※企画リク ダメシャドの話 ずっと前からお前が煩わしかった。 嫌ってくらいお前に怒られたし、嫌ってくらいお前は叱ってきた。 だからお前が死んだときはとっても気持ちよかった。 * 『何をしているんだ。行くぞ』 どこに行くとか、場所さえ告げずに僕に言ってきた。自分は行く場所もわかっていて容易だってしてるのに、僕は今初めて言われたからそんなこと知らなかった。 『は? 何言ってんの? ふざけんな!』 『…反抗期か?』 『はぁぁぁ?! 何言ってんだキザ仮面!』『…カービィはあんなに素直でかわいいのに、何故影のお前は全く真反対の性格になってしまったんだか…』 よくある近所のおばさんが言うようなセリフをこいつはよく口走るようになった。僕を罵り誰かと比較する。僕の事なんか可愛くないといつも言う。 別に可愛いと思ってほしいわけじゃない。ただ、そうやっていつも誰かと比較して僕を見下すその態度が嫌で嫌でたまらなかった。 その対象人物は会話の中でも散々出てきたカービィだ。だが、僕はそんなカービィが嫌いじゃなかった。かーびぃもまさかじぶんがぼくとくらべられてるなんて知らないみたいだし、何の罪もないのに僕がカービィを妬むのは僕自身おかしいと思ったからだ。 『シャドー、最近むすっとしてるね』 『え? そ、そうか?』 どうやら普段のストレスが顔に出ていたようだ。…危ない危ない。 カービィはあどけない顔で僕の顔を覗き込み、少しじとっと顔を見た後、正面を向いた。 『またダークとケンカしたの?』 『…まぁ、そんなもんかな』 見透かされていたのかと思うと少し恥ずかしいような、罪悪感のようなものが来る。カービィは宥めるように僕を横目に優しい口調で僕に話しをする。 『ダメだよ。仲良くしないと。ダーク悲しんじゃうから』 『は…。あいつは僕とケンカしたって悲しんだりなんかしないってーの。長いこと居るんだからさ、大体あいつの考えてることとか何やってるのかとか分かるし』 『そうなの?』 『うん』 僕が自信満々に言うと、カービィはそっか。と、呟いた。 『シャドーはダークが好きなんだね』 『…え? は?』 『だって、仲よくないと他人の生活なんて覚えないでしょ? 嫌いなら、その人のやってることなんてはたから興味ないだろうし見向きさえしないんじゃないの? 夫婦だって、夫は靴下の位置さえ知らないっていうのに、シャドーはそれがわかるんでしょ?』 『ま、まぁ…そうだけどよ』 『やっぱり、仲いいじゃない!』 カービィがニッコリ笑顔で言うから、僕は反論も何もできなくなった。 まぁ、確かにカービィの言う通りなのかもしれないと、僕は少しだけ納得している。嫌いならパンツの位置だって知らないのに、僕はそれを知っているわけだ。まぁ、仕方なく見てるような気もするけど、何より僕とダークは一緒に住んでいるんだ。仲が悪い奴が家をシェアするのは常識的にもありえないだろうし…。うーん。納得させられてしまった。 僕はカービィと別れ、鏡の世界へ帰った。 すると、黒い服を着た黒子のようなものたちが僕の家の前をたむろしていた。 (なんだ…?) 僕が家に近寄ると、黒子の一人が僕に近づいてきた。 『あの、ここにすんでおられるシャドーさんですか?』 『そうですが…』 『実は、ダークメタナイト様がお亡くなりになられました』 * 案外葬儀ってあっさりと済むものなんだとこの時初めて知った。死因は急性心不全だったかナントかで、ポックリ逝ったらしい。 「――それでは、ダークメタナイト様を火葬させていただきます。お別れの準備は…よろしいですか?」 黒い葬儀屋は僕に話しかける。ざまあないもんだな。見送りが僕だけだなんて。こんな寂しいこともあるもんなんだな。 「かまいません」 僕は少し笑い顔で言うと、黒い葬儀屋はほんの少し優しく微笑み、棺桶を火葬するところへ持っていった。 * 「ハハハ…やった」 やっと解放された。 ここは僕だけの場所。僕だけの家。僕だけの空間。 嫌いな奴がいなくなるってこんなにも清々しい気分になれるものだったんだな! 柄にも合わずこの世界の住民とあろうものがスキップをしてかけた。 もう文句を言われない。 愚痴を聞かされない。 ののしられない。 比較されない。 うれしい。 嬉しいはずなのに 暖かいものが頬に伝わって、そこで立ち止まって空を無言で見上げた ……僕はこの狭い空間が妙に広く感じ、何でもないのに風が吹いて、やけにしんとした空間が、とても寒くて寒くて仕方なかった。 静かな空間はただ風の音だけが鳴っていた。 了 もう二度と何も言われないで済むんだなァ……… |