小説2

□ナンテン(白)
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「つまんないなァ」

 部屋の真ん中でゴロンと転がり、何もない真っ白な部屋を見つめていた。

 僕は、4日前からメタナイトに監禁されていた。

 それはもう退屈なんてものじゃあない、暇で暇で暇で仕方がない。白い部屋には家具は一切ないからもっとやることがない、朝夕とメタナイトがご飯を持ってくるだけの、まるで鳥かごにとらわれた鳥のような気分をここ数日味わっていた。何故、メタナイトにこんなところに入れられたのかはわからない。友達と遊んで、御茶して、ゲームして…、気付いたらここに入れられてた。

「僕もう家に帰りたいぃぃ〜、こっから出してよメタナイトぉ〜」

 以前返事はない。全く、本当に退屈しちゃうよ。
 こんな時、誰でもいいから話し相手でもほしいな…。





 話し相手か。
 そういえば、アドレーヌが前興味深い話をしてくれたな。


『カービィ、「人口精霊」って知ってる?』
『え、なぁに、それ?』
『簡単に言うと、エア友ってやつかな、意外とこれ有名なんだ。自分の頭で性格とか姿を考えて…現実に映し出すの』
『へぇー』
『ほかの人には見えないけど、自分の話し相手くらいにはなるんだって。まぁ、友達のいない人向け、カナ。多分。だから、カービィにはあんまり関係のない存在かもしれないね』


 「人口精霊」…今まさにその存在がとっても欲しかった。あの会話の後若干調べてわかったけど、妄想の産物だか何だかで触れることはできないみたいだ。けど、会話をしてくれる友達が今とっても欲しい…。

(そうしたら…形だ…)

 あまりにも他のヒトに会ってないせいか、僕の簡単なフォルムしか思いつかない。どうしよう…。

(いいかな…)

 『乗っ取り』をしようとするモノも多いと言うが、別に僕はどうなろうといい、成り変わられいても、きっと多重人格か何かになるだけだ。覚悟は一応できてる。

(姿はいいか、色は‥‥流石に一緒だと気味が悪いな。灰色かそこらにしよう)

 大体頭の中では思い浮かんだ。あとは性格だ。
 ちょっと生意気で、元気な子がいいな、ちゃんと正義感はあって、でも意地悪な…ヒトよりヒトっぽい、違和感のない子がいいや。話が合うように、やっぱり男の子。…良し、いい感じ。

(会話を…するんだっけ)
「や、やぁ」
「ンん…よ、よぉ」

 最初は一人で会話をしてみる、現実に姿を重ねながら、頭を使って口を動かさせる。でも、やはり一人で喋ってるから少し恥ずかしい。あまり、誰にも見られたくない姿かもしれないなァ。

「僕の名前はカービィだよ。君は…えと、シャドー、シャドーだ。これからよろしくね、シャドー」
「おぅ、よろしくな」

 少し声色を変えて、何となく、こんなイメージかなと思いつつ言葉を発する。(一人でだけど)会話をしていくうちに、性格が、好きなものが、苦手なことが、どんどん定まってくる。自分で考えて自分で回答を探す。なかなか面白いものだと思った。
 扉を強めにノックする音がした。そっか、…もうそんな時間なのか。別にメタナイトには見えはしないけど、少々不安なので、壁際に歩かせた。まだやはり滑らかじゃないな‥。

「カービィ、今日はミネストローネだ。お食べ」

 結構大きなお盆に、温かそうな具がたぁっぷり入ったスープが運ばれてきた。僕はとろりと口から溢れそうになる涎を必死に呑み込んだ。

「おいしそうだろ。カワサキに作らせたんだ。とても栄養があって、お腹いっぱいになるものを作れと頼んだ。まだおかわりはある、ここに鍋を置いといてあげるから好きな分だけ食べなさい。」

 メタナイトは結構大きな寸胴鍋をそこらの床に置き、さっさと部屋を退室した。一体なんでこんな場所に居させられているのやら。お人形かペットかだと思われてるのかな。

「アイツがさっきから話してたメタナイト?」
「そうだよ」
「なぁんか…ちょっと腹が立つな」
「どうしようもないんだよ。きっとはずれてんの」
「はずれてんの」
「そ」
「ふぅん」

 今度は頭の中で、口パクをしながら会話をする。結構単純で順調に出来るもんだ。これならあまり苦労せずに自動で会話できるようになるのかもしれない。


 *


 そのまた6日後、まぁほとんで出来上がったといってもいい。これはかなりハイペースでよく出来上がってるんじゃないのだろうか。

『カービィ、今日は何の話をしてくれるんだ?』
「ああ、今日はええっとね‥」

 頭の中で声は聞こえ、表情もころころ変わるくらいになった。現実にもだいぶぼんやりだけど映せるくらいになって自然体に近くなってきた。シャドー自身からもたまに話すし、やはりこれだけ暇だったからこんなに成長したのだろうか。ちょっとした達成感のようなものを感じて嬉しくなる。
 今日もずっと会話をする。彼はとても悪戯が好きなようで、突然驚かしてきたりでよく吃驚させられる。僕の理想としたものになってきている。 
 突然何の前触れもなしに扉が開いた。僕はびっくりして、笑っているところに入って少し血が引いていくような感覚に襲われた。鬼の形相でメタナイトは駆け足で入り、なぜか片手に斧を持っている…。あたりをきょろきょろ見回し、ぎろりと僕に目玉がこちらを向く。不覚にも、驚いて情けない小さな声が漏れだした。

「…カービィ、おまえのトモダチはどこだ」
「え……は」
「大丈夫だ。悪ゥいことは何にもしない、ちょっと痛い痛いことをするだけだから。ここへ呼びなさい」
『はんっ、お前の目の前に座ってんだろうが。ぜってー殺す気だろ。斧持ってる時点でバレッバレだろうが。厄病神がよォ』
「ちょ、シャドー! …っ!」

 僕がシャドーに向かって言った瞬間に、メタナイトはすぐさま斧を振り上げてその場にグァッと斧を振り下ろした。まさか…姿が見える?

『ばぁっかでぇ! 僕の事が見えないくせに藪から棒にそんなもん振り回しやがって。なんだ? 厄病神って言われたのが嫌だったかい? 本当に事だろがぁ、僕の友達をこんなとこに幽閉しやがって。頭がいかれた奴のとる行動ってほンと、マジで意味ワカンねェ〜。』
「シャドー! 言い過ぎ‥」

 無言のまま斧をメタナイトは振り回す。シャドーはげらげらとその姿を見て笑う。
 人口精霊は僕の生んだ妄想、いわば現実にはどうやっても存在しない。声も聞こえない、僕にだけやっと見える存在。どうあがいてもメタナイトには見えっこない。きっと、第三者から見たらメタナイトは『白い部屋で何もないものを必死に殺そうとする頭のおかしな人』にしか見えないだろう。

「メタナイト! やめなよ!」
「ぅるるるるっるるるるるーるるる・うるっるるっるるる」

 斧を振り回し、狂人のようになっている。メタナイトを怖いと思ったのは初めての事だ。
 シャドーはしばらくしたらつまらないような表情で、僕をちらっと見た。

「しッ・」
『カービィ、これ以上僕の名を呼んでも、この頭のいかれた救いようのない馬鹿は動きを止めないぜ』
「……………」
『仕方ないから、僕は「当たった」とか「切れた」とかいえば奴も安心して斧なんて振り回さなくなるだろ、カービィに当たったら僕が困るしね』

 確かにその通りだ、一向に動きを止める気配もないし、いよいよ気味が悪くなってきた。僕は、もう一度メタナイトの名前を呼んだ。

「メタナイト、僕の友達はそこに居るよ」
「るるるるるる、るるるるる」

 メタナイトはピタッと動きを止め、僕が指した方に、メタナイトは目で追って、ふらふら歩いてそこに近寄った。勿論、そこにはシャドーはいない。シャドーは僕の隣で蔑むような眼でメタナイトを見ているばかりだ。

「ああああああああああああああくるってるるってるやゆよやくびょうがみ! 私のここおおおおに近づくな汚れたゴミのくせにあるらるれれれれれれっええええれれそれでもいいとかねねねねのみがさんがみぼうばぶ」

 メタナイトは何もないところをがんがんと振り下ろし、なにも無いところに叩きつけている。後半何を言ってるのか全く聞きとれなかったが、きっとこういってたような気がする。きっと意味のない言葉なのだろう。
 しばらくして満足したのか、メタナイトはすっかり疲れきった顔で斧をひこずり、僕の頭を撫でてそのまま真っ直ぐ部屋から出て行った。
 シャドーはあきれ顔だった。

 次の日、いつの間にか部屋に監視カメラが設置されるようになった。僕が寝ていたときにでも設置したというのだろうか。

「何考えてんのかなぁ、ほんと」
『僕を殺して満足してんだろうけど、やっぱ疑いって消えないものなァ。所詮カービィはその程度ってことなのかもね』

 シャドーがくつくつ笑っているのが、何故か少し、頭にきた。ちょっとしてまた今日もメタナイトが部屋に入ってきた。‥斧を持って。
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