※企画リク リンゼル ほのぼの これは昔々のお話。ガノンドロフという化物をある一人の勇者が果敢にも立ち向かい、その心臓を勇者の剣で突き刺し世界に平穏を取り戻してから数年たったお話です。 「リンク」 誰よりも美しい心と容姿を併せ持った姫の声が聞こえた。初めはそんなまさかと思い、後ろを振り向かなかった。 ここは城下町、あの後ゼルダ姫はいつものような日々に戻って会議やら書類やらにと大変な日々を送っていると風の噂で知った。最近はまぁろくに休暇がないということも。それに比べて僕は今何にもしてないな…見習わないとダメだなぁ。 「リンク、私です。ゼルダです」 今度は少し長文で僕を呼んだ。初めは村の子供の悪戯だと思っていたけど…まさか… 恐る恐る後ろを振り返ると黒いローブで身を包んだ女性がそこにいた。その人はローブのフードを少しつまんで持ち上げ、顔を見せる。 「…! ゼ、ゼル…??!! ムグッ!」 「シッ! やっと抜け出してきたんですよ。静かにしてください」 か細い手で僕の顎を掴んで頬をむにっとされ一度にして黙らされた。 抜け出してきたってことは…今頃お城はきっと大騒ぎだろうな。 暫くしてやっと手を放し、呆れたようにため息を吐いて、間もなく優しく微笑んで見せた。 「インパに見つかれば厄介ですから。気を付けてくださいね」 「そう言われても…やっぱりダメですよ。みんな心配してますよ」 「そんな敬語ですと私がゼルダとバレてしまいます。今日だけでよいのです。今日だけでよいので敬語を一切使わないでください」 どうあっても引かないらしいそれを強調するようにこんな僕に懇願する姫。かなりすごいことをさせてしまっているような罪悪感でいっぱいになった。…これは聞き入れるしかないのだろうか。 「…わかっ…た…です…」 「『です』…?」 「………」 突然敬語をやめろと言われてもやはり躊躇がある。この人は一応この国の当主なわけであり、一般普通の凡人の僕が気軽に会話していいわけがない。 「仕方がありませんね。では…『命令』という形でしたらいかがでしょう?」 「命令…」 「命令でしたら背くことはできないでしょう? …私には敬語はお止めなさい」 「…う、うん」 姫は少し呆れたようにしていたが、これもまたいいですねと他人事のように呟いて道沿いにあてもなく歩み始めた。 それから間もなく、姫が何かを思い出したように声を漏らしたのはすぐだった。 「そう言えば、リンクには偽名で呼んでいただなくてはいけませんね」 「ぎ、偽名…?」 「ゼルダと呼ばれると城下の方々はすぐに気づいてしまいます。…そうですね…、何かよい偽名はございます?」 よい偽名…って…。何か不思議な響きだな。まぁ、もしインパさんにでも見つかれば勝手に連れ出したみたいなことになって巻き込まれる形になるし、考えないといけないな…。 「そうで…だね。えっと、サリアでどう?」 パッと思い付いたのはこの名前だった。昔いた大切な友達。きょとんとした様子でその名前を聞き、まもなく笑顔になり、僕に言った。 「『サリア』…いい名前ですね」 * 「よぉ、リンク。女連れてどこ行くんだ〜」 「やっぱりイケメンはモテテいいなぁ…紹介してくれよ〜」 城下に住む知り合いが僕の隣にいる女性を見て茶化す。これで何回目だろうか。姫とこの城下を一緒に見まわっていると、いろんな奴らが僕らを見てはずっと茶化してきた。そのたびに『サリア、行こう』と機会があればサリアの名で呼んだ。 「ほっとけ」 僕は今多分顔が真っ赤だろうな。熱いし。 早くここから逃げないと…。しかし、そこでタイミング悪く知り合いが少しつまらなそうにつぶやいた。 「なんだ? リンクの恋人じゃねぇのか?」 さらに顔が熱くなる。なんだか無礼極まりない奴らだ。まぁ…このローブを被った人がゼルダ姫だとはだれも思わないだろうけど。 「違うよ! ゼ…サリアはそんな…ねぇ? サリア」 途中途中声がくぐもってしまったが、これも仕方がない。ゼルダ姫は僕より背が低いしローブを深く被っているから表情が見えないが、少ししてから「ええ」という声が聞こえ、ホッとした。 「リンクは私の恋仲の者ですよ」 瞬間に裏切られた。何て嘘を言うんだこの人は! しかも結構大きな声で言ったから周りの人もざわついてこっちを見ている。 僕は知り合いに気を留めることなくそこから逃げ出すように姫の手を握って駆けだした。 城下から外れたちょっとした丘にまで逃げてきた。どうしよう…これって姫を誘拐したような感じが…。 「リンク、なぜ突然走るのですか…」 姫は息を切らしながら僕に怒ったように問いただしてくる。 「何で城下の人達の前であんな冗談を言うんですか! ああ、みんなに茶化される…」 それもこれから数か月は続くんだと考えると長くて長くて仕方がない。あの城下町は意外とそんなに広くはないから噂はすぐに拡散してしまうだろうな…。 僕はふと姫の方を見てギョッとした。姫はローブを外し、目に涙をためて拳を握り、肩をふるふるとさせていたからだ。 「ちょ…っ、姫! 泣かないで下さい。あんな噂くらいならすぐにやめさせるんで…僕もきつく言いすぐ増した! ごめんなさ…」 僕が泣きやませようとしたら姫が僕の胸の中に顔をうずめてきた。子供のように泣きじゃくり、ずっと泣いていた。 僕は僕で姫が今僕の胸の中で泣いていることに恥ずかしいのと嬉しいような感情のとでどうしようもなくなった。動けずじまいの僕を置いて姫はやっと顔を上げた。 「…そんなに…いやですか?」 最初、意味が分からなかった。 「私が恋人なのはいやですか? …『サリア』の方が…良いのですか?」 これはただの推測だけど…姫はサリアに嫉妬したんじゃあないだろうか。確かに僕は、サリアの名前を呼ぶたびに綻んだ顔をしてしまったかもしれない。今は賢者としてここにはいないサリア…。変な部分で補おうとした僕は多分世界一の愚か者だ。 「…そんなことありません」 姫は目を少し赤く腫らしてこちらを見ていた。 「僕は姫が好きです。ただ、僕の友達がサリアだったから…それに情が入ってしまっただけだったんです。無礼なことをしてしまい、申し訳ありません…」 軽く頭を下げる。顔は見えない。正直、未だにもやもやが晴れない気がした。この後、姫がどう思っているかだ。 突然頭にパチンとする音がして、衝動的に「痛ッ」と声が出た。顔をあげると元気そうにクスクスと笑姿がそこに有った。 「言ってくれましたね」 僕がしばらく混乱状態なのをよそに姫は続ける。 「これで、貴方と私は正式にお付き合いしていると確信してもよろしいですね?」 もしかして…僕が好きって言ったから…? 僕は手をぶんぶんと振り慌てふためくが、姫は言うことを聞かない。 「リンク、途中から私への言葉遣いが敬語に戻っていましたよ。今後はお気を付け下さいね。何せ、私とあなたは恋人なんですから☆」 フードを被り、天使のように笑いながら城下に向かう。さて、どうやって誤解を解こう。 「ちょ…! ゼルダ! 待ってよ!」 しかしまぁ、僕もなに忠実に敬語をやめてんだろう…。感心している場合じゃない。早く追っかけなくちゃ…! ハイラルは今日も平和です… 了 ( ) トチュウカラ ( ) | | ヽ('A`)ノ イミワカメ! ( ) ノω| __[警] ( ) ('A`) ( )Vノ ) | | | | |