今日は花見をすることになった。みんな今日に限って無礼講で、あるものは酒を飲んだり腹踊りをしたり、桜の花を自分で拾って酒の入った紙コップにいれたりして、それぞれ楽しんでいた。
本当はゼルダ姫やピーチ姫等のいる花の似合う女性に視点を映したいところだが、隅の方でちびちびと酒を飲む悪友達の方に目をやることにしました。
「あ〜あ、あっちの方は羨ましいな。綺麗な女に色男。比べてこっちはブ男悪役それに狐。美味い酒もまずくなるぜ」
「お前の言うブ男ってお前のことだよな? ああコラ。それと俺を狐と一緒にするな。鼻もぐぞコラァァ!!」
「…花見といったらじゃんけんだよな…」
「ああ、じゃんけん………ぅぅ」
「………(帰りたい)」
ここの悪役(ガノンドロフとマスターハンドとクレイジーハンドとウルフとワリオ)は普段倒される側という立場(及び良からぬことをよく企む厄介な人たち)なせいなのか正義側にかたまることが出来ずにこの端っこに身を寄せ合っていた。
「そんな事よりウルフ、アレ見ろよ。イケメン共はああやって紙コップで酒飲んでるのに絵になるんだぜ。俺様たちが飲んでるとどうして汚ねェ画になっちまうのか不思議だな」
「……おまっ…今俺も一緒にしたな。
ふざけんなこの野郎…てめぇ! お前より俺様の方が何千何万倍もイカしてるわ!!!!」
「まぁひがむなって」
「ひがんでねぇよ?! お前自分の顔見たことねぇのかコラァァア?! ならお前、あっちに行ってどっちが絵になるか勝負しろ! …逃げ出すのなら今のうちだぜ」
「望むところだ狐! 先に行くぜぇぇぇー!」
「…殺すぞコラァァァァァァァァァァ!!!!」
ワリオとウルフはリンクやマルスたちのいる方向に走って行った。
残されたマスターハンドとクレージーハンドとガノンドロフはただその後ろ姿を呆然と見送っていた。
「…そういえばクレイジーハンドよ。メタナイトはどこなんだ」
「ずっと昔にカービィに連れられてあっちにいる(泣)」
「………(帰ってはいけないのだろうか)」
ガノンドロフは紙コップにひらりと運よく桜の花びらが舞い降りてきた。
「………(こういうのもたまにはよいだろう)」
ガノンは紙コップの酒を桜ごとすべて飲み干した。
みんながどんちゃん騒ぎの中、会場から少し外れたスマブラ館の屋根からその光景を見下ろす姿があった。みんなのリーダーであり、みんなが憧れるスーパーヒーローのマリオがそこに居た。
そしてその少し離れた場所から屋根へ上がるための扉を力任せにぶち開けた大柄な姿の生き物が来た。
悪役で有名なクッパだった。
「やぁ、遅かったね」
少しと物怖じをせずに笑顔でクッパにそう話しかける。クッパは少し恥ずかしそうに「あぁ」と小さく呟き、マリオの隣に勢いよく座った。
「みんな楽しそうだ」
「…マリオ、なぜあいつらの所に行かずに吾輩をこんなところに呼び出したのだ。別に酒の席でもよかったのでは…」
「ここから見てもわかるように、クッパみたいな悪者は俺みたいな正義の味方の所に来たがらないだろ? だからこうやって二人になれる場所にクッパを呼んだんだ」
マリオはそう言う。
クッパは少し淡い期待に包まれていた。
テレビのドラマかなんかでよくある告白のシーンによく似た風景。ここから突き落とされてしまうという殺害エンドのどちらかだとひそかに願っていた(8:2の割合で)。
「…だがまぁ…いいのか? 仮にも貴様と吾輩は敵同士、こう普通に会話をする姿を見られたら貴様の信用が減ってしまうぞ」
「ははは、どうしたんだいクッパ。君らしくない優しい言葉だね」
「なっ…そ、そうか?」
トランプのカードのように、その絵が見えないと何を表しているのかわからない。だが、裏にするとカードに書かれた数字とマークはわからない。
表面上では互いを憎み合うという敵同士の関係でも、見えないところでは全く別のことを考えている。お互いは仲良くしたくても、敵同士という壁(プログラム)に隔てられて普通の会話をする機会がまったくなかった。
その所為なのか否か、二人は普通の話を始めようとしてもあまり続くことはなかった。
「おはよう」、「おはよう」、「元気?」、「元気」、「それじゃあ」、「うん」。上記のことがあって普段の会話ではこの程度の長さなのだが、今日はなぜか話をするのが長い。
「…そういえば…何の話なんだ?」
クッパが自分から話を切り出す。
マリオは暫く知らんふりをしていたが、クッパはあえてそれに怒らずその横顔をじっと見ていた。
「………、そんなに見ないでくれよ。恥ずかしいじゃないか」
照れるような仕草でクッパに笑顔を見せる。クッパもその無邪気な笑顔に一瞬喉元を付かれたような気分になり、正面を向いた。
「あー…」
特に意味もなく声を出す。声は空にかき消され、残響は残るはずもなかった。
「話しがないのなら吾輩は帰るぞ」
期待していた分あまりにも何もなかったせいで気が落ち込んだのかクッパはその場から立ち上がり、少し強めに館の屋根を踏んだ。
館はクッパの重みでミシリと音を立てる。だが、その重みを何事もないように耐久するこの館はさらにすごい。ぎしっと音立てて、もう一歩踏み、さっき入ってきた扉に向かう。
ひこずっていたしっぽに違和感を感じ取った。大きな甲羅が後ろを見ることを隔てるようにしているが、意地でもクッパは隙間から覗いて見せた。
自分よりも小さい体のマリオが、しっぽの先を掴んでいた。正面を向いたままで、ここからの目線だと帽子が邪魔をして見えなかった。
座ったまま尻尾を掴んでいたマリオだったが、尻尾から手を離した。そこから立ち上がって背中の甲羅に抱きついてきた。甲羅だから感覚はないけども、何となくそんな雰囲気が漂っていた。
「…痛い」
きっと甲羅のとげが当たっているからだろう。これには謝ってもどうしようもないことがすでに見えている。クッパは無言で左手を後ろに回してマリオの帽子をわしわし掴むように頭を撫でた。
「…マリオ」
「なんだい?」
「………いや、
…花見で一杯…やらないか?」
マリオはそこからクッパの顔を見ることは出来なかった。
「いいね。…みんなの知らない…あっちにも綺麗な桜が咲いているんだ。どうだい?」
クッパはそこからマリオの顔を見ることは出来なかった。
「行くか?」
「ああ!」
マリオはクッパの甲羅に抱き着くのはやめて、代わりにクッパの大きな手にしがみついた。
了
最初いらなかった。
無理やり感と駄文の匂いに万歳