小説2

□゚.+° ア デ ィ オ ス ゚+.゚
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 ラブラブなものを目指してみました(※救われません)




「リボンちゃん…あたし、カーくんの事が好きなの」

 そんなの誰が見ても知ってるよ。突然あたしに言われてもなぁ…。
 アドレーヌはカービィの事が好きだ。いつものろけた話をあたしにしてくる。話の種であるカービィはアドレーヌの事はそんなに好きではなく、ただ普通に、友達のそれ程度に慕っていた。

「うん……………………?」
「でね、……ほら、みて!」

 アドレーヌは私の体の大きさくらいの携帯を取り出し、ずいっと見せてきた。
 光っててあまりよく見えない…しかも近い…。

「フフ、これ…カーくんのアドレスなんだ。いいでしょ? あ、いくら親友のリボンちゃんでも、あたしの好きなヒトとっちゃったらいけないからね。絶交するから!」
「大丈夫ですよ。ふふ、応援してますからね」

 アドレーヌは一途なんだなァ。最初に会って助けてもらった時からカービィの事が好きみたいだったし、今も変わらず同じ人を好きでいるなんて、とっても素敵だと思う。…カービィ、携帯持ってたんだ…。

「メールしたらさ、『今メタナイトと剣の稽古中で、その間の休憩だよ』ってさ。はぁぁ…カッコいい…」
「稽古中? でしたら、今の時間はメールしない方がいいんじゃない? カービィに迷惑ですよ」
「稽古なんていつでもできるじゃない。イイの、あたしとメールしてると和むって言ってくれたの、カーくんなんだもん…」

 とろけそうなほどの笑顔でアドレーヌは呟き、携帯を延々とにらめっこしていた。

(アドレーヌ…嬉しいのはよくわかるけど、やっぱりカービィにとっては迷惑だと思うな…)

 たかが友情を失いたくないが為に、この言葉を言えずにいた。わたしの言うこれはきっと正論。なのに…。

「リボンちゃん、ホラ、この前あたしとカーくんを撮った写真…」

 アドレーヌは見たくもない画像を構わず見せつけてくる。強引だな…と思ったが、その短い言葉も喉の奥にしまいこみ、ただただ言えずにいた…。


 *


「あれぇ…もぉ………」
「アド、お風呂あきまし…ん? どうしましたか?」
「あ、りぼ…リボンちゃん携帯わかんないよね…ごめん…」
「? どうかしましたか?」

 アドレーヌはひどく困った顔で、私に携帯の画面を見せてきた。うぁ…眩しい…。

「カーくんにメールを送ってもかえってこないの。なんでだと思う?」
「え、かえってこないって…あ、返信が?」
「そう…」

 それは相手が寝てるとか、気付かないのか、電源を切ってるか電波が悪いからとか…色々あるけど、どうしてなのかな。

「寝たんじゃないですか? もう10時だし…」
「ううん、カーくん、今日はまだ寝てない。起きてる」
「はは…そんなこと分かりませんよ。監視カメラでも仕掛けてないと………」

 アドレーヌはそっと顔を背けた。そこで今日やっと、今日やっと初めて携帯をパタン、と閉じた。正直わたしは安堵した。だって、今日ずっと憑りつかれたように携帯を開いたままだったんだもの。アドレーヌはお風呂に向かい、わたしは携帯を机の上に置いて、布団を敷いて先に眠った。


 *


 朝起きて、村の八百屋さんに向かった。アドレーヌはこの時間起きていてもいいに、まだ眠っていた。大事そうに携帯を掴んだまま離さず、おこしてもかわいそうなのでそのままにして出てきた。

「今日はリンゴが安いんですね…」

 チラシを見ながら質のよさそうな林檎を選ぶ。すると、伸ばした手の先で、別の人と同じ林檎に触れた。

「あ、す、すいません!」
「あ、いや…」

 顔を上げると、意外なヒトがそこに居た。

「メタナイトさん…まぁ、おはようございます」
「…ああ、おはよう。…今日は一人なのか」
「ええ、アドレーヌ、まだ眠ってるんですよ」

 何か言いたげな目をしたメタナイトさん。どうしたのだろう…。

「…あー、リボン。…そなた、アドレーヌと同居していたな…」
「え、ええ…アドレーヌ…何かしたんですか?」
「………すまない、話があるんだ。少し時間を拝借しても…良いか?」

 妙に真面目な表情になり、深刻な内容を窺わす。何だろう? メタナイトさんに何か嫌がらせをしたのだろうか…。
 心配になったわたしは八百屋さんの中から出て、小さなカフェにやってきた。

 そこには可愛い携帯と、カービィの姿があった。

「あ…やぁ、リボンちゃん」
「カービィ…。…おはよう」
「おはよ…」

 どこか元気がなさそうだ。どうしたのかな…。

「まぁ、そこに座れ」

 レストランやカフェにありがちな堅いソファに腰かけ(というよりは箱などを置いて高くして座った)、メタナイトがカービィの隣に座った。少し…緊張する。

「リボン、最近…アドレーヌに変わった様子はないか」
「…あの、アド…何かしたんですか?」
「質問に答えてくれ。
 もう一度聞く。…最近、アドレーヌに変わった様子はないか」

 まるで警察の取り調べだ。私は何だか居心地の悪い空間に一人取り残されたようで、気持ちが悪くなってきた。カフェにいる客は皆こんな会話に興味はないようで、それぞれ好きなように会話をしている。だからなのか、ここが余計に異端に感じて、場違いの話を聞いているような、そんな気がしてならなかった。

「…昨日から…携帯でカービィのメールをずっとやりとりして…あ、でも…もしかしたらわたしに隠れて実は前からなのかな…。とにかく、メールをずっと楽しんでいる様子でした。…それくらいしか…ないです」

 虫が鳴く程度の声でしか、最後は喋ることが出来なかった。アドレーヌが迷惑をかけている。昨日の出来事でわかったからなのかもしれない。でも、アドレーヌはきっと悪意があってカービィとやりとりをしていたわけではないと思う。いや、絶対そう…に、決まってる。だから、「楽しんでいた」という言葉でも入れておけば…。

「…、298件」
「?」
「昨日までに来た、カービィへのメールの件数だ。…言っておくが、そのうちの未読は201件。全て、アドレーヌからだ」

 確かに昨日、ずっと携帯とにらめっこをしていた。え、でも昨日だけで約300件って…。

「…僕ね、これから剣の稽古があるからもうメールの返信しないよ。って打ったんだ。そうしたら…」

 カービィは携帯をつつき、おぼつかない操作をして惜しげも無くそのメールの本文を暗めの画面で見せてくれた。

『そんなの明日やればいいよ。どうせメタナイトに無理やり押し付けられたんでしょ? カーくんはあたしとメールしてる方が楽しいもんね♡』

 昨日の昼の言葉とそう変わらない文面がそこに書いてあった。まるで自分勝手な文章に少し笑いそうになったけど、その感情を押さえ込んで、携帯から目を離して真面目なふうに見上げた。わたしが顔を上げたのを確認して、カービィは話を続ける。

「…メタナイトに見せたら返信しなくっていいって言われて、しなかったの。…それから稽古中もずっとメールの着信音が鳴っててね、5分に一回くらい…かな。サイレントマナーっていう設定にしたらやっと静かになって…でも、画面を開くと新着のメールが届きましたって絶えず出てくるんだ。僕、怖くなって昨日はそのまま寝たの…。そして今日開いたら、未読のメールが201件…って」

 …わたしがお風呂に入りなよって言わなかったら、そのあともまだメールを送る気だったのだろうか? わたしは…やっていいことをやったんだ。アドレーヌの為だ。この行為は妨害してよかったんだ。…なんだか少し、ホッとした。

「じゃあ、もしかしたら…アドレーヌが起きたらまた、カーくんにメールするかもしれない…ん、で…すよ、ね…」
「ああ、そうだな。
 …リボン、すまないが、そなたの方からアドレーヌに…」
「言っても聞かないと思います。ですが…やってみます」

 メタナイトが軽く頭を下げ、カービィが悲しそうな表情でわたしを見ていた。わたしは席から羽を広げて飛び、荷物を持ってまっすぐカフェから出た。

「リボンちゃん」

 目に涙を浮かべたカービィがカフェから飛び出した。何か言いたそうなカービィは口をもごもごしたまま、もの惜しそうに口を閉じた。

「…気を付けてね…」

 何を気をつけるんだろう…?

「…ええ、わかりました!
 さようなら、カービィ!」

 わたしは泣き顔のカービィに、とにかくあの笑顔でいてもらいたいから精一杯の笑顔で返事をし、できるだけ早く自宅に飛んで行った。


 ***


「………ぅっ…えぅ………ぁぁ………フぐっ…ぅ……ッ……!!」

 またこのセリフ…。また……同じ言葉…。


 ***


 家についた。アドレーヌは…まだ寝てるのかしら。

「ただい」

 ドアを開けた瞬間わたしの体くらいの手が首にはまってきた。

「ッグぷ・・・?!」

 そのまま壁に押し付けられた。のどが、しまって、く、る、し、い、いッ?!

「ダメじゃないぃ???? リボンちゃア〜ん??」
「あ”ッ…あどッあ”ごぉッアドゲッ……ゥっ……ッ………! ……ッ・・・ゲェ!!」

 アドレーヌとは比較にならない小さな自分の手を力いっぱいアドレーヌの手を掴んで反抗した。全く敵わないと知っていたけど…。
 ああ、だめだ。まるっきり・・・かなわない

「ねぇ、あたしいったよね? あたし言ったよねェ?! カーくんの事が好きなのォ! ナンで一緒にオチャしてんだ…こォの雌豚がぁッ?!!!」

 あ・
 アドレーヌには…わたしは、カービィを横取りしようとする女の子にしか見えないんだ。ああ、ひどい。ひどいよ。わたしはアドレーヌの事を思って過ごしてきたのに…。

「カーくんが返信しないのも、部屋に今いないのも、ぜェんぶあんたが仕組んだんでしょ? ねェ、そうなんでしょ? あたしの悪口をカーくんに嘘ついて言ったんだろ? それでカーくんはそんなリボンちゃんに困って返信できなくなっちゃったんでしょ? 見通しよ、そんなこと。だからリボンちゃんが寝た後…あたしカーくん家に行ってね…ほらぁ、見える?これ、カメラ。カーくんの部屋がうつってるでしょ? もし返信してこなかったり言い訳したら殺すから。ってさっき打ったんだけど…なんでかしら、まだ返信こないの。待っても待っても待っても待ってもこないの。あんたが仕組んだんでしょ? ねェ、カーくんとあたしとの間を妨げるためにあんたがなんかカーくんに入れ知恵したんだろ? ばか。ばぁーか。しね。くず」

 わたしは…違うよ。そんなんじゃない。

 この言葉さえいえばアドレーヌはきっと納得してくれると思うのに。納得してくれると思うのに…

「……リボンちゃん、今日は許してあげる」

 アドレーヌは手を急に離し、わたしは力が抜けたまま床に落ちた。咳とひゅうひゅうという呼吸に、怖くなった。

「次なんかしたら…今度こそ殺してやるから」

 アドレーヌはわたしの事を放っておいて、部屋の奥に携帯を扱いながら行った。私はアドレーヌの猟奇的なあの目が怖くて…忘れることが出来ないでいた。

 …9日後の事でした。


 ***


『…今朝、リボンさんのお宅で、リボンさんの死体と思わしき人物が発見されました。
 被害者のリボンさんを殺害したとおそれのある同居人のアドレーヌ容疑者を取り押さえ、現在、取り調べ中です。調べに対し、アドレーヌ容疑者は、「カービィをリボンがとろうした。だから殺した」と、容疑を認めています。アドレーヌ被告が関連した別の被害でも、カービィさんは容疑者から何度もストーカー行為をされ、精神を病んでしまい、今、病院に入院していま…、少々お待ちください。…………、ぇ…あ、はい
 …っ、ン………、ぇーただ今被害者の新たな情報が入りました。速報です。本日、約7分ほど前に、カービィさんがお亡くなりになられました。搬送された病院の病室を血塗れにし、何者かに殺さ……ぇ、なに? ……ッ………、……っ…〜………。……
 あ、そ、速報です…。先程…アドレーヌ容疑者が、カービィの病室の隣の部屋で亡くなっているのを…か、確認されました。警察も今困惑中で‥‥あ』

 ブッ…っ…






 






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