体が急に浮いたと思ったらすぐに冷たい床の上に投げつけられた。そこで私は目が覚めた。 「メタナイト様が今は貴様の命は預けるとのことだ。せいぜいこの牢で命朽ちるまで苦しみながら生きるがいい! …と、メタナイト様がおっしゃっていた」 兵士が出て行った後、扉は固く閉ざされ何個もの施錠をする音が聞こえた。 打ち所が悪かったのか、足だけでなく体中までもが痺れて仕方がない…。 (この城はいくつ牢があるんだ…、多すぎだろう) まずは、体に何らかの影響がないか見回した。だが、目立った傷はなく、足が折れていることくらいしかなかった。その傍に、灰の燃えカスが落ちていた。多分これは…シャドーなのだろうか。にわかに信じがたい光景を目の当たりにしながら、すぐにそっぽを向いて以外にも大胆に窓の開いた場所に近寄った。四方を石で作られた見張り穴のようなその窓(というか穴)から顔をのぞくと、ある程度高い位置に建設されている場所だということが分かった。 「ここから逃げたらいいじゃないか」 つい口からそうやって安堵の言葉が出た。すると、後ろから不敵にクスクスと笑う声が聞こえてきた。それも不気味で…マルクか? 「誰だ!」 「そこから出ようなんて考えない方がいいよ。…メタナイトにしちゃあ常識なさすぎだから…声の近さでいうとぉ…、………まさか…ダメタ君?」 そこにいたのは何故か目隠しをして服の裾がやたら長い服を着たアドレーヌだった。 そうか…捕まったのか。こいつも…。 「久しいな。生きていたのか」 「本当にダメタ君なの?わぁ…顔を見せ………、いや、いいわ、やっぱり。 じゃあ、さっきまで兵士たちがうるさかったのはダメタ君が連れ込まれてたからなんだ。…そっか…」 「いや、シャドーもいる。…すっかり元の姿がなくなってしまってるがな…」 「それってどういう…。 ……………………何かあったんだね…あたしと一緒だ…」 やはりこの小娘の身にも何かあったのだろう。細々と呟いたあとに足の間に顔を埋めて、一切喋ることはなかった。 小娘が言ったことは正しかった。この穴から抜け出すことは不可能なことを思い知らされた。地上への距離はおおよそ70メートル。人間のアドレーヌが降りようと思えば足を骨折どころか複雑骨折は免れないだろう。しかしどうやってここが高い場所だと思ったのだろうか…、今声をかけるのは流石に気がひけて何も声がでなかった。 地面の方を覗けば下に弓矢を持ち構えた兵がいくつも居り、ここから(もしも)飛んだら串刺しになって死ぬだろう。 小娘の言う通り…逃げることは不可能なのか? 外からカツンという音が聞こえた。後ろを見てみるが蹲るアドレーヌがいるだけで特に何の変化も見受けられない。 だが、勘違いとは言わせないとばかりにカツンカツンという石を叩くような音が聞こえ、部屋の中にまで伝わってくる。 「何の音だ」 一環のコミュニケーションもかねて小娘に問いかけるがいぜん返事はなく、少し痩せこけた頬を石壁になすりつけていた。 鳥でもつついているのだろうかとまた背を凭れ、ため息をついた。 そして間もなく、私は解いていた緊張がすぐに縛られる衝撃がおきた。 さっきまでコツコツとなっていた壁は突如爆音まがいの破壊音として鳴り響き、砂埃が牢の中を泳いで外に出て行った。次第に砂埃は失せて、爆音のした瓦礫まみれの場所に影が浮き出てきた。 一方の大きな砂埃に誰がいるのかは見えなかったが…、その傍に居るのは… 「リボンか…?」 「ああ、ダークさん!ご無事でしたか!」 「一体どうやって…ここには兵が腐るほどいるのに」 「…そこの石の隙間からしかお前らには逃げ道がない。ならばその下に兵が多数込み合えばその周りも居ると思っている。…まさかそう本気で信じていたのか。何てバカな奴らだ」 重そうな装備の音を鳴らせながら砂煙の間を抜け出てきたのは そう、ギャラクティックナイトだった。しかし、あの白く美しかった翼の面影はなく、羽は漆黒の闇に染まり、ズタズタに引き裂かれたような…まるで堕天使のような姿となっていた。だが、それ以外にあまり変化は見受けられなかった。 「お前…翼が…」 「話は後だ」 下は爆音のせいか徐々に騒がしくなり始めた。ギャラクティックナイトは私の足から血が出ているのと少し異形に形が歪んでいることで折れていることに気づいたらしい。 「…足が折れているのか。ッチ…。兎に角、今はここを出るんだ。そのうちこの爆音を聞きつけて兵がここにやってくるだろう」 私はついチラッと小娘の方を見てしまった。それに続くようにリボンが、ギャラクティックナイトが続けざまに小娘のいる方を見た。 リボンは軽蔑する眼差しで。ギャラクティックナイトは怨みの念がきいたガンをとばしていた。 「………………………………」 どうする気だ。このままおいて逃げるのか。はたまた殺すのか。詳しい事情は知らないが、どちらにしろ私はこの小娘を庇うつもりは一切なかった。私が眠っていた感に…何が起きたのかは…興味さえも湧かなかった。 「………ダメタ君、凄い音したけど…何が起きたの」 ギャラクティックナイトの反応が微かに変わった。小娘が顔を上げた瞬間からだ。奴も、この小娘が何故目隠しをしているのかが分からないからなのか。 「久々だな。アドレーヌ」 「…その声はギャラくんだね。…生きてたんだ。良かった…」 「貴様のおかげで私は絶えた命と引き換えにこの空を飛ぶことが出来なくなった堕天使の証を象徴とする漆黒の翼を引き換えてしまった。これもお前を殺すため死の国より生き返った。 お前をズタズタに引き裂いてその汚い内臓を晒してやりたい気分だ」 「……………」 小娘は静かに立ち上がり。手を上にあげ、その裾がするりと腕にまで落ちた。そこで私たちは悶絶した。リボンは背をむけてカタカタと震えていた。 「これもあたしに対するバツなのかもしれない。あたしは目を両方失い、絵を描くための手もなくなって、おまけにカーくんにはバケモノ呼ばわりされちゃった」 「……………」 「生きてたってこれじゃあしょうがないのは分かってる。親指の爪も半分剥げてまだ痛いし…。早くこの苦しみから逃げ出したいよ」 淡々と、小娘はその身に与えられたバツを吐いていた。私は同情したくなった。その哀れというか残酷というか。悲しいほどのバツを背負う羽目になってしまったその娘を。 「あたしも悪いのは分かってんの。実際ギャラくんをそんな体にしちゃったのは私の所為なわけなんだし…。 …でも、アイツらだけは許さないよ…許しはしない…。 マルクとメタナイトだけは我が身滅びゆこうとも恨み殺してやる…!!!!」 一瞬、ギャラクティックナイトが薄く反応したような気がした。 ――瞬間に、遠くからだが兵の足音が沢山駆けつけてくる音がしてきた。 「…ここももうマズイ…!早く逃げるんだ!」 「で、っですがどうやってですか!さっきまではギャラさんはゆっくりよじ登ってきてましたが、今やギャラさんは空を飛べないし…」 考えている暇はなかった。 …仕方がない。 「仕方がない、飛び降りるんだ!」 「ええっ!そんな…出来ませんよ!ここから飛び降りたらわたしたち、ぺしゃんこに…!」 「うっさいなぁ…リボンちゃん」 アドレーヌがずいっと私の後ろに現れた。 そして、片足を後ろに下げたと思ったら、思い切り蹴とばされた。 「ぉわぁっ?!」 兵は全く気付く様子はなく、垣根の真ん中に生えた一本の木に捕まり、危うくも一命を取り留めた。 「あの小娘…」 *** 「これを使って」 「これは…絵の具セット?」 私はアドレーヌが荷物の下から絵の具のパレットやキャンバスを出した様子に、ただ無言で受け取ることしかできなかった。リボンが不安そうな顔をしている。それをどうやって知ったのか、アドレーヌは笑い返し服の裾を使ってリボンの頭を撫でた。 「どうやらあたしもここまでみたいだね」 「な、何言ってるの…アド…」 「マルクとメタナイトを殺すことはできなかったけど…みんながやってくれるよね。あたし、お空の上から期待することにするよ」 間違いない。こいつ…死ぬ気だ。 「ここね、火薬のにおいがするの。あたし目がないからさ、代わりに鼻がよくなっちゃったみたいで。 …あたしが囮になる間に、カーくんを助けてから…ちゃんと逃げてね…」 「ダメだよ!そんな…!だってアドはカービィに」 「何度も言わせないで。あたしはカーくんにとってバケモノになっちゃったんだから。仕方ないでしょ?あたしは、すでにカーくんの中では死んじゃってたの。…あたしがこんなところで生きているのなんて、お門違いだよ」 アドレーヌは私とリボンを蹴り飛ばし、ダークのいる木にバウンドしつつ引っかかった。 「あ、アド…!」 アドレーヌは口に布を噛んでもう一方の布を手首で挟むようにして引っ張った。 その衝撃の光景で私たち三人は何も喋られなくなった。その姿を見て安心したようにして、しゃがんで手首に何かを挟んで、思い切り傍の岩を摩ったようにした。小さく見えるそれは…火…。 最後に、アドレーヌは空洞になったその眼から涙を流しながら口を動かし、瞬間に真っ白な閃光に包まれた後に爆発した。その爆発は下にいた兵にも被害をもたらし、少し離れた私たちは茫然と木の間からその様子を見ていた。 「そんな…」 リボンはずっと震えていた。震えながらに呟いていた。 「やっぱり…アドレーヌはカービィが好きだったんだ… また…頭撫でてねって…言ってたじゃないのぉぉ…」 リボンは声を殺しながら、前方で燃える炎に涙を流していた。 当然、私にも、ダークメタナイトにも。 その言葉が何なのかはわからなかった。 続 アドレーヌ 死亡 アドレーヌが病むことなく死んでしまった。私でも驚きの結果です。 |