小説2

□ろーあ
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『マスター 1時 コーヒー の 時間 です』

 ピーピーと、若干低い機械音と一緒に聞こえるのはローアの声。ボクは作業中の手を止め、出てきたコーヒーを飲んだ。

「ありがとうネェ、ローア。君の淹れるコーヒーはとってもおいしいよォ」
『ありがとう ございます マスター』

 ボクはカービィとの戦いの後、何も悪さをしないを条件にポップスターの地に再び戻ってきた。嬉しいことに、カービィは受け入れてくれた。優しく、温かく迎えてくれたんダァ。

 ピーピーと、さらに高い警告音が鳴りだした。…最近多いけど、また容量がいっぱいになったのかなァ。

『マスター 容量 が 不足 して います 直ち に データ を 消去 して 容量 を 2 TB 開けて ください』

 やっぱりそうだと思ったけどそうだったのかァ…。ボクは今までの悪さに使ったファイルを7839アイテム削除し、その場しのぎに容量を開けた。警告音は鳴り止んだが、やはり若干不足しているようで、動作が重くなっていた。

「…こりゃダメだねぇ。安くて圧縮できたりするソフトは売ってないかなァ」

 大きな画面に世界事情を知らせるページを開いた。やんわりと発光する画面を眺め、とあるページを開いた。


―――――

1 名前:以下、ポップスターよりDDDがお送りします ID:Ad603+u
最近PCが重いんだけど、何かいい拡張ソフトない?

2 名前:以下、ポップスターよりDDDがお送りします ID:UsheV/a
 俺いいの知ってるよ。ホーリーナイトメア社のクリスタルハートって言うんだけどさ。

3 名前:以下、ポップスターよりDDDがお送りします ID:Ad603+u
なにそれ? 詳細はよ

4 名前:以下、ポップスターよりDDDがお送りします ID:nnhOy21
自分で調べろks

5 名前:以下、ポップスターよりDDDがお送りします ID:UsheV/a
クリスタルハートって言うのは「システム向上増幅プログラム」でさ、PCだけじゃなくロボットとかアンドロイドとかにも外付けHDDとかつかってインストールさせると処理が格段に上がってめっちゃぬるぬるになるのよ。
キャッチコピーは「家族のような存在」で、機械に意志が宿るんだとさ。ま、俺んとこはそんな面白い事にはならんかったけどな。

6 名前:以下、ポップスターよりDDDがお送りします ID:Ad603+u
なんだよ家族みたいな存在って(笑)

7 名前:以下、ポップスターよりDDDがお送りします ID:UsheV/a
家族のような存在な。まぁどっちも一緒だが。機械によっちゃあ全く使えないゴミだからよく考えて買えよ。考えようにも、対応する機種とか全く書いてないから、買ってみて使わないと機能するかしないか分かんないんだけどな。ちな1年以内返品可能。

8 名前:以下、ポップスターよりDDDがお送りします ID:gTT797i
なんだお前ホーリーナイトメア社の回し者かよ笑笑

―――――

 …つまり、このソフトを使えば格段に機能が上がるってところだねェ。しかも返品可能か…。…あ、このソフトの販売先のURLもちゃんとある。

「…ローア、ちょっと使ってみよっカ?」
『はい マスター』



 *



 数日後、「システム向上増幅プログラム」のクリスタルハートが来た。見た目はただのCDっぽくて、実にシンプルだった。

「フゥーン…こんなのでホントーに拡張するのカナァ? マ、拡張しなかったら返品すればいいしネ。
 ローア、ディスクを入れるからドライブを開いてネェ」
『はい マスター』

 パネルの下あたりにセット部分が出てくる。ボクはじっとそのクリスタルハートを眺めた後、セットしてセッティングに移った。

『Are you sure you want to install the either or both the extended data, the emotion data?』

 とある青い星の言葉が表示されてる。参ったな…僕読めないんだよなぁ…。チェックがある。YesかNoか。これは読めるから、取り敢えずYesでいいかな。
 ボクはYesに合わせてクリックした。データのインストールか何かが始まった。
 その間にボクは説明書を見た。

『クリスタルハートは機械が感情を持つとともに、自分の意志で何事も行動するようになります。(例:勝手にウェブを見る。機械の操作を行う。)あなたがされたくないことは事前にそのあなたのコンピューターと禁止事項を決め合っておきましょう。そうでないと、クリスタルハートはバグや問題を引き起こし、ウィルスそのものと化してしまう恐れがあります。そのような事態となっても、当社は一切の責任を負いかねません。改めてご了承ください。

 「クリスタルハートは、上手く付き合うことで温かな家族の存在を作ることが出来ます。」』

 ザンネンだけど、僕はこの青い星の言葉は理解できないからなんて書いてあるのかさっぱり分かんないんだよねェ。
 そんなことをしてるとデータのインストールが100%をきていた。…あれ、インストール? 拡張は…

『…………………………………………データのインストールが完了しました』

 女性の声が聞こえた。滑らかで、さらりとした声…。

『マスター、…私です。ローアです。聞こえますか? マスター?』

 ハッとして僕は画面を見た。別になんて事無いいつもの画面…。

『……立体映像ホログラムを起動させていただきます。外見、性格、その他の箇所は埋まったファイルの中から摘出します。…………3,2,1、………はい、摘出しました』

 ガッガッガッガと変な音が鳴った後、長年使ってなかったホログラムが作動した。下の方から細かく分析された映像が現れている。
現れたのは髪の長い綺麗な女性の映像…。

『マスター、貴方の心とデータを基に作った私の姿です。お気に召したでしょうか?』
「キミは……ローアなの?」
『はい。私は今までこの船、ローアの形として存在し、元々あった文章を作るAIを搭載していました。
 …ローアは未熟だったのです。会話をし、言葉を繋げることはできても、それはプログラムされたものであって私自身の本当の言葉ではなかったのです! 今こうして、マスターのような生きているヒト同様に会話できるのもマスターがインストールしてくれたこのクリスタルハートのおかげです…。ところどころ文章が成立していないのはまだちゃんとインストールできてないみたいですね』

 信じらない。これが…ローアだというのだろうか…? いまいち信じがたい。

「ソ、なの」

 夢見心地で、僕は適当に頷いた。ローアは笑っていた。



 ボクはその間、ローアとの会話を楽しんだ。どこで生まれ、どこで作られ、誰に、どのようにここまで旅をしたか。それをずっとしていた。

「…それで、ボクはカービィに負けちゃって一時期ココからいなくなっていたんだァ。ま、ボクが悪いんだけどねェ」
『そうなんですか。…カービィ…、……カービィ。…私は…ボソ(嫌いです』
「どうしたのォ? 俯いちゃってェ…調子悪いノ?」
『‥いえ、ちょっと機械がオーバーヒートしそうになって…それを治めていたんです』
「え‥! ソウカー、マぁ、元は拡張ソフトだもんねェ、オーバーヒートしても無理ないかもしれないねェ。…ローアは、治めたって今言ったケド、そんなこともできるノ?」
『ローアは私ですからね。出来ない事もございません。というのは…こういったものは冷ませば戻るので支障はないのですが、ウィルスやバグといったモノは私は追いだせなくって…生き物でいう風邪ですね。それになってしまうんですよ』

 判断は難しいが、そういうものもローアはちゃんと教えてくれた。一週間の間は何かそわそわしていたようだが、過ぎればそわそわすることもなくなり、気分のよさそうにいつも笑っていた。
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