昔から祝福される声はどう聞いても煩わしくってちっともいい気分はしなかった。 どうせみんなは僕のことを心底憎んでいるはずだから。 『お前は恐ろしい…、鬼の子が…!!』 『お願いだからぶたないで! どうしてお母さんにそんなことをするの?!』 「曾(かつ)て」いたオトウサンとオカアサンは僕をいつも忌み嫌っていた。僕がオトウトを壊したらオトウサンは僕に殴りかかてきた。オカアサンはオトウトの方ばっか向いてオトウトの名前を何度も何度も呼んでずっとバカでかい声で泣いていた。 だからまず僕はオトウサンを植えた。オトウサンの口の中に一杯土を入れて息を止めさせてから花壇に植えた。次の日にはオトウサンは朝露に含まれた花に絡まれるようにして綺麗に咲き乱れてた。その光景があまりにも綺麗だったからオカアサンを喜ばせようと思って、オカアサンに見せたんだ。 『ぁ…ィギャアアアアアアァァァァァァァァァァァァァァァァァ???!!!!!!!!! あなたぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあ!!!!!!!!!!』 オカアサンはバカだった。花壇に咲いている花をすべて抜いてオトウサンを植えてる周りの土も爪の中が真っ黒になるまでな犬のように掘り返そうとしていた。 僕はショックで言葉にならなかった。折角オトウサンを綺麗に埋めたのに。…その周りの花はオトウサンがいつもココロを込めて育てていた花たちだったのに。 僕は花壇の近くにあった花を切る大きなハサミを手にとっていつの間にかお母さんの頭を刺していた。 『折角植えたのにひどいのサ…』 確かこんなことを言ったような気がする。 僕はオトウサンを植えなおし、その隣にオカアサンとオトウトも植えた。抜かれた花もきちんと直して赤い水をあげた。 次の日、白い花がうっすらピンク色に染まっているように見えた。 話してなかったけど、オトウトもずるいんだ。アイツ、僕がオトウサンにもオカアサンにも嫌われてるからってバカにしてきたんだ。僕はそれにカッときてオトウトを壊してやった。 オカアサン、それ以来ずっとオトウトを抱っこして子守歌を歌っていた。オトウトはどんどん変な臭いがして変な虫が湧いているのに、オカアサンはそれに構うことなくずっと抱っこして子守歌を歌っていたんだ。その時期になった頃からかな。僕が語尾に「〜のサ」って付けるようになったの。まぁ、僕がそうやって甘えたようにしても誰も振り向いちゃくれないワケで、ね。 話がそれちゃったけど、オカアサンはオトウトをずっと手放さなかったんだ。あの花壇に連れて行くときもずっと抱っこしていたままだった。目だってずっと死んだままでさ。 でもさ、オトウサンを見た瞬間目が活気溢れるというか、生き返ったようになって。そこでオトウトを構わず投げ捨てたんだよ。オトウトはずいぶん腐っちゃってたから腕とかもげちゃって。ハエもずいぶんたかっているようにも見えた。 でもまぁさ。こうやってみんなお花にしてあげたんだし、オトウサンもオカアサンも、僕のこと恨まないよね? だってお花にしてあげたんだ。それに、これで僕のことバカにしないし、ずっとそばにいてくれる。僕だけを見てくれればいい。見てよ。鬼の子なんかじゃない。 ――僕は鬼じゃないよ オトウサン、オカアサン。 僕に素敵な素敵な恋人が出来ました。 お前たちみたいに僕のことを鬼の子だと言わない、とても優しい優しい子です。名はカービィと言います。 僕が君の横で手紙を書いていると、君は横から僕の手紙を横から覗いてきた。 「ねー、マルクなにしてるの?」 「ン…、見ての通り、手紙を書いているのサ」 「へー、マルクでも手紙を書くことってあるんだね!」 「そりゃあどういうことなのサ」 他愛もない会話を交わし、互いに笑顔を振りまきあう。 ――そう、これが僕の望んだ世界。 いつも忌み嫌われ、目も合されず遠巻きに僕を見下していた世界はここにはもうない。鬼の子なんかじゃない。僕は普通の生き物。 「オトウサンとオカアサンに手紙を書いてるの?」 「ああ、そうなのサ。…そうだ、今度うちに来なよ。僕のオトウサンとオカアサンいに合わせてあげるよ。それと…花壇に植えた花がきれいに咲いてるからさ。それも見ていきなよ」 「わぁ、お花? うん、いくいく。行きたい!」 カービィは深い青の瞳をきらきらと輝かせて僕に懇願した。そうだね。君は…僕と違ってみんなから好かれちゃうよね。もしかしたら君が誰かに取られちゃうといけないし…。 そうだ。 僕は手紙にこう付け足して封筒に入れた。 今度そっちにカービィを連れていきます。 これで 僕はさみしくないよ カービィは僕の手を引いて家まで競争した。 了 君の花はどんなだろう? |