小説2

□ストロベリーティーをもう一杯
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「カービィ、今日はもうここまでにしよう」
「うん、メタナイト」

 僕は手すりから手を離す。足から崩れ、すぐにメタナイトが支える。
 僕は生まれた時から足が動かなくて、医者によると死ぬまでずっと動くことはもうないらしい。でも、メタナイトは足が動かないと知ってもずっと付き添ってリハビリを懸命にしてくれる。

「…僕、足が本当に良くなるのかな」
「何を言っているんだ、当たり前だ。何度も練習し、何度もなんどコケれば、相応の技術が身につき、お前は歩けるようになる。絶対だ」

 メタナイトはいつもそうやって励ましてくれる。僕自身の力で地面を歩けるように。いつもそうやって。

「それよりも、今日は…」
「あ、そうだね! 行かなきゃ!」

 車椅子に乗っけられ、はやく、はやく、と僕はせがむ。
 今日は悪い奴らが処刑される日。死ななきゃ罪が償えないような奴らが村人全員の前で死ぬんだ!

「早く行こうよ! 『お父さん!』」
「…お父さんと呼ばなくてもいい。いつものようにみんなの前でも名前で呼んでくれ」
「…うん、メタナイト」



 家から出て7分。処刑の鐘が鳴り出した。ぞろぞろと縄を巻かれた受刑者たちが葬式のように後に続いて並をでいた。

「たくさんいるね。ひふみ、しぃ。…5人もいる」
「老人から赤ん坊までたくさんのヒトビトが見に来ている。これは、あの受刑者のように晒し者にされて惨めな思いをしたくなかったら良い子でいるんだぞ。という暗示でもある。立派な行事だ」
「へぇ…でもなんだか野次馬のような気持ちだな。ここにいる人たちみんな好奇心できているようにも見える」
「…大人の場合、大半は野次馬だ」

 処刑台の下にカタツムリが立ち止まり、紙を広げて何かを演説しだした。どうやら彼は死刑執行の司会者であるらしい。長たらしい文章をタラタラとのべていた。

「あのヒトは確か王様の側近だよね。なんでその側近が死刑執行の司会者をやっているの?」
「さてね」

 長い長いお言葉を語った後、カタツムリは口をパクリと閉じ、民衆の中に消えていった。待っていましたと言わんばかりにヒトビトが騒ぎ始めた。これから処刑が始まるのだろう。鋼鉄のマスクをかぶった小太りの男が大斧を持って表れた。

「あの人見た目が王様の体型によく似てるね」
「…さぁてな。ただのそっくりさんじゃあないのか」

 言われてみれば…本当にただのそっくりさんなだけかもしれない。だって、僕は近くで王様を見たことがあるわけでもないし。遠目にしか見たことがない。でも、あの時着てた服にちょっと似てる。それになぜ濁すように言われたのか。僕は尋ねてみようと思った。               だが、そのことをかき消すほどに、村人が一斉にワーワー叫び声と歓声のような声を上げた。1人目の受刑者が首を落とされたようだ。僕は不謹慎にもはしゃいだ。処刑者のことはどうでもよくなった。

「メタナイト! 一人目の人が処刑されたって!」
「そのようだな」
「ねぇ、もっと近寄れない? ここからじゃどうなってるのか見えない!」
「近よろうにも…見てわかるだろうがこれだけのヒトだ。近づこうにもこの人だかりにこの車椅子だと…」

 メタナイトはたじろいながらキョロキョロしていた。しびれを切らした僕は「わかった」と声を荒げた。

「じゃあ僕一人で行く」
「は?」
「上を通るより下を通れば比較的楽なんだ。だからメタナイトはここにいて、僕は前に行くから」
「何を言ってるんだ。まったく…おい、コラッ! カービィ!」

 僕はメタナイトの制止にも関わらず腕の力だけで車椅子から飛び降り、人々の足の間をくぐっていった。足の力はないから匍匐(ほふく)前進でどんどん前へと進む。
 もし道のどこかで腕を休めて休憩したとしたら人々に踏まれてしまうことだろう。僕は休憩もなしにぐんぐんと前へ前へと匍匐前進する。

 進んで、足と足と足と足と足を通り過ぎると、やっと何もない場所に出た。後ろの方には飛んでいなかった真っ赤な血が辺りを満たしていた。僕は大はしゃぎした。

(すごい! 僕が移動してる間にもう2人も処刑されたんだ! あとは2人、移動して見れなかった分こんな間近で観れるんだな)

 僕はそこで座り込み、ワクワクしながら処刑のさまを見ていた。四人目はどうも女の子らしく、見た感じ罪を犯しているようには見えなかった。人は見かけによらないものだと感心しながら見ていると、女の子は台の上に首をおき、ぐっと睨みを利かしたように周りを見ていた。僕はヤンヤヤンヤと喜んでいると、女の子は気付いたのかこちらを見た。女の子は目を丸くし、やつれた表情で「カービィ」と、か細い声で僕の名を呼んだ。

「カービィ、あああ、カービィ…! ああああああああ! よかった、生きてたのね、良かったァ…っ」
 僕はキョトンとしながら不審なものを見るような目をしていた。なんでこの犯罪者は僕の名前を知っているんだろう。僕はこの人を知らないのに…。

「おい! おとなしくするぞい!」
「痛っつぅ! 何すんだよ! …ッ、いい? カービィ。あたしはえん罪、えん罪なの! 兵士と口論しただけ! あなたも見ていたでしょう?! あなたが真実を知ってるの! あたしは殺されるようなことはしてない、本当は牢から出て一刻も早くあなたと一緒に暮らすことができたのに、次々と知らぬ間に新しい罪が捏造されて、今、こうやって殺されようとしている! 私は何もやってない、カービィ、あなたは…あなただけは知っていて…」

 胸がざわざわした。僕は…この人を知っている。きっととても小さな頃に、だ。でもおかしい。メタナイトは僕が生まれた頃から母親なんていなかったと言ってた。なのに、なんで僕の名前を、この女の人は知っているというの?

「ーーーーーーあ、あなたの名前…は?」
「あたし? 私の名前は………、っ!!!」

 不意に僕の目と耳をぎゅうと後ろから抑える人がいた。女の人が何かをぎゃあぎゃあ叫ぶ。その直後に斧のズシンという響きと骨の砕ける音に体をびくりと震わせた。
 僕の体から手が退かれ、目の前には無残な姿となった女の人がいた。観客は嬉しそうにワーワー騒いでいた。

「カービィ、私を置いて一人へ行ってはいけないよ。
 まだお前にはこんな近くで見て耐えられるような歳ではないんだから。いいかい、近くで見る時は私と一緒だ」


 斧を持った男は最後の受刑者の前に立ち、斧を振り上げ、ごうと振り下ろした。目の前で飛んでいく首に周りの観客は大喜びしていたが、僕はどうもそういう気にはなれなくなっていた。
 僕はそんなことよりも、ずっと気になることができた。

 ……。

 あの女の人の声が塞がれた耳の隙間から聞こえた。

『こいつだ! あたしの宝物を奪ったクソ野郎は。何もかもぶち壊してくれた。あたしの罪を捏造したのもこいつだ。こいつがやったんだ! 許さない。その汚い手を早くどけろ』

 僕は悪い予感がして、一刻も早く足を良くしようと思った。そしてここじゃないどこかへ逃げようと思う。
 メタナイトは僕の腕を痛いぐらい掴む。


 観客はぞろぞろと血浸しになった場所を離れていった。





 了



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