小説2

□かわいそうなふくしゅう
1ページ/1ページ





※企画リク マルカビ 甘くてもグロくてもいい





 苦しい。

 息なんてできない。

 息をすれば毒素が体に入り込み

 息を吐けばきれいな空気が出ている。

 こんな地獄に落としたアイツを

 ボクは許さない。

 今度生まれ変われば

 いや、時間を巻き戻せたら…!!

 その時、あの時殺せばよかった!

 太陽を

 月を

 ボクが、止める方法を言う前に…!



【ボクがこの時何も言わなければよかった】





 ――…。

 ――…あれ。

 僕はゆっくりと目を開けた。空は暗かった。…かと思えば、次の瞬間には明るかった。
僕はしばらく何も考えられないでいた。でも、とても不思議な感覚があった。
 そこで、ふとした疑問が頭上に浮かんだ。

 ――今は…昼なのか?夜なのか?

 そして、そこで完全に目が覚めた。僕は勢いよく起き上がり、もう一度よく空を見回した。

 あの時のように…、太陽と月が激しくぶつかり合い、その場を譲らんとせん太陽と月の姿がそこにあった。

「や…やた…」

 言いようのない喜びがあった。そばには玉乗りのたまがある。

「っへぇ…、懐かしいもんがあるのサ。さぁ、あの馬鹿どものところ…」

 右に振り向いた時だった。右足に何かがぶつかり、少し見下げた。

「…っは、…な………ッ?!」

 『ボク』はそこに気絶していた。

 この体より少し小さく変形してない。多分…、この世界の『ボク』であろう、『ボク』が…。

「ぅ………ん…」

 …。どっかで聞いたことがある。

 自分と同じ姿をした生き物を見ると、死んじゃうって。

 ボクは近くにあった角材のような物を手にとった。そしてそれを

 グジャっァア゛ァ゛!!!!

「ピギュゥ…ゥ…っ?!」

 脳みそが飛び出て目玉がはじけた。醜く歪んだ自分の姿がそこに…。

「ヒィ…っ!!!?生きて…っ!!!!」

 僕は角材をそのめり込んだ部分から引き剥がす。止められていたものがなくなり血はだくだくと溢れ、ピュルルルっと小さな噴水をそこから上げた。片方の目玉はそこに落ち、もう片方はかつて目があったと思わしい部分からだらしなくぶら下がって、脳みその破片が所々肉片になって落ちていてそこにどこから湧いたのかウジが集まりだした。目玉の所にもシデムシが集り、器用に目の表面の皮をガジガジ剥ぎ、その肉をいかにも美味そうに食っていた。

「ぉオオォァ…っげっグェ…ロ!!!!」

 前歯は完全に砕け根元の肉もくっついたままプラプラとぶら下がっているようだった。
 しかしこいつ…、脳をぐちゃぐちゃにしたのになんでまだ立ってるんだ?しかも口もきいてる。

「化物なのサ…」
「ぉグォ…グェ…ロォガァ…!!!!」

 その前に立つかおなしの化物はボクの腕に掴みかかってきた。

「ぐぉぉふぁらがぁぁぁぁぁぁ!!!!」
「汚い手で触るなぁ!化物ォォォォォォ!!!!!!!」

 禍々しい断末魔と共にボクは角材をもう一度、力をこめ、爪を食い込ませてその木を、もとい角材を。その砕けてほとんど形の残らない脳に、顔に向かって殴りかかった。

「ギッ………!!」

 二つにバクリと割れたそれは次第にふらふらとし、互いに反対方向に倒れた。中の内臓はその衝動でブチブチと千切れ管から赤い何かの液体が垂れていた。

(やっと死んだ…)

 ボクは安心した。不思議と罪悪感はなく、ただ心の底から安心していた。

(これでボクが死ぬことはなくなった…)

 幸い周りにはヒトはおらず、木陰に軽く濡れた土をかけてから玉乗りを奪いそこから逃げるように去った。




「どうしたことだろう。太陽と月が…」

 森を少し抜けると住民と思わしい奴が不安そうにつぶやいていた。

「ママー、今はお昼なの?夜なの?」

 子供は母親にすがり、空の異変に恐怖を抱いたようだった。

 なんて楽しいんだ!

「カービィ、見ろよあれ」

 カービィという言葉ですぐに振り返った。ナックル…何とかのすぐそばにあの嫌ってぐらいに見飽きたピンクがそこで空を見上げていた。

(…ケッ、困ってやがる困ってやがる…)

 このまま放っておいてもよかった。どの道この星は滅びゆくのには変わりなかったからだ。だが、それだけではつまらない。ボクは玉乗りをした。ここまではまぁ一緒だ。

 ボクはのんきに鼻歌を歌いつつ玉乗りをしながらカービィ等に近寄った。

「…?なんだ、こいつ?」

 一声を話したのはナックル何とかだった。こんな下等な奴にこいつ呼ばわりされるのは無性に腹が立った。だが…、僕は作り笑いをしてそれを隠した。
 何を言おうか、言葉を選んだ。解決法を教えても意味がない。こいつを殺さないと気が済まない。でも、それ以前にこの星に、こいつに悪戯して困らせてやりたい気持ちもあった。

「ボクさぁ、カービィと友達になりたいんだけど?…ダメかなぁ?」
「…、何言ってんだお前、いま世界がおかしくなってんのが見えないのか?見ろよ、太陽と月が喧嘩して、そんなこと言ってる場合じゃないんだ。だか」
「ボクはお前に言ってんじゃない!カービィに聞いてんだ!…で、カービィ。ボクと友達になってくれないのかい?君の答えが聞きたいのサ」

 例えるなら闇夜に光る雷光のように、空は明るくなっては暗くなってを繰り返していた。カービィのあどけない表情は太陽の光にちょくちょく照らされ、憎いのにたまにそれが可愛く思う自分がいた。

「僕は…別にいいけど…」

 あっさりと承認した。馬鹿だ!こいつ!内心嘲笑っていた。顔に出さないよう必死にこらえながら、こいつを、延々と笑って、笑って、笑った。

「そう…!ありがとう!」

 僕が「ありがとう」を言うなんてこんな珍しいこと、そうそうない。
 カービィは不安そうにしながらボクに握手を求めた。ボクに。こんな凶器と思えるような腕でだ。これからボクに殺されよう奴が。握手を、求めた。
 でも…ボクはどういうわけかとても冷たくできた、氷の、氷柱をここに突き刺されたような気がした。まるでボクがあたかも悪いかのようにだ。

「あー…、カービィ…」

 どうしてだろう。無性に怖くなってきた。

「ぼく、知ってる。この世界が…死なない方法…」

 何でだろう。口が勝手に動き出す。やめろよ。言っちゃったらこいつが死なないじゃん。殺せないじゃないか。

 ボクは…つたえた。カービィにこの世界がどうすれば、元の平穏な世界に戻るか。太陽と月が喧嘩を止めるか。

「お前、なんでもっと早くにそれを教えてくれなかったんだよ。ま、いいや。カービィ、それじゃあ、ノヴァってやつの所に行くためにワープスターを使って近くの星からいこうぜ!」
「う、うん…」

 カービィはこっちを見てた。やめてくれ。そんな綺麗な目で見ないでくれ。ボクを殺したその純粋な、影ひとつない目で。

 時も経たぬ間してカービィとナックル何とかはこの星を離れた。
 殺すことなく、殺せずに、野放しのまま…。
 もしかしたら、今までの事は夢だっただけなのかもしれない。全ては僕の思い込み…。

「ああ…クソっ!!」

 やはりそんなことはないんだ。ボクは空にたつ。ルートは大体覚えている。ここから赤と黄色の星の間をずっとまっすぐに行ったところ。そこにノヴァはいる。いるというか…まずはアイツらがミルキーロードで星の力を繋がないと姿を表さない…。

 …待つしかないか。


 *


 …。

 カービィが…きた。そばにナックル何とかはいない。…何処かで戦死したか。おいて行かれたのか…。まぁ、そんなことはどうでもいい。

「…OK.………アナタノネガイヲ…カナエマショウ………」
「………、あ、え、えと…」

 初めて目の当たりにするギャラクティック・ノヴァにびっくりしていたのだろう。カービィは運よく隙を与えてくれた。

(今だっ…!)

 ボクは咄嗟に飛び出てカービィを押しのけた。ボクは即座に顔を上げた。

「ノヴァ!ボクは…
 ………」

 そこで言葉が出なくなった。前みたいにポップスターを…ではなく、カービィを殺すことに…そう願おうかと思った。だけど…、声が、出ない。

「イタぁ…、…!マルク!どうしてこんなことするの?!」
「………。ノヴァ…、ボクを…
 カービィと出会う前の時間に…戻してほしいのサ」

 カービィはびっくりしていた。それと同時にとても怖い顔をしていた。

「何を言ってるんだ!そんな…君がそんな願い事をしたら、ポップスターが…!」
「なにをいってるのサ。あんなどこにでもあるような星、無くなったって別の所を探せばいいだろう」

「………OK.今カラ転送シマス………」

「…!君なんか嫌いだ………。皆を救えなかった……、全部君が…皆を殺すのか?!」
「おいおい、言葉になっていないのサ。別にこれくらい許してくれよ。友達じゃないのかい?」
「友達…?馬鹿なこと言わないでよ!みんなを見捨てて…自分だけ逃げるなんて…そんな奴友達じゃない!」

 カービィは本当に悔しそうに、涙を流していた。
 でも、ボクは本当に君と友達になりたかったんだ。今になってわかったよ…。

「………3………2………1………」

「ボクは今から過去に戻るんだ。そこには君を殺そうとするボクがいる。今からそいつを止めに行く」
「そして、ボクは『ボク』を止めた後、その時代の君と一緒にノヴァに頼んで太陽と月を止めるように願おう。これで…友達に戻れるだろう?」

「………………GO.」

 体が金色の光に包まれる。自然と体は浮かんでいく。

「お願いなのサ…それまで、待っていてほしいのサ」
「…うん………約束だよ…。そのボクを…殺そうとするやつを…止めて…僕と…ポップスターを救おう」

 ボクは今になって気付いたんだ。カービィは純粋にあの星を救おうとしている。ならば、ボクだって救わないといけない。自分が蒔いた種だけど…。それを拾うのもボクの役目だ。初めてできた友達はそれは純粋で、ボクのことを信じてくれた。優しく、笑ってくれた。

「それとボクは…君が…」




 
 頭が痛い。
 起きようにも起きれない。

「ぅ………ん…」

 近くに誰かの声がした気がした。

 目をうっすらあけてそちらに向こうとした。僕はとんでもないものを目に焼き付けた。いや、だけどその役目もすぐに為さないものとなった。

「ピギュゥ…ゥ…っ?!」

 あれ、このパターン…何処かで…。

「ヒィ…っ!!!?生きて…っ!!!!」

 目は見えない。もうろうとする。痛い。熱い。変な音がする。ノイズ交じりだ。
 生温かいものが伝う。ああ、ああああ。あああああああああああああ!!!!!!!!!!

 頭からニチャァ…っと粘着物が剥がれる音がした。身が少しくっついてる。痛い。ブチブチ振動で伝わる!あの時見た光景が、あれが、あの姿が、ぐちゃぐちゃになり、原型を取り求めてない自分の姿を思いだす。吐き気はしてものどまでやられてる所為ではけない。苦しい。痛い!何かがぼとぼと落ちる音がする!

「ぉオオォァ…っげっグェ…ロ!!!!」

 必死に叫ぼうとする。誰か助けてほしい。痛くて痛くて…涙も出なくなっている。代わりに出てくるのは血が…血が出るだけ…。

「化物なのサ…」
「ぉグォ…グェ…ロォガァ…!!!!」

 とにかく…伝えなくては…。

 カービィと一緒に…ノヴァに…

「ぐぉぉふぁらがぁぁぁぁぁぁ!!!!」
「汚い手で触るなぁ!化物ォォォォォォ!!!!!!!」

 あ

「ギッ………!!」

 ボクの体が崩れるのが分かる。あの子に、ムカシしてやられたように、体がばっくりわれて。倒れる。なんで。意識がまだあるの。痛い。痛い。痛い。ああ、ボクが笑ってる。だめだ。これじゃあさっきのことが起きる。

 ボクが願いさえしなければよかったんだ。そうじゃなきゃあこんな悲劇は起こらなかったんだ。

 ボクが悪いんだ。

 ボクが…


 ごめんなさい…。













[戻る]
[TOPへ]

[しおり]