小説2

□ぅゎょぅι゛ょっょぃ
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「父様、母様。あの女性は…?」

 清らかな衣装に花嫁の被るようなベールを被った、ぼくよりも少し体の大きい淡い赤色の肌をした丸い女性が、椅子に座って家の中にいた。ぼくの声に気付いたのか、女性は振り向き、優しく微笑んだ。ゆっくりと椅子から降りた女性は僕の方へひざ掛けを持ったまま近づき、小さくお辞儀をした。父様は僕の後ろへ回り込み、頭のてっぺんを少し触られて、前に屈むように押された。お辞儀をしろ。ということらしい。

「私は貴方の父様と母様の友人です。私は体が弱く、もしかすれば数日後に神の元へと誘われるかもしれないのです。そこで、医師であるあなたの父様と母様に療養…いえ、看取ってもらうためにここへおとずれ…」

 女性はくすくすと笑い、僕の顔を優しく眺めた。多分…ボクが不思議そうに女性の話を聞いていたからだろう。

「私ね、も少しで死んでしまうの。だから、天国に行くまであなたの父様と母様に一緒に住もう。と誘われてここへ来たの。大丈夫よ。数日後には…いなくなるからね。でも、数日でもこんなおばさんが家に居て邪魔に思うかもしれないけど…許してね」

 僕は顔を横に振って、部屋から飛び出した。ぼくは剣のお稽古はしていても勉学にはまったく興味がなく、知らんぷりをしていた。だから今日みたいに言葉を砕いてもらわないと理解できなかった。それに、僕は顔を横に振ったことも後悔していた。何故かというと、あのままでは反対していることになるからだ。本当は「そんなことはないです」という言葉とともに顔を横に振りたかったのに…なんて事をしてしまったのだろう。しかも、無言で家を飛び出てしまった。これでは父様にこっぴどく叱られるのがおちだろう。

(参ったな…)

 気づけば家から2qはあろう小さな花畑に来てしまっていた。ぼく…こういうのは性に合ってないんだけどな…。何で来たんだろう。

(駄目だ…帰ろう。帰ってあの女性に謝ろう。誤解です、って…)

 くるっと方向転換して、来た道を戻ろうとした時、「ぷぅ」と、小さな声が聞こえた。

「ん?」

 少し振り向くと、花の冠を被った小さな子が座っていた。すっごい小さい…。

「どうした…の? 君」

 恐る恐る声をかけると、くすくす笑って、小さなその子の足元に咲いた花を構わずぶちぶちとちぎってぼくに投げつけた。

「わ! ちょ…っ!」
「きゃははは! あうー!」

 子供は楽しそうにぼくに花を投げつけるが、その行動に怒って、その小さな子供の手を引っ張り上げた。

「ぴ」
「やめろよ! 花も生きてんだ! 殺してどうするんだ! バカ!」

 命は尊いんだ。さすがのぼくも母様からそれをもう毎日のように聞かされてるからよく知ってる。

「う・・・あ、あぁーああぁあぁーーーっ」
「え、は、は…?!」

 子供はびーびーと泣き出した。大きな瞳からどんどん涙がこぼれ、その場にぺたりと座り込んだ。
 原因はどうやらぼくにあるようだ。手を掴んだところにうっすらと痣ができ、小さなその子にはとても痛そうに見えた。それと、花を千切って遊んでいたのを妨害されたことでも悲しくなっているんだと…そう思う。

「な、泣くな! お前が悪いのに!」
「わーっ、っあっあっあっぅーーー!」
「…お前の母様はどこだ? そういえば見当たらないが…」
「えぐ・・・あ、う、あぁぁああぁあー!」
「………仕方ないなぁ。いいか、ぼくの母様と父様の場所に連れてく。んで、命の尊さについて学ばして…、まぁいいや。その前に父様に叱られるだろうし…」

 僕はその子の手をなるべく優しく引いて来た道を歩み始めた。


 *


 帰り道は最悪だった。おんぶしろだの疲れただの、喋りはしないがずっと動きで知らしていた。ぷーとかぱーとか言って本当に…行動が喧しかった。

「ほら、ついた」

ぼくがドアを開けると、父様が鬼のような形相で僕に近づいてきて、手を振り上げた。――ぶたれる…!――思った瞬間、寸前で父様の手が止まった。ぼくの傍らにいる子供に指をさしていた。少し、カタカタ震えていたようにも…見えた。

「おや…」

 ベールを買ったあの女性が椅子から立ち上がり、僕にお辞儀をした。僕は今度はすかさずお辞儀をし返した。

「私は貴方の父様と母様の友人です。私は体が弱く、もしかすれば数日後に神の元へと誘われるかもしれないのです。そこで、医師で…」

 おかしい…この言葉、さっきも聞いたぞ。父様は僕の両肩に手を乗せ、少し震えていた。
 …記憶障害…なのかな…。
 ぼくが不思議疎にしていると、女性はあの時のようにやさしく微笑んだ。

「私ね、も少しで死んでしまうの。だから、天国に行くまであなたの父様と母様に一緒に住もう。と誘われてここへ来たの。大丈夫よ。数日後には…いな」
「そ…そんなことはないです!! 邪魔になんて思ってません! むしろ、居てください。もう…ここにいるのは家族同様です…」

 母様は濡れる頬を拭い、父様はギュッとぼくの肩を痛いくらい握っていた。

「ありがとう…。あ、それと…、……あら、そこに居たの。こちらへいらっしゃい」

 女性が手招きする方を見ると、あの小さな子にしていた。小さな子はにぱーっと微笑み、女性の方へ寄って行った。

「紹介します。この子はカービィ。…あなたの名前は…?」
「ぼく…ですか?」
「そうよ」
「…メタ…です」
「そう。…あなた、将来大物になりそうね…。いい、カービィ。本日からあの子…メタはあなたのお兄様です。…良いですね。メタも」
「え…あ、はい!」

 ふと、思った。
 この女性はなぜ今の今までカービィがいなかったことを不思議に思わなかったのか。カービィは見た目だと、こんなに小さい…赤ん坊みたいなものだ。それが花畑にいた。子供の事も忘れてしまうほど…深刻なのだろうか。そう思うとなんだか悲しくて仕方がなかった。

「カービィ。勉学はあなたのお兄様から教わるのですよ」
「…………ぷぅ…」

 カービィは少し不安そうな表情で女性を見ていた。身を案じているのだろう。

「………あら、貴方がたは…?」

 女性はぼくの両親を見て優しく微笑みながら聞いてきた。そんな・・・。
 


 *



 ぼくとカービィは部屋に追い払われた。僕の部屋はそんなに広くはなかった。ソファの上を少し片付けて、あの女性…カービィの母が持ってきたのだろう。布団をかけた。

「君はあそこのソファで寝るんだ。ぼくはこ」

 言うが前にカービィはベッドに飛び乗り、陣取ってやったような得意げな表情をしていた。

「・・・好きにしろ」
「ぱやぁー!」






 意外と楽しい日々は毎日続いた。カービィは「女の子らしく」花遊びをよくし、二人で外に出掛けて木の実を摘んで一緒に食べたりすることもあった。
 そんな中、カービィの母様は療養をうけながらも病は留まることなく進行していき、遂にカービィの事もわらなくなってしまった。

「………。………………」
「…カービィ。行こう」

 女性は途端にベッドから起き上がり、見たこともないような形相で暴れだし、咆哮をし出した。

「カービィ?! カービィは何処なの?! 何処!」
「っ、カービィの母様! 暴れるのはおよしください! ここにいるではございませんか! お気を確かに…ィ……!」
「違う! その子ではないわ! あの子はまだ赤ん坊なのよ…! カービィ…! カービィぃいい!」
「……! 父様……! 早く来てください! 父様ぁ! カービィの母様がぁ!」

「………? かーびぃって…だれ?」

 その笑顔は、いつか見た笑顔にそっくりだった。カービィは自分の母親から少しずつ後退り、ぐすぐすと泣き出した。それを心配する…カービィの母様。「お嬢さん、大丈夫?」と優しく声はかけるが、それは自分の子供へ声をかけているという姿には、到底見えなかった。

 カービィの母様の自我があった時の言葉…。「勉学はあなたのお兄様から教わるのですよ」。僕に重くのしかかる。だが…兄となった今、教えないわけにはいかない。
僕は必死に勉強した。寝る間も惜しみ、たくさんの書物を読み漁り、たくさん学んだ。

「カービィ、君の母様から君に勉学を教えるように言われた。だから毎日2時間でも一緒に勉強しよう。良いな?」
「やー! にぃと遊ぶ! お勉強やだー!」

 カービィはやる気がないからなのか、小さい頃からのが癖になってしまっているのか、なかなか勉強しようとせず、遊べ遊べと催促していた。…例え託されたと、本物の妹じゃないとしても、僕は妹、カービィを愛していた。

「…カービィ、にぃはお母様からカービィが立派なレディになるようにお願いされたんだ。僕もまた、お母様と意見は同意だ。カービィが美しいレディになるのは僕の喜びでもあるんだ」
「……」
「その段階のためには、女性は美しさも必要であるが、たくましく、強い姿も必要だ。…よって、今日は公園で遊ぼう!」
「……? …! うん…!!!!」

 何だかんだ言っても僕はカービィに甘かった。カービィの悲しい顔を見るより明るくって太陽の下でキラキラしてる姿の方がずっと好きだったから。毎日、遊んでばかりいた。
 時にはちゃんと勉強もし、女性としての作法も教えた。




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