小説2

□ナンテン(白)
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 *


 そのまた10日たった。もうシャドーは一人の生き物として僕の目の前にいた。突然消えるし、突然出てくる、もう頭の中で台詞を考えなくても、勝手にポンポン自動的に出てくる。これは、かなり僕は天才なんじゃないかというくらい早い成長ではないのだろうか。

『カービィ! こっから出る方法がわかったぜ!』
「え、どんな方法?!」

 相変わらずやはりメタナイトにはちゃんと見えず、僕だけが見える。メタナイトは僕が話すたびに部屋に入ってきては斧を振り回す。今日は来ないことから、きっと外出中なのだろうか。

『前やった要領さ、君がうんと話して、メタナイトに斧を振らせる。で、あの扉の前にずっといる、と言うんだ。分かるね。
 まだ死なない、もっとやるんだとそそのかしてしまえば、扉はいずれ壊れる。隙をついて逃げる、これでおしまい』

 なるほど…たしかにいいアイディアだ。だがもし、さすがにメタナイトもこの方法を知って怒ったら殺しにかかって来るのではないだろうか。

『そんな女の腐ったようなことを考えていたらきりがないぜ。こんな息の詰まったとこに居たらいよいよカービィが壊れちゃう。どれ、ちょっと体を貸しなよ、カービィ』
「え」

 突然意識がぷっつり途切れる。






「手に取って」

 僕の目の前に黒い影の青年が立っていた。シャドーによく似てるけど全く違う雰囲気、どちらかというとメタナイトによく似てる。
 僕は影の手を取り、ダンスを始めた。なぜかちょっと適当で動きが荒ぶるダンス。上手いとは言えない、ダンス。

「そう、その調子」

 影は僕を褒め、手を握り、棒を持たせた。僕は演舞を踊るかのように、影に援助されながら降らされた。不思議と重みもない変な棒。僕は踊る。
 変拍子で、あまり足がついて行かない。速度が早くなってきた。体がついて行かない。まるで、これは…

「いいよ。とても上手だ」

 ――糸で吊るされて操られてる人形のよう

 これは勘だけど、とても危険な感じがする。夢という感じでもなし、どちらかというと現実味がありすぎている。

「ごめん、僕、ここで踊ってる場合じゃないんだ…! 止めて!」
「それはできない。大丈夫、お前はそうやって踊っていればいいんだ」

 このヒトも何かおかしい。僕は動きを何とか止めようとする。…だめだ。地に足がつくように、空に取りが飛ぶように、海で魚が息をするように、動くことに逆らうことができない。どうしよう、どうしよう、どうしよう!

「お願いだよ! ぼくはここにいられないんだ。戻して! 直して!」
「………」

 影は少しうつむくように、顔を伏せていた。そしてまた顔を上げ、僕の目を赤い目がみていた。

「本物はここで踊っていた方がいい。…でも、そんなに嫌ならもうこのダンスを終了させてもいい。但し、君はこれからとても後悔して、とても辛い目にあってしまうもしれない。それでもいいかい」

 構うものか、僕はこんなとこにいたくない。この現実のようで現実ではない世界から抜け出したい。
 この世界の住民と思わしきヒトはとても哀しそうな目をして、僕から離れていた。いや、僕の体が離されていた。僕から見ると吸い込まれて行くようにその人の姿はだんだんと小さくなり、遠い闇の中に飲まれ消えて行ってしまった。僕はというと、背後から光に照らされ、釣り糸で引き上げられる魚のようにその光の中へと身を投じて行った。意識がだんだんとかれ、深い暗闇へと、また包まれていった。



「…」

 微妙な光に照らされ、目をゆっくり開けた…やはり夢だったのか。なんとなく、さっきまで立ってた場所と違うことに気づく。シャドーは? どこに。意識がはっきりし、目もだんだんと慣れてきた。

「…え」

 僕が目を覚ましたした場所はさっきの白い部屋の中…の、はずだった。

 僕は、自分の手を見た。真っ赤。

 みにくいほどに  まっかっか。

『どう、カービィ』

 声、いや、もとい幻聴の聞こえた方に素早く振り向いた。灰色の姿の幻影がそこに突っ立っていた。

『君の体を借りてそいつをぶっ殺したんだ。あーあ、あはは。
 これじゃあまるで君がそいつを殺しちゃったみたいだな』

 灰色の視線の先には、斧が突き刺ささったままの死体があった。直ぐには信じられるような光景ではなかった。さっきまで動いて喋っていたものが、突然真っ赤に染まり、そこに倒れているんだもの。恨めしいヒトだ。でも、これはやりすぎじゃないのか?

「何で殺しちゃったんだよ? このヒトは何もしてないじゃないか。僕には一切手を上げなかった。手だって出されたことがない。本当に死ぬべきなのはお前の方じゃないのか?」
『どうしたい。同情しすぎて情がうつっちゃたのか?』
「…! お前は所詮妄想からできた産物なんだ! 消えろ! 消えちまえ! お前なんか造らなきゃよかった! こんなことになるならいらなかったんだ! 消えろ! 消えろ消えろ! 頭から消えちゃえ!何処かへ消えろ!」

 僕はどうにかしたようにシャドーに叫びあげた。シャドーは静かに僕の少し前で話をシンと聞いていた。

『それってさぁ…、ヒトで言うお前なんかデキなきゃよかった。産まれて来なければよかったんだ。死ね死ね。存在が亡くなれ…て、言ってんだよな』

 少し寂しそうな声に、我に返る。パッとシャドーに向き返ると、僕のすぐ目の前にいて、目から血をダラダラと零れさせていた。

「ヒィっ?! しゃ、ぁ…?」
『ナンでボく存在ヲ否定されタの? ぼクハかービぃが好きナノに…。酷イよ。みてよ、血ぃがだらだらだらdらだらだrだらだrだ』

 違う、こんなの妄想だ。消えるんだ。声なんかしない。姿なんか見えない。いない。いない。いない!

『無理しなイで? 僕はこコニにいるヨ。どんなに否定したって無理無理。僕はカービィがガスききって言ってる。なんデ一匹生き物殺しタたらそんな心が変わるんだ?』

 目玉がボチャット腐り落ちる幻覚が見える。そんな、どうしてこんな。僕はもう何も考えてない。無意識になんで? わからない。こんなの、知らない。助けて、誰か、誰か。だれか。ひっしに考えて、しまう。

『僕知ってるよ。カービィが僕を好きで好きでたまんないこと。僕だって好き。うまれたての頃、カービィが僕に人格というものを作ってくれたのはとっても嬉しかったなぁ。今も嬉しいよ。今じゃあ、見てよ。僕はすっかりシャドーという存在の一つとして定着してしまったんだ。どんなにカービィが僕のことを忘れようとしてももう無理。もう存在することに違和感がなくなり、定着してしまったんだもの。それにしてもさ、僕、思ったんだよ。こいつを殺してカービィから守ってあげることができたのはいいんだけれど、これからカービィはここじゃない地上にでてしまうんだよね。もちろん僕も着いて行くよ、当たり前じゃないか。カービィは僕なしじゃあ生きて行くことができなくなってしまったもんね。だから僕を産んでくれたんだよ。偽りなんかないんだよ。で、ここからでて地上にでたとしたら、カービィの目線はどっちに向いちゃうと思う? きっと君は地上の友達にばかり相手しちゃうんだろうね。君は最初、話し相手が欲しいって理由で僕を作り出したから、きっとそうなんだ。あぁ、そうなんだ。きっと僕みたいなちっぽけな存在になんて目を向けることは無くなって勝手に消滅してしまうんだ。あぃあああ、そんなの嫌だ! せっかくここまできたのに! なんで?! 君には友達がいるの? 僕には君しかいないのに! そんな目ん玉なんかいらない。口も、手も、足も! 僕から離れてしまうんならここにずっと居させるようにメタナイトのクズを生かしておけばよかったんだ! そうすればカービィは嫌でも僕の側にいてくれるのに! もっともっともっと話を聞かせてもらえたのに。あああぐぅっくそおおっ!!!! ……ぁぁぁああ、分かった…そっか、僕がカービィを貰っちゃえばいいんだよ。そうすれば僕がカービィになって、誰とも口を聞かないように過ごして僕のしたいように動いて、だぁれも聞かれない場所でカービィの声を堪能したら、これだけで僕はカービィを支配してめでたしめでたしできるんだよ。殺して自分の物にするナぁんてとっても魅力的な話もやってはみたいよ? でも相手が僕の愛しい人なら、そうみすみす殺したくないでしょ? 生かさず、殺さず、声も聞こえて自分の体に溶けて、さっきはクズを殺すのに必死で全く自分から発せられるカービィの声をまともに聞いてないから、今度はちゃんと聞くね。くふふふごめんごめん。さっきから全然喋ってないけど、どうしたんだ? あぁ、ここの空気に充満した血の臭いが嫌なのかい? それは気づけなくて申し訳なかったよ。じゃ、もう一度。君を支配するね。今度はもう2度と離さないから。ふゲゲゲゲゲゲゲゲゲゲゲゲゲゲゲ』

 グッと重いものがのっかったような感覚と一緒に、僕の意識は遠くなり、さっきダンスを踊った影の住民にまた会った。最初からこうなることに気付いていたのか、すぐさま「おかえり」と悲しい眼差しで呟いていた。

 結論から言うと、僕はもう自分の意識に帰ることはできず、シャドーに体を乗っ取られてしまったらしい。
 ですが、僕は自分の意識(?)の中のメタナイトによく似た住人と僕はそんなシャドーにもう気を取られることなく幸せに暮らしていました。
 僕の声と姿でしか娯楽を楽しめない愚かなシャドー、キミはそれで幸せみたいだね。それはそれは良かった。僕だって、こうして紅茶を飲みながらこの世界のヒトと談話できてとても幸せだよ。本当によかったね。


 ざまァミロ。







thank for ぶるふぇん。


二人とも幸せそうでなによりです。


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