのか否か、毎日開放的な日々を過ごしている。 最近哲学やら書物やらで毎日何か一つ、僕に話を聞かせてくれる。たまに外に一緒に散歩してくれたり遊んでくれたり…。…彼の唯一悪いところ、それはメタナイトと違って僕を日がな一日、目を離さないところだ。過保護すぎるとでもいっても良い。僕が少し気紛れで戦いの練習をしたら叱ってくる。時には二時間も説教をされた。しかし、終わればいつも僕を抱擁して口癖のようにいつもこう呟く。 「カービィは私が守る。カービィは戦など考えず、平穏に暮らしている姿を見せてほしい」 そう言われるうちに僕は彼を憐れみ、徐々に彼に惹かれるようになった。 *** ああぁあぁあぁああいぁあ!コイツまで僕の邪魔をぉお! 見てろよ!手前にゃキッチリ御代は返してやる。油断させたところでカービィを奪う!ああはあ。ずるいよ、ずるいずるい。 …安心するのは、まだ早いと思うなぁ…くすくすくす。 *** 「…………OK.………アナタノネガイヲ……… ………カナエマショウ……」 やっとたどり着いた。ギャラクティック・ノヴァの元に、やっと…。 私は広い銀河系を見渡しながら誰も邪魔者がいないことを確認して、願いを伝える。 「大彗星・ノヴァ。…自爆してはくれないか?」 「………ワタシガバクハツヲスレバ… ……銀河ノ大多数ハ破滅スルコトニ…… ………モチロン……ポップスターモ破滅ノ危険…………アリ……」 では無理だな…。私は別の願いを唱えた。 「ならば…仕方がない。カービィの近くに私を転送しろ」 シンプルにも、私はこれを呟いた。あの前回の声の者がもしかしたらカービィをどこかに隠している気がしたからだ。あの声の奴はカービィをあの地下に隠していたことを知っていたからだ。そのせいで余計に不安が募ったから、私は即座に彼の元へ行きたかった。 「…………OK. イマカラ転送シマス………3………2……1………GO」 不思議な光とともに、私は何処かに飛ばされていった。 *** 夜…。僕はいつものように草でできた寝床に体を投げ、目を開けて岩の天井を眺めていた。 ギャラはメタナイトと違ってとても優しい。僕はすぐに慣れ親しみ、ギャラクティックナイトからギャラと呼ぶようになった。 でも最近おかしいな。ここに来て三日は経つけど、ギャラがよく空を見渡すようになった。 「何をしてるの?」 僕がぼそっと声をかけると、ギャラは空を睨みながら小さな声で返す。 「…もうじき、メタナイトがここに来るだろう」 思わず目を見開き、奥の壁にまで後ずさりした。 「慌てることはない。…私がカービィを守ると、そう言っただろう?」 ランスを構え、何かオーラを感じる。 その時、僕の頭上…。地上に何かが勢いよく落ちてきた音が聞こえた。 「………!」 「…っ!…カービィ、息を潜め喋るな」 ギャラは壁際で硬直する僕を抱いて翼で覆い隠すように壁際に身を固める。声が…かすかに聞こえる。 「………っ、ここはどこだ? …こんなヒトがいなそうなところに、カービィが居るのか?」 ドキッとした。心臓が破裂しそうなくらいバクバク脈打つ。見つかったらどうなる?まずはギャラを殺す?そして僕を連れて帰ってまたあんな暗いヒステリーをおこしそうな地下に閉じこめるの?イヤイヤイヤダ!耳障りで五月蝿いくらいガチガチと歯を鳴らし、体を震わせる。 「カービィ、カービィ!どこにいる?返事をしなさい。…カービィ…」 …声が遠のき、安堵のため息を吐く。ギャラも仮面越しに、少し笑ってるような気がした。…だが、足音はすぐに戻り、僕たちの上で止まった。再び息を殺し、何とも言い難い空気になった。 「……うして…」 微かに声が聞こえる。 「どうして私から逃げるんだぁあ!」 僕はつい、ヒッと声を漏らし、耳を塞いだ。その怒号は今まで僕が聞いたことのないくらい大きな叫び声で、自分の呼吸音が爆破音くらい煩く聞こえる。 口の中が血の味がする。動揺したせいで舌を少し噛んだらしい。それが鉄錆みたいな不味い味がして吐き気がした。足音が地団太を踏むような強い音になっていた。 「私の近くにいるのならちゃんと聞きなさい。外の世界はお前が知るように恐ろしい者ばかりだ。お前を殺そうと企む輩は腐るほど居る。…私はそんな世界に浸り続けるお前が心配なんだ。 …もしや、何者かに捕まっているのか?だから何も喋られないでいる…?」 …?なんだか…ギャラより少し過保護な感じの言い方…。 地団太も止み、オロオロした不安気な声が聞こえる。…にしても、いつまで僕はコイツに怯えなきゃダメなのだろう。あの時みたいに仲良くしてはくれないのだろうか?遊んでくれたりした。相談にだってのってくれた。時には共に冒険にだって…。何故彼はこうもおかしな奴になってしまったのだろう。 僕は涙を流しながら何処かに行くのを願うばかりだった。ギャラは無言で僕を撫で、「大丈夫」と小声で何度も呟いていた。 何時間たったのだろう…。やっと翼の羽ばたく音が聞こえる。こっそりと岩の陰から飛んでいくそれを眺めた。 やっと緊張感が完全に抜け、僕はその場にへたり込んだ。 「…!カービィ?!」 ギャラは突然倒れた僕に驚き、傍に駆け寄り抱き寄せた。 「あは…大したことないよ。ただ安心したら力が抜けただけ…」 「…っ」 ギャラは何となく僕の過去を見破っているのだろう。メタナイト相手にこんな拒絶してる僕を。ヒステリーにも代え難いこの僕の行動から。 「あっ…はぅ…あ、あは…ははっぅ…うう……わぁあぁああぁあぁあああ!!…っぁあ…」 僕はギャラに抱きつき、喘ぎにも似た泣き声を吐き出した。 我慢しなくちゃダメなのはわかっているよ。でもどうすることもできないんだ…。 花はすでに永遠の美しさを手に入れてしまったから…。 続 |