小説2

□もしも話@:「愛情しのぎ」
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「ぅぐっ…おげっぉぁ”…」
「うぁ、こいつゲロ吐きやがった」
「ね、もうセンセくるし今はここまでにしない?」
「そーね。あんたゲロ片しなさいよ。後、さっさと教室から出てってよね。アドは保健室登校が大好きだもんねー? クスクスくすくす」

 頭に雑巾をかけられ、あたしとは異なった体をした友人(笑)が教室から出て行っているのを見送った。

(…)

 あたしは反抗することなく、頭に乗ったズブズブの雑巾をとり、吐いたものを拭う。汚物をまじまじと見れば見るほど喉からまた何か吐き出しそうで辛くなる。

「ぐ、ぐぐぐ…ボグェぇ…‼︎」

 臭いに耐えきれなくなりまた生温い新しい吐瀉物を吐き出した。

(………なに、やってんだろ…あたし……)

 途端にいつになく敗北感がどっと迫り、情けない自分に嫌気がさした。あたしはなんでいじめられてるんだろ、とか、何かしたっけ。と心を巡らせる。答えは見つかるはずもなく、あっけなく予鈴のチャイムの音が聞こえてくる。

(あ、遅刻しちゃう…まぁ…いいや)

 あの子の言う通り、私は保健室登校をしている…いじめを唯一(とはあまり言えないけど)くらわない場所。

(まぁ先生はあたしをただの不登校かコミュ障だと思ってんだろうな、こんないじめ、誰も知らないし…)

 ゴシゴシとゲロを拭い、それを包んでゆっくり水場に持っていく。階段の前を通り過ぎようとしていると、じっとこちらを見てる子がいた。

(…………)

 人気者のカービィ…って子だ。あたしとは対照的な明るい子。とても…キラキラしてる…。何で見てるんだろ。こんなみじめな子を見て憐れんでるのかな。マァなんてご趣味の悪いこと。
 通り過ぎると、しばらくして階段を上る音がぽてぽてと聞こえる。やっぱり考えた通りか…。

 くだらないことを考えると一時限目を知らせるチャイムの音が響きだした。


 *


「失せろこのブス!」

 放課後の掃除。案の定あの子達が来ていじめに来た。ごみ箱をひっくり返してあたしの頭上でまき散らし、生ごみとナプキンとジュースで体がべしょべしょになった。汚い、臭い…。

「うげぇ、見てこのティッシュ。これってザーメンじゃない? 学校で抜くとかどんだけなんだっつの。出したてっぽいしぃ〜」
「この量って☆組のDDDじゃない? ホラ、アイツデブだし童貞で包茎っぽいじゃん? うわぁ、ありうる〜」

 女子はあたしの顔を掴み、無理矢理口を広げさせてそのティッシュを口に含めさせた。においと味がひどい。気持悪い、気持ち悪い…!

「ぉお”ぉ”お”お”ぉ”ぉ”お”ぁ”ッ! おガッご、」
「ウェ…吐きそ…」
「アドちゃ〜ん、よく耐えてるね〜。あ、もしかしてDDDのこと好きだったりするぅ? 愛しい愛しいDDDの豚ザーメンでちゅよ〜おいしいでちゅかー? ごっくんしましょうねー」
「はっはははははははっは、お似合いでしょそれ〜。ひっひ、ウケるぅ〜」
「あ、ついでにこのナプキンの…レバーあるじゃ〜ん。そーれそれそれ胃の中で受精しろー」
「ひいっひっひっひひひひひひひ、もうやめてそれ、お腹いたぁ〜い」

 ティッシュは口に詰め込まれるわナプキンは顔に擦り付けられえるわ…生臭くって仕方ない。今日で2回目のゲロを吐く、女子は笑ってその姿を見ている。

 あ、その少し向こう側で…カービィがこっちを見てる。今日二回目だ。嬉しい…、いや、でももっと綺麗な姿で見られたかったかな。

「あ、そうそう。そういえば聞いたぁ? リボンってA組の担任のバクベーとエンコーしてたんだってー!」
「はぁ? バクベーとぉ? …誰っけ」
「ゼロ2センセだよ。あいつさ、似てるじゃん? バクベーに。」
「あー、ロリコン共め、のね〜。なるほど、確かに似てるわ。うける〜」
「でさ、そのバクベーとリボン、エンコーして孕ましたんだってぇ!」
「えぇ〜キンモォッ!! じゃあもう学校いられないじゃん? 二人」
「それがさ、バクベーエンコーしたの認めないんだって。しかもバクベー他の女生徒にも手出してたっぽいよ」
「きめっぇぇぇぇの〜」

 女の子たちは好き勝手に話をしてあたしを置いて校舎に戻り始めた。カービィは…あたしを遠くから見てるだけ。
 ああ、凄く臭い、お風呂入りたい。あ、家に帰る前にいろんな人達に見られて笑われちゃうなァ。

(…帰る)

 きっとみんな手を貸さないから。気にすることなんてない。実際あたし臭いし、汚いし、誰も近寄りたくないだろうから、助けてはくれないの。助けたとしてもきっとレイプされてしまうかもしれないから、手を借りる気だってない。あたしはズルズルと足音を鳴らしながら、カービィの目の前を通って行く。カービィも何も声をかけない。あたしがいじめられている姿を見て、何も言わずいつも何処かへ行ってしまう。偽善者どころか、真性のクズみたいだね。本当、信じられない。


 あたしは人目を気にすることもなく、校門に向かって行った。



 ***



 あの子はアドレーヌ。

 僕の好きな子、アドレーヌ。
 優雅な名前だよね。アドレーヌって。とっても素敵だと思う。
 あの子も前は、普通に友達がいた。あの奇形児みたいな子達もたしか友達だったんだよね。
 最初見た時は、本当にキラキラしていて、今みたいな姿ではなく、汚れてない、泥一つ着いてない可愛い外見をした子だった。一目惚れだった。好きな子ができるって、こういうことだったんだって、当初僕ははしゃぎ回っていたよ。

 でもね、ダメだったんだ。

 きみは僕を人気者だって思っているらしいけれど、僕にとってはきみの方が人気者に見えた。男の子の中にも、きみの隠れファンはちゃっかりいたんだ。「今日のオカズにしてる」とか、「あのことエッチしてみたい」とか、思春期ならではの会話が飛び交っていたのを僕は知ってる。
 きみはさり気なく注目されていたんだ。僕だけがきみを好きだと思っていたのに、他の子も好きなんて。馬鹿らしいと思った。

 だからね、きみが他の子に注目されないようにした。
 匿名で悪い噂をたくさん流した。机にネズミの死体をいれた。靴を捨てた。カバンを捨てた。机にバカ死ね消えろとたくさん傷もつけた。僕がしたってまだばれてない。やっぱりヒトは影響を受けやすいんだろうね。僕がやらなくてもみんなが勝手にやり出すんだもん。クラスが違ったからよくわからなかったけど、散々ないじめを受けたみたい。会話でも、「どこそこのクラスの女子色っぽいよな」とか、「童貞やるなら断然人気の高いあの女だよな」と、隠れファンだったもの達の会話が変わっていた。仮に会話にでたとしても、「アドレーヌとかいう便器女」、「話に出すなよ。臭いが移る」と、もう興味もへったくれもないようだ。男子からの人気は崩落。後は僕だけになってしまったというわけだ。

「大丈夫。僕だけ、僕だけがきみを好きだから」

 どんなに汚くても、どんな臭いがしても、どんなに哀れでも。きみはあの頃のまま、僕の可愛い初恋の人だ。

「愛してるよ。アドレーヌ」

 たとえ他の人が愛してくれなくても、僕だけが…                    






自分勝手な愛情と独占欲




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