小説2

□痛辛
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 いた

いた

 いたずらって

 楽しいな♪

 誰かに足を引っ掛けてやれば
 誰かがこけるのサ。
 するとそいつは血眼になって、もともと可愛くない顔に眉間のしわを寄せて必死に足を引っ掛けた人物を探し出すのサ。
 もうその姿がおかしくっておかしくって。木の影とか岩の影からその様子をこっそり見て腹を抱えて笑うのサ。
 そして僕を見つけられなかったそいつは悔しそうに歯ぎしりを鳴らし顔を真っ赤にして血筋を浮かべたまま、挙句はヒックヒックと鳴き出しながら、僕を追い求めたそいつは、諦めて本来の目的の場所に行くのサ。
 道中起こったこの出来事はきっと誰かに話される。愚痴だったり笑い話だったり。なんにせよそいつは僕のいたずらの話をするのサ。頭ん中は僕に対する憎しみでいっぱい。

 でも顔はわかんない。
 悲しいねェ。憎たらしいねェ。仕返しだって出来やしない。してくるものなら一捻り。どうせかないやしないのだから。

 僕はここまでを同居人たちに話した。クツクツと笑いながら話し終えて顔を伺う。一人はすごく微妙な顔をしている。もう一人は呆れた顔を。もう一人は聞いちゃいなかった。

「マルク…」

 微妙な顔をしていたのはカービィだった。タランザと一緒にこの家でお茶をしていたのを、僕がついでに話したのだ。勿論カービィにだって幾度となくいたずらした。紅茶に虫を入れる、足を引っ掛ける、こっそりカービィの部屋の扉に南京錠をつけて出られないようにして恐怖感を煽らせたり。気づかれているのか? いないのか? まだまだいろんなことをしたけれど、相も変わらず関わるってことは気づいちゃいないのだろうか?
 呆れ顔のタランザは僕の分の紅茶をトクトクと淹れてそのたくさんあるうちの手の1つで差し出した。僕は快く受け取り、一飲みした。丁度いい。話し終えて喉が渇いていたところなのサ。半分残ってるカップを机に置き、したり顔で彼らを見渡した。

「ねぇ、いたずらって…楽しい?」

 カービィはお説教でもしたいのか、僕に無難な質問をしてきた。この質問ももう何千何万と聞いてきたけど、よくも飽きないなぁ。

「アァ、そりゃ愉しいのサ! 愚かな住民どもが僕一人のいたずらで直ぐに困惑する様を見るなんて、これ以上面白いものがあるカイ? 平和ごっこして今はお前らも庭に放たれた犬みたいに無防備になっちゃってるケド、僕がまた悪さをすりゃ一瞬でこの世界も落ちちゃうだろうねェ。あは、アハアハあははッ!」

 少しの侮辱を混ぜながら僕はそう言ってやった。僕がまたケセケセと笑うと、大きなため息が端から聞こえた。

「マルクもしょっぼい生き物になっちゃったねェぇ…」
「アハア……………………は?」


 嫌味を言うのはさっきから僕に背を向けて紅茶を飲んでいたマホロアだった。ヒトが気分よく話しているといけしゃあしゃあと割り込んできやがって…それまで関係ありませんと素知らぬ顔をしていた割には正論を言ってくるから嫌いだ。

「どういうことなのサ。マホロア」
「そのまんまの意味だヨ。マルク。いたずらでヒトの気を引かそうとしてる時点で、本当に馬鹿で愚かなのはどっちなのか、分からないノ?」

 ヒトの気を引…????
 マホロアはこっちを向いて、まるでダンボールの中に雨に濡れて引き取り手のない犬を見るかのように僕を見ていた。このまま誰にも拾われることもなく死んじゃうのか。可哀想に。と、目が、目が、そういう風に見える。

「そうだよネ。わかんないネ。ねぇ、僕たち、なんで今一緒に住んでるか知ってる? 僕たちには家…帰るところがある。僕はローアに、タランザはセクトニアのところに、カービィは本来自分の家であるここの自分ン家に。でも君は? 君はどこに帰る場所があるの? 最初に君が押しかけてこの家に住み着き始めて、カービィのお人好しがでて僕らも呼ぼうってことになって住まわせてもらってるけど…。
 ネェ。君はどこに帰る場所があるの?

 寂しいんでショ? だから呼んだんでショ? 最初遊びにおいでよって来たのに、いつの間にかここに居ろここに居ろって君が言い出してずっといるけど…いつでも帰れるヨ? 僕たち。

 あ、ほら。
 今顔がグジャってなってル。
 本当のこと言われて何も言い返せないってところカナ?
 ついでに言っとくと…君のいたずら、構ってもらえるのが嬉しいからやってンでしょ? 死なない程度に、気にかけてもらえる程度に。
 悔しそうに歯ぎしりを鳴らし顔を真っ赤にして血筋を浮かべてもらうこと、挙句にヒックヒックと鳴き出しながら、君を気に求め捜してくれていたその子は、諦めて本来の目的の場所に行って、道中起こったこの出来事を誰かに話してもらう。愚痴でも笑い話でも、君の話をするワケだ。頭ん中は君でいっぱい。
 …嬉しいネェ。気持ちがいいネェ。でも、顔はわかんない。
 仕返しだって構ってくれるから嬉しいネ。してくるものならまた遊ぶ。どうせそうやって続けていく。

 違うカイ? 構ってちゃん?」               

 化け物の腕を降りマホロアをぶっ叩いた。このとき僕は一体どんな顔をしていたのだろう?
 金色に光るハートの形に尖った部分で何度もザック、ザックリと突き立てた。悲鳴の1つもあげずにのたうちまわり布切れのボロカスみたいな姿になる。
 高い声で悲鳴をあげたのはタランザだった。ぼーっとしたカービィを抱え上げ、家の外に逃げようと素早く扉に駆け出す。すかさずタランザとカービィの間に翼を突き立て走ることに、逃げることをやめさせた。
 まだハ、ハ、ハとか細く笑う声が聞こえる。

「そんなことしてい…ノ? 僕たちともうオ話できない、ヨ…? マルクのソノ…ちっこい、チッコイ武勇伝を聞いて…あげラれなくなるヨ…。激情に任して…マルで…女みたイ…都合悪そうだ、ネ。君に関わるなんて。もうコリゴリだヨ…君に構ってあげるほど僕には…余裕がないヨ。君の自慰行為に付き合うほど…暇してないン、だ」

 自然とゴリゴリと鳴り出す歯軋り。僕は
―勿体無い―
折角の
―自分の相手をしてくれ―
僕の愛おしい
―存在証明してくれる―
友人に対し
―引き立て役―
ドゴンと
―僕の話をして―

その翼で…


   *


「……行ったのネ?」
「タランザ…マルクが…あぅ、あ…マホロア…ッ!」
「静かにするのね! まだ行ったワケじゃないのね。
 …カービィ、よく聞いて…マルクは…小さい頃から一人ぽっちだったのね。友達はワタシとマホロア。他にもいるのかもしれないけど…見た感じよくツルんでいたのはワタシたちくらいだったのね。彼は愛情不足が原因かもしれないけれど…とても寂しがりやなのね。マルク、とても怒ってたけど結構それに対して無自覚で…自分はそうじゃないと、認めないのね。だからか知らないけど…不安定なくらい怒っていたね。認めたくないのね。自分が寂しがりやで、構ってもらいたがりなのを。
 それまではなんともなかったけど……カービィ、君がきっと優しくしすぎたのも原因だとワタシは思うのね。優しくしてもらって自分のことを見てもらえる人物がいるなんてこれ以上にない喜びに決まってるのね。それに付け入った結果、こうなっちゃったのだろうね。
 マルクにはもう関わらないほうがいいのね。自分に都合のいいように使われて気を使って…あんなグサグサ刺されるくらいボロボロになるカービィなんて嫌なのね!」
「な、なんで僕なの? 僕じゃなくって他のヒトでも喜んでそうなのに…」
「…実は、君じゃなくてもいいのね。あの手のは誰でもいいのね。相手をしてくれたらそれで十分。でも一番のお気に入りが君に向いているだけ。批判したり、逃げたりしようものならトラウマを植え付けさせようとでも逃さないようにするはずなのね」
「そっか……」
「………、……………」
「……………………」
「……………………」
「…………? タランザ?」
「カービィ…ワタシはどうも…助けてあげられそうにない……のね…」
「えっ…?」
「すぐに逃」

 バタッとタランザは崩れ落ち、背中からは血がドロドロと漏れ出し、倒れていた。カービィは息をヒュッ、ヒュッとすいこ、ゆっくりガクガク顔を上げた。

「カービィは、違うよね? こいつらの言うこと…デマカセって信じてるよね?」

 僕がその世間一般で言う構ってなら、世界中の生き物みんな相手なんてしてもらいたがりばかりサ。

「カービィは僕から離れたりしないよネ! 離れたりしちゃったらぼくううううううううううううううううううううあううう……………………………………………」





了   







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