小説2

□ストロベリーティーをもう一杯
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 車椅子に足を引っ掛け、豪快に転倒した。

「……………っつゥ……」
「大丈夫ですか! メタナイト様! …何故こんなところに車椅子が置いてあるんだ!」

 衛兵の一人が車椅子を蹴り、肉屋の前から来たベレー帽を被った少女が気づいたように走ってきた。

「おいこらチンピラァ! なに蹴ってくれてんだよぉ! あたしが手前の玉蹴り上げるぞゴラァ?!」

 少女は衛兵に恐れることなく汚い言葉で威嚇し罵り、何事もなかったかのようにして車椅子の元へ駆け寄った。

「あぁ…大丈夫? かわいそうに、かわいそうに…」
「ぁあーーーーんっ、うあーーーーー!」

 そうか。あの車椅子には赤ん坊が乗っていたのか。それで激怒していたのか…。私はその場でのんびり感心していたら、従者がしゃしゃり出るようにまだ少女に突っかかっていった。私は怪我をしていないというのに。

「小娘ェ! 貴様はどなたと口をきいてると思っているんだ! この国では下の位の、ましてや城にも使えてないただの田舎の村娘が逆らうのは、言語道断で奴隷にすると知ってのことか?!」
「そんなの知ったこっちゃネェよ! じゃああんた、自分の子供がどっかの知らねェ親父に蹴り上げられてそいつに怒らないってェのか?!! 権力よりも何もその時点で関係ねぇだろ! お前は自分の子よりも地位と名誉の方が大事だってんのか?! そりゃ相当お偉いお父様なこったなこのクズ野郎が…」
「な…? 貴様! 暴言罪と名誉毀損罪に値するぞ! ここで殺してやる!! その子供もだ!」

 頭の悪い従者が怒り、腰の剣を抜いた。赤ん坊は泣くのをやめない。少女は赤ん坊を抱いたままぐっと目をつむった。
 私は放っておけばいいのに…「待て!」と従者に声をかけた。

「見た所まだ二人とも子供だ。私も注意せずに歩いたのが悪いんだ。無駄な殺生は許してやりなさい」
「し、しかし…」

 少し困った顔の従者と、此方を睨みながらも少し安心したような素振りを見せる少女。赤ん坊はやはり、いつまでたっても泣いている。
  私はどちらの両方の顔を立てるかのように促し始めた。何故、私はこの娘を、子供をかばっているのだろうか…。

「だが…私が許しても、法律は許してはくれないな。ベレー帽の君はおそらく…牢獄行きは確実だ…。こんな法律以上、そこは守っていただく。子供は……」
「殺処分か? なら私はここで一緒に死ぬ。奴隷のようにずっとあのでかくて下品な城の下で働くくらいなら、この子と一緒に死んだほうがマシだ」
「誠意は認める。だが、赤ん坊は大丈夫だ。殺しはしない」

 少女はホッとした顔をした。ここで初めて、威嚇する目をやめたような、気がする。
 そんなにその子供が大事なのだろうか。自分が産んだ子供? だが種族が違うように見える。それに子供を産むにしても若すぎる。少し、気になってしまうな…。
 それに何故乳母車ではなく車椅子なのか…。

「お偉いさん、あんたがどういう地位の人か知らないけど、どうもありがと。…あたしは何日、檻ン中に閉じこもってればいいの」
「それは………わからない。ただ、よく手を出さなかったな。それが加えれば…この国の法律のことだ。きっと死ぬまで働かされ、過酷で残酷な日々が続いてしまうところだった」
「…ふ、ん……」

 少女は赤ん坊をあやしながら私の話を静かに聞いた。従者は呆然と立ち尽くしていた。

「まぁ、冒涜罪だかなんだか知らないけれど、私を早く裁判にかけな。できれば1日でも早く出してよ。赤ちゃんがかわいそうだ…」
「心配するな。この子は私が見ておく」
「え、あんたが?」

 キョトンとした顔をした後、みるみるうちに私を睨みつける目付きが鋭くなり、子供をきつく抱きしめ始めた。

「殺すんだろ」
「そんなことは…」
「たとえあんたはそうでも下劣で卑怯な王が知ったら殺すんでしょ。そこの阿呆が報告するんでしょ」

 なんとも言えなかった。それは正しかったからだ。少女の言う通り私が口を紡いでいようとも、私の従者がそれを許すはずがないからだ。私がどんなに言ってはならないと言おうが彼らにとってはどうでもよく、関係なく、意味もない。格が上の生き物の言うことを忠実に従うロボット(比喩)。

「…では信用できないということか」
「簡単に言えばそういうことね」
「…………そうか」

 私は少女を横目に、少し従者の方へ、振り向いた。私は間髪入れずに剣を引き抜き、ソレをサックリと、悲鳴のひの字も出る前に割った。それはもう実にあっさりと。首が落ち、前に崩れ落ちるように倒れた。噴水のように胴体部の切断面から赤いもの(???)が溢れ、地面をとくとくと濡らしていた。
 少女も反射的に子供を抱えたままそこから仰け反り、服に少しついたその赤(???)に対してネズミか何かのようにビクビクしていた。

「…これで赤ん坊を言う奴はいなくなった」

 何故なのか。少女はさっきまでの威勢はどこへ行ったのかビクビクガタガタして、ひどく震えていた。

「あ、…………ひゃ……ば………ぁ? ……う……」

 口元を眺めていると途端に冬が来たようにガチガチ歯を鳴らし、舌を噛み汗なのか涙なのかを流していた。何を怯えているのか、全く見当もつかない。
 狂気はもう去ったというのに。

「どうした? 具合でも悪いのか?」

 言って剣をしまい、少女に近づくと赤ん坊は嗚咽とともにまた泣き出した。少女は少女でオーバーなくらい体を跳ねらせ、後ろに叫びながら駆け足で下がっていった。
 法までは裏切れない(笑)私は少女が逃げるのだと思って、自分も駆け足でそのあとを追う。少女は尻餅をつくようにこけてズザズザと後ろへ叫びながら、目を真ん丸くさせて後退した。

「ギヤァアアアアアアアァあ?!!!! はぁああぁあぁああ???!!!!!!!」
「逃げるんじゃない! 赤ん坊は匿えてもお前は…」
「アアアアアアアアアアアア!!!!!!!!!!! ああああああああああああああああああいああいごめんなさい!!!!!、! ッヒィイイイ?!!!!、!!」

 焦点の合わない少女は体を砂まみれにさせて頭を地面にガンガンぶつけながら謝ってきた。ごスッ、ドスっ、と、やけに鈍い音が地面から聞こえる。少女の頭はいつの間にか血まみれになり、傷口に砂が大量にめり込んでいた。何をそんなに怖がっているのかわからない。わからない。なんだ?
 ふとした瞬間に、奇妙なことに私はこの少女に腹が立ってきた。私は子供の命を救ったのになぜ怯えられているのか。まったくわからなかった。そう思うと私はまた剣の柄を握っていた。気づいた少女はただ必死に謝っていた。反省文まで口でなぜか唱え出した。なんと言ってるのか。こんな青い星の言葉で聞かされてもわかるわけがない。

「メタナイト様!」

 切れた従者よりも下っ端の下っ端で、しかも新人の兵士が寄ってきた。この少女の叫び声に来たのだろうか。

「どうかいたしましたか? 村中に声が響いてますよ?!」

 少女はヒィヒィ言いながら兵士を見つけた瞬間まるで自分が赤ん坊であるかのように高速に這い寄っていった。兵は少し驚いていたようだった。

「あっ、あっ!! ……………ッ!!!! 〜〜〜〜〜っ!!!」
「な、なんだお前は…?!」
「ちょうどいい。君、この娘を牢に入れなさい。陛下には後で説明すると伝えておく」
「は? はぁ…。あ、でもそこの赤ん坊は?」

 少女は言われて後ろを振り向いた。そうだ。途中で自分だけ恐怖のあまり置いて逃げてしまっていたのだ。私の顔と赤ん坊を交互に見渡し、その瞬間に青冷めて赤ん坊に向かおうとした。その前に私は赤ん坊を拾い上げた。不思議なことに少女の顔は安心どころか余計に戸惑っているようだった。

「この赤ん坊は関係ない。君はおとなしくその少女だけ連れて行きなさい」
「……っ!!! あああッダメェエえええええええええええええええええええ!!!!!!!」
「あっ、貴様!」

 少女に兵士が羽交い締めし、私の方へ来させない、もとい逃げないようにした。少女は暴れに暴れ、いちいち高い声をキィキィ叫びあげていた。そんなに赤ん坊が大事なら最初からいらないことを無駄にベラベラと言わずにとっとと何処かへ行けばよかったのに。…もしかして、この国の法律を知らなかったとか? 最近きたばかりの異国の者という可能性も出てきたな。…この国の王は他国でも有名だから知っていたのだろうが。

「お前の強がりが招いた結果だ。恨むのは勝手だが、今後のことも『誰』のためになるのか。ちゃんと考えて選択なさい」

 少女は、口を紡ぎ、兵に首根っこを掴まれてトボトボと城の方に歩き出した。…以外と時間がかかったな。

「アふっ…う〜〜………」

 赤ん坊はぐずっていた。



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