小説2

□『恋煩い』と『女郎蜘蛛』
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 アドレーヌとわたしはとても仲がいい。わたしが迷ってたりしたら相談して一緒に決めてくれるし、わたしの傍にいつもいてくれて遊んでくれる。

 わたしはとんでもなく臆病でバカでクズ。祖星の皆にも「お前はできない子」とか「のろまで何もできないかわいそうな子」とか。そう言われてきた。ここに上京したのは、私がいつまでもそういう目で見られたくないから。と言う…どこまでも子供っぽい、救いようのない理由でわたしはここにきた。
 それからはわたしはやっぱり何もできないでここにいた。騙されてあそび女みたいなことをするお仕事をしたり、変わった趣味を持ったお客さんに酷い事を沢山させられて一生消えない傷まで体のあちこちにつけられて…。でも、わたしは抵抗もできないくらいバカだから。何もできないでいた。汚いやり方でたくさんお金をもらった。それはもうたくさん。たくさんたくさんたくさんたくさんたくさんたくさんたくさん。
 そんな汚れて醜いわたしに救いの手を差し伸べてくれたのがアドレーヌだった。アドレーヌはわたしが汚い液で道端に落ちているのを見つけて、「あたしの家においで」って言って拾ってくれたんだっけ。

 それからは毎日が幸せだった。汚いお仕事をしていたようなわたしでも構わず優しく接してくれた。アドレーヌが「あたしとリボンちゃんは親友だよ」って。言ってくれた。



 今日はわたしがお買い物へ行く日。交代制で毎日を送るから、どちらも疲れないし、どちらも不満がない。

「では、行ってきますね」
「うん。あ、リボンちゃーん。あたし今日カレーがいいなー」
「カレーですね。…何カレーがいいですか? やはり熱いですし、夏バテ予防に野菜カレーにでもしますか」
「うーん、そうだね…。いいね! じゃあ、今日は奮発して有機野菜でカレー作らない? 絶対おいしいよ!」
「え………、あ…そうで、すね。では、行ってきます」
「いってらっしゃーい」

 アドレーヌは涼しい顔をして私に手を振っていた。
 アドレーヌ…。私に気を使ってこの汚いお金にはフれてないのかな…。「普通に気にせず…お金を使ってね」とはアドレーヌは言っていたけど…。
 そういえば、この汚いお金もなんだかどんどん消えてる。最初はン百万ってあったのに今は三十万くらいしかない。
 ………。きっと、アドレーヌはこの汚いお金が早くなくなるようにと高いものを買わせてるんだ…。そうに決まってる。そうじゃないと私…。

「あ、こんにちは」

 ドキっと。した。
 道中、カービィにあった。カービィは優しくて、笑顔の似合う…。

「リボンちゃん…だっけ。どうしたの? おつかい? 偉いねー!」

 カービィは丸っこい手で私の頭をポンポンとして、優しく撫でてくれた。暖かい。アドレーヌにはない、手の形、匂い。とても心地よい。
 カービィのことは前々から好きだった。陰ながら、いつもこっそりとみていた。でも、あたしは落ちこぼれ。彼は英雄。これぞまさに天と地の差ほどある関係。
 もしもこの光景を…リップルスターのヒト達が見たらどう思うのだろう。私は出来そこないじゃないと思ってくれるのだろうか?

「あ、あの…その…」
「? なぁに?」
「その…あ…えっと…、………な、なんでもないです!」

 私はカービィの前から逃げ出すように飛んで行った。意気地なしと言うか弱虫と言うか…。

 *

「お野菜とバーモントだけで5000エンかかっちゃった…」

 体よりも大きい買い物袋の中身を見ながら溜め息をつく。
 …アドレーヌは…、働いてない。だからお金なんて当然ない。

 なのに…、アドレーヌはよく絵具や画材を買っている。それも本人いわく「アクリル絵の具の中でも極めて質のいい」「キャンバスとガッシュの相性がとてもよく、値段も結構する」物をよく買っていた。
 わたしはいつもそれについて聞けなかった。もしかしたらわたしのお財布から使っているのかもしれない。でも、もしも違って…母星のお母さんからの仕送りだとなったら…。わたしは…この汚いお金なんかの所為でたった一人の友人を。友情を失ってしまうことになるかもしれない。それが怖くて怖くて
 私はどうにも聞けずにいた。

(アドレーヌはそんなことしないよ…。だって…わたしの友人。親友だもの)

 重たい荷物をふらふらしながら持って飛ぶ。
 リンゴの木の横を通ろうとした時だった。

 バリッという音と崩れる体勢揺れる視界。

(え・・・っ)

 唐突過ぎて羽ばたくことを忘れた私は、地面に頭をぶつけることを覚悟して目をつむった。

 ドサッという音。ボゥんッと体が支えられるような衝撃。

(…? あれ。痛くない…)

 頭を押さえようとしたら「大丈夫?」と、優しい声をかけられた。

 カービィ。の

 優しい 目

「あ…あ、わ、ぁ…!」
「わ! ど、どうしたの?」

 わたしがカービィの腕の中で暴れると、カービィは私が落ちないようにと自分も動いてわたしを支えてくれた。
 でも…どうしよう! カービィの、目が、口が、凄く近かった…。恋心がどうにも暴れて私を押さえてくれない。好きなヒトに抱っこされたという、嬉しくも恥ずかしい一面を第三者の視点で想像すると恥ずかしくて恥ずかしくて…今にも舌を噛み切って死んでしまいそうだった。

「あ、おろしてほしいの? ごめんね。突然抱いちゃったりして、嫌だったよね」

 わたしを地面におろしてちょっと気まずそうにするカービィに、私は口をパクパクさせた。「そんなことないです。わたしはカービィに触れられたのが嬉しくて」…こんな短い言葉もいえない。言ったら引かれてしまうんじゃないかと怯えてしまう。

「………リボンちゃん、こんなに重いもの持ってたの? 僕が持って行ってあげるよ」
「え…?! あ、わぅ、あああ、の、…」
「え…」

 どうしよう…。断った方がいいのかな。それとも…。ああ、でも! 恥ずかしくて何も言えない。どうすればいいの…。誰か助けて…!



「あ、いたいた。リボンちゃーん」

 天使の救いの手だ。と、思うくらいわたしは…瞬時に胸をなでおろした。

「アドレーヌ…」
「なぁに、カーくん、リボンちゃんに何かしたの?」
「え? そ、そんな…僕は何も…」

 わたわたと暴れるカービィにわたしは心に余裕が出来たからなのか…小さくだけど、クスッと笑った。

「あー、リボンちゃん、今笑ったでしょ? 何〜? 何か隠し事でもしてるの?」
「してないよ〜。あ、でも…今さっきリボンちゃんがこのリンゴの木の枝に袋を引っ掛けて破いちゃって…よいしょ、この野菜全部落としちゃったんだ」
「…(…言わないと…怒られるかな…)、…あ、アドレーヌ…ごめんね…私…ドジだから…その…お野菜…落としちゃった」

 私がびくびくしながら言うと、アドレーヌが右手を頭の上にまで持ってきた。ぶたれる…。リップルスターでの記憶がフラッシュバックされ、固く目をつむり、小さく身を構えた。
 ふわっと、なでなで。
 目を少し開けると…アドレーヌは少し笑ったように、にまっと口角を上げ、頭を撫でてくれていた。

「お野菜はどうでもいいよ。それより、リボンちゃんは大丈夫? どこか打ったりしてない?」

 アドレーヌが私の背に合うように屈んでくれ、頭を撫でてくれた。カービィに触れてもらった場所に。アドレーヌの…油絵の香り…。

「さぁ」

 アドレーヌは真っ直ぐ立ち上がり、少し拾ったお野菜をカービィに渡した。

「カーくんのことだし、リボンちゃんを怪我させないように守ったんでしょ? お見通しなんだから」
「え、でも…この野菜…」
「あげたんじゃないよ。、持って帰るの手伝ってもらうの。…そう不満そうな顔しないでさ。お礼と言っちゃあなんだけど…カレーご馳走したげるよ。つっても、リボンちゃんが作るんだけどね」
「え、…わたし?」
「当たり前でしょ? 一応、命の恩人…言い過ぎか。助けてくれたワケダし。それに…今日の当番、リボンちゃんでしょ? 手料理振る舞ってやんなさいよ」

 アドレーヌは野菜を拾って、私にはバーモントを渡した。

 わたしは嬉しくて…アドレーヌと…カービィに手をつないでもらって帰った。





本当はこの後、リボンがアドレーヌにカービィが好きということを告白して、アドレーヌが数日後カービィと付き合ってリボンが絶望の淵に追いやられて終わる。という展開を描いた。のです。が、見事にデータが飛んでしまい絶望に私が追いやられました。
 気が向いて立ち直ったら上記のような続きを書きます。申し訳ありません


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